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シリコンバレー銀行破綻と日本のスタートアップ業界への影響についての解説

米国のシリコンバレー銀行が破綻したことが、日本のスタートアップ業界にどのような影響を与えるのか、その背景と対応策を解説します。投資家の皆様にとって、事実を正しく理解し、漠然とした不安の解消に少しでもお役に立てましたら嬉しいです。

この記事は、経済アナリストの馬渕さんが、下記のイベント内で「シリコンバレー銀行の破綻に関する解説」をした内容をもとに書いています。


米国の銀行破綻・経営危機の背景整理

まず、シリコンバレー銀行破綻との背景を整理します。

シリコンバレー銀行は、全米16位の規模で、2022年末時点の総資産は約2,090億ドル(約28兆円)でした。しかし、預金の引き出しや債券投資の損失により、バランスシートが崩れ、破綻しました。SNS時代において、信用不安拡大の加速につながっています。

また、全米14位のファースト・リパブリック銀行も経営破綻の恐れがあると報道が続きました。

また、米国だけではなく、クレディ・スイスの経営危機も続いたことが、世界の金融情勢に関する不安につながったと考えています。

理解しておきたいことは、クレディ・スイスの経営危機は、不祥事や巨額損失問題で業績が低迷し、資本が棄損している点がシリコンバレー銀行と異なるということです。

米国の銀行破綻と、クレディ・スイスの経営危機は違った要因から起こっていることは理解しておきたいポイントです。

続いて、上記の破綻や経営危機に対して、どのような対応があったのかを整理していきます。

「スピード感」と「連携」ある対応

対応を一言でまとめると、スピード感と連携ある対応をとり、特殊な危機への対策をとっていると言えます。

シリコンバレー銀行とシグネチャー・バンクの預金を全額保護の対象にすることで、賛否両論があるものの、当局の迅速な対応があったことに注目です.


銀行破綻移行、現在も銀行から預金者の引き出しが続いています。一方で、銀行側は貸し出しの基準を引き締め始めています。これは、ドルが循環しない状態です。

ドルの目詰まりがおきると、どこかで破綻が起きかねません。

そこで、3つの大きな対策を取っています。

1.中央銀行が民間銀行の資金を融通
米国では取り付け騒ぎがおきた対策として中央銀行が市中の銀行に対して、資金が枯渇しないように資金供給をしています。市中の銀行が持っている米国債など質の高い証券を担保に中央銀行が貸し付けを行います。具体的には3月12日に発表されたBTFP(銀行ターム・ファンディング・プログラム)という仕組みです。

ようは、FRBが銀行に米国債など質の高い証券を担保に額面満額で最大1年貸し付けるオペをしています。しかし、米国の中小銀行のバランスシートで預金の残高はおよそ5.4兆ドル(負債)、一方で、国債などの有価証券の保有残高は9300億ドル(資産)で預金に占める割合はまだ17%程度。預金流出がおきたときに、BTFPだけで吸収することは難しいと言われています。そこで、次の対策があります。

2.民間金融機関同士が連携して中堅銀行を守る
2つ目の対策が、3月17日に発表された、米大手銀行11行が協力し合うという、異例の支援です。

JPモルガン・チェースやバンク・オブ・アメリカなど大手銀行11行が中堅銀行ファースト・リパブリック・バンクに対して合計300億ドル(約4兆円)を預金すると発表しました。

米国内で、中堅銀行からの預金が流出して、大手銀行に一部預金が集まる動きがあります。信用不安の拡大により、国民の考えとしては大手銀行の方が安心だとの心理が働くわけです。ただ、この動きが加速すると、正常なハズの中堅銀行のバランスシートが傾くことで破綻する可能性を否定できません。大手銀行としては、金融システム全体の安定を計るためにも、中堅銀行を破綻させない事を望みます。そこで、大手銀行から中堅銀行へのドルの供給を行い、国内でドルの循環を作っています。

