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懲役ダイアリー 2016年12月31日土曜日 刑務所の大晦日

『またやるんじゃないか?』

女の子にもしたことのない壁ドンに不安を覚えた私、昨晩は毛布を体に巻きつけて、ベッドの隅で寝ながら壁ドンしないよう意識して就寝した。

『昨日は壁ドンなかったっすよ。』

どうやら大丈夫だったようで安心したが、相変わらず生意気なやつだと思った。

今日は大晦日、刑務所の大晦日は受刑者が唯一夜更かしが許される日。

テレビは0時まで放送され、ラジオは就寝時間の0時15分まで放送となる。ただし、22時以降は部屋の明かりは非常灯に切り替わるので、22時までしか本を読んだり手紙を書いたりすることはできない。

でもお菓子は0時15分までテレビを見ながら食べられる。謎の規則。

大晦日といえば

「紅白歌合戦」

刑務所でリアルタイムにテレビを放送してくれるところは見られるらしいが、島根あさひ社会復帰促進センターの場合は、一度録画したものを放送するのでリアルタイムに紅白を見ることはできない。紅白は年明けの1月1日に放送される。リアルで見られないのは少し残念だ。

堀江貴文さん著書の「刑務所なう」にも記述があったのだが、刑務所では前日に見たテレビの内容ので受刑者同士の話がめちゃくちゃ盛り上がる。

『昨日出てた石原さとみと北川景子結婚するならどっちがいい?』

『乃木坂とやりたい』

『白石麻衣1日刑務所長でこねえかな、号令かけられたい。』

『それいいな!白石麻衣刑務官だったら、担当台前まで永遠に離席するわ!それか、調査になって二人きりで取り調べられたい!!』

こんなくだらないことをいつもいつも話している。

完全に厨二病・・・。

『お前の今日のお菓子よこせ。どうせ食わないんだろ。』

こんな話もどこからともなく聞こえてくる。

大人の幼稚園・・・。それが刑務所。

全員が全員そうではないけれど、大晦日に事実としてこんなことが日本国内の閉ざされた空間の中で日常の風景としてあることを記録しておく。

この日の午後のテレビ・・・あまり興味のない放送だったので、高卒認定試験に向けて倫理の勉強もするも、睡魔に襲われたため終了。代わりに英語の勉強をするも・・・眠くなる。

夕食は年越し蕎麦が出た。なぜかデザートにみかんも。どうやら官は季節を感じるイベントや食事などには力を入れているようだ。恐らく、閉ざされた空間の中で日々を過ごすと日にちや季節の感覚がなくなってしまうからだろう。

刑務所ではナマモノが全くでないので、こういうみかんのような生のフルーツは受刑者にとっての何よりのご馳走だ。

夕食後、ユニットリーダーを中心としたグループの席に座り、色々なことを話す。そこで仮釈放がどれくらいもらえるかについて教えてもらった。

話によると、真面目に服役して何も罰則がない人でも、罪状にはよるが平均して5ピン程度の仮釈放をもらえているとのこと。ユニットにいる受刑者を見て、話を聞いていてそう見えると教えてくれた。5年の懲役刑であれば1年くらいは仮釈放がもらえる計算だ。

考査の時に上役の刑務官に

『真面目に務めれば3ピン、4ピンは仮釈放をもらえる』

こんな風に聞いていたのでちょっとがっかりだ。

仮釈放の手順を記しておく。

パロと呼ばれる書類が届いたら、目安として半年後に仮釈放になる。詳細はこんな感じだ。

パロと呼ばれる釈放に向けての書類が届く。この書面を記入し刑務官へ提出する→(2ヶ月後)準面と呼ばれる更生保護委員会の方との1回目の面接→(2ヶ月後)本面接と呼ばれる更生保護委員会の方との2回目の面接→(4週から8週間以内)釈前(仮釈放前指導棟)へ移動→(2週間後)釈放

こんな流れで釈放になっていくらしい。私にはまだまだ先の話だし、こんな話を聞いてもまったくと言っていいほど、現実味はなかった。

今年一年、本当に色々あった。警察の留置場で年越しをし、3月に房の畳の隙間からダンゴムシのような得体の知れない虫が出てくる薄暗く寒い拘置所を保釈で出て、家族と思い切り温かみのある時間を過ごしたのは私の宝物となった。妻や子供とも沢山の思い出を作った。

留置場で同じ部屋だった人が拘置所に面会に来てくれて、漫画の差し入れをしてくれた。凄く嬉しかった。

人生で初めての刑事裁判も受けた。求刑9年と検察官に告げられた時は、人生が終了したと感じた。

東京拘置所の雑居房で殺人犯の隣で寝た。

『川に流さないで埋めときゃよかったよ。』

こんなことを言ってる人間の隣で寝る・・・

あれほどの恐怖体験は今までしたことなかった。

今までの人生の中で一番濃い時間を過ごした2016年。

様々な気づきがあった。

この気づきを忘れずに心に刺青のように刻み込んで生きていきたい。そして出所したら家族を幸せにしたい。いや、する。

素直に誠実に生きるのが一番だ。

よし、年越しだ。映画を見ながら楽しく年を越そう。

今年も一年私も家族も無事に過ごせたことに感謝。

全ては順調に進んでいる。人生の成功に向けて。



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