見出し画像

地味に奇なる移動・つまみ・ビーフカレー・そしてポテト

ある日チビコと庭でおままごとの料理をしていたら「サラダとナッツとサラミとポテチ」という、やけにリアルな取り合わせの皿が出来た。見かけこそ全然違うのだが「かさこそ」って皿の上を滑るドングリと木くずの音や、ちょっとウェットな葉物が運ぶ時の風で飛ばないように気を配る感じなどはもう、本物と何ひとつ違う所が無くて「別に食べたく無くたって手が伸びちゃうよね」という、どうしようもない思い込みがせり上がって来て、そのせり上がりが私を大きな面で押したのを一瞬感じた。

どうやらチビコもそうだった、らしい。

我々は普段ならありえないのだけど、ほぼ無言でおままごとの皿を手放し、なんとな〜く、どちらともな〜く、一反木綿のようにぬる〜っと、生暖かい風に運ばれたみたいに気付くと部屋に戻っていて、ほぼ無言のままにサラダとナッツとサラミとポテチを皿に盛ったのだろうが、さして記憶もなく、(かといって全く記憶が無いわけでもなく)チビコはYouTube見ながら、私は本を読みながら、たまにそれらをかさこそ食べていたら夕日が射して来た。

…なにこの気持ち悪い文章!って思うんだけど(笑)2人してほぼ無意識で移動や料理やくつろぎを終えた、あの奇妙な空気はこういう感じだった。あまり驚きも無かった。

そしたら玄関先にちっちゃな女の子の声がして、ほどなく男の子達の声が庭に回ってきた。そのお父さんと思われる人達の声、ジイジの「危ないからそこには乗らないでねー!」という大声。あっという間に庭で10人以上が遊び始めたようだった。

最近は随分慣れたものの、私は急な来客が怖い系。動悸で心臓がウサギみたいに飛び出しそうなのをギューッと捕まえながら思う。
私の苦手を知っているジイジ達はいつも来客を事前に伝えてくれるが、今日は伝わっていなかった。こういう事もあるさ。しかし、もしあのまま庭で遊んでる所に大勢がやって来ていたら、ワシは大ピンチだった‥!だけどそうならず、あの妙〜な経過でちゃんと部屋にいた(笑)庭、おつまみプレート、みんな、なんなんだかわからないけれど、すごい!どうもありがとう!


チビコは小学生の来客達が嬉しくて
「ちょっと見てくるね!」
とモリモリ出て行き、程なくみんなに紹介されている声が聞こえた。庭遊びのデモンストレーションを買って出ている、いい調子な様子も。良かったなあっ!こういう子に育って。

私は外から姿を見られぬよう、のしのし這って行って地底人のようにカーテンを閉めた。少ーしだけ、外をのぞいてチビコの超楽しそうな姿を目に焼き付ける。

夫くんが帰って来るなり、私は自分の心臓を抱きながら、軽トラでこの家を脱出した。
海の上の雲が、どんどん沖へ流れていた。軽トラはドーナツの甘い匂いがしていた。

こんな機会でもないと外食しないから、チビコの事はバアバ達に任せて何か食べて帰ろうよと夫くんが言い、船みたいに海に突き出してるファミレスに入った。
広いシートに座り大きな窓の外を見る、真っ暗な水平線の上に車達の光がピカピカ、ウゴウゴと蠢いていてかわいくってしょうがない。

「好きなものをジャンジャン食べていいですよ!」

という夫くんの声は、魔法のようにファミレスを美しく縁取った。私はビーフカレーとフライドポテトを頼み、夢の中の食事と同じペースで氷上を滑るように食べ終えた。
夫くんがのんびりよそ見しながら、空っぽのポテトのカゴの中に手を伸ばした。ちょいちょいと調べている指達のステップが可笑しく、「ごめんよ、食べちゃったんだ」と言ったら

「早いっ!!」

と結構驚かれた(笑)