3.日米欧の6中銀、ドル供給強化で協調
最後に、世界レベルでドルの循環を作っています。
3月19日に日米欧の6中銀、ドル供給強化で協調を発表しています。

FRB、欧州中央銀行(ECB)、日銀、カナダ、英国、スイスの各中銀の6つの中央銀行が連携してドルを融通し合います。具体的には、FRBがほかの中銀に対してドルを融通するスワップ(通貨交換)を強化しています。銀行破綻以前は、各中銀がドルを供給するタイミングは1週間おきでしたが、毎日行うことを決めました。

こうして、世界レベルでも連携してドルの資金繰りで目詰まりが起きないように対策を早期に打ち出しています。

3月10日にシリコンバレー銀行が破綻してから、たった9日以内にこれら3つの対策が早急に打ち出されました。

リーマンショックでは対策が後手に回った教訓から、今回の当局の対応は非常に早かった点が特徴です。株式市場の値動きを見ていると、これらの発表以降、落ち着きを取り戻している点から、一旦、は信用不安を落ち着かせる効果があったと言えます。

ただ、完全に火種が消えたわけではありません。
中堅銀行のバランスシートにはバラツキがありますので、財務上の懸念が引き起こされた場合に迅速な対応を取ることが求められます。危機が個別企業の事象に留まれば、金融システム全体に不安が拡大するまでには至らないというのが今の考えです。

クレディ・スイスの問題

次に、クレディスイスの経営危機に関しては、UBSが買収の動きとなりました。注目は、AT1債(2.3兆円)は無価値とされたことです。これは、債券よりも株式が守られるという異例の順番です。

AT1債とは「Additional Tier1債券」の略称で、債券の中でもリスクが高いものです。金融機関が破綻した際にお金が戻ってくる弁済順位が一般の債券などより低い半面、利回りが高く設定されています。リーマンショック以降、銀行が自己資金比率を高めるように規制されましたが、AT1債は自己資本に換算されるため、欧州の銀行はAT1債を用いて資金調達を続けてきました。欧州での発行総額はクレディ・スイスを除き2500億ドル(約33兆円)規模とみられます。他の銀行でAT1に投資している投資家からすれば、同じようなことが起きかねないと不安の火種を残している状態です。

ただ、ここでなぜ、クレディ・スイスを経営破綻させて株式の価値をゼロにせずに、クレディ・スイスの債券の価値をゼロにしたのか。この判断を意味を考えると「この規模の銀行の経営破綻は避けるべき」との判断です。世界トップ30に入るクレディ・スイスのような大きすぎる銀行は潰さないという意思決定が行われたと考えるのが妥当です。

スタートアップ業界への影響と金融情勢の変化について

結論は、シリコンバレー銀行はスタートアップや暗号資産業界と主に取引していた特殊な事例であり、日本の一般的な金融機関やスタートアップ業界への派生は考えにくいとされています。

もちろん、米国の景気後退不安によって株式市場の大幅な下落から実態経済に及ぼす影響は十分に考えられます。スタートアップ業界への影響は一般的な株式市場の値動きに大きく影響します。今のところ株式市場は堅調に推移しています。銀行破綻後の金融システム不安拡大のなかでも日経平均は24,000円を割り込むどころか、26,600円台までの下落に留まっています。

不安を感じる情報が多いですが、データを基に分析すると投資家たちはそこまでネガティブな判断をしていないことが分かります。

外部環境の分析は感情に流されず、事実と向き合いながら、冷静な投資判断をしていく必要性を感じています。

上記の判断軸の参考には、馬渕さんのYouTubeもぜひ参考にしてみてください!

最後に、今後も注目しておきたいのは、米国の金融政策の動きです。

FOMCは、声明を「継続的な利上げが適切だろう」という表現から、「追加の政策形成が必要かもしれない」という表現に変更しました。
2023年末時点の政策金利の見通しは、中央値が「5.00-5.25%」となっており、前回と同様の見通しです。

FUNDINNO noteでは、今後も外部環境の変化をお伝えしていきます!

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!

より、詳しく『銀行破綻後の世界経済の見通し』にご関心のあるかたは馬渕さんのnoteをご覧ください。

米銀行破綻後の世界経済の見通し【1】(対策編)

米銀行破綻後の世界経済の見通し【2】(ノンバンク系)

米銀行破綻後の世界経済の見通し【3】(日本編)

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