スポンサー収入とチーム人件費
クラブパートナーなど、いわゆるスポンサー企業の純粋な疑問として、スポンサー費用、広告費用はきちんとチーム強化に使われるのか?という点があるでしょう。まず、広告費用に対する価値は無限大だと思いますので、積極的に応援しましょう。その裏で、クラブの中では、ユニフォームを作成したり、看板を作成したり、冠マッチなどのイベントを開催したりと、広告収入と同時に発生する直接費や原価があり、全額を自由に使えるわけではありません。
自由に使える部分を何に使うかと言えば、クラブの運営費です。選手やコーチにかかるチーム人件費、チーム運営費、ホームゲーム運営費、アカデミー運営費、販管費などがあります。それはわかっているものの、できるだけチーム人件費にかけてほしいのが、スポンサー企業の偽らざる本音ではないでしょうか。出したお金でチームが強くなる、そんなことを期待してクラブパートナーになっている企業が大半かと思います。
先日、柏と湘南を除く(以下クラブ等の敬称略)、J58クラブの2023年度のクラブ経営情報がJリーグから開示されましたので、スポンサー収入とチーム人件費の関係について、眺めてみたいと思います。
ですが、Jリーグの開示資料は少し扱いづらいので、例によって「Jクラブ経営情報ポータル」を参考にします。
スポンサー収入とチーム人件費を比較したいので、損益計算書、営業収入、営業費用の3シートを結合してみました。(noteでGoogleシートのサムネイル表示ができるようになりましたね)
ここで、いい言葉が見当たらなかったので、ひとまず「強化効率」と表現することにしました。結果的に3種類の指標があり、
・強化効率A = チーム人件費 / スポンサー収入
・強化効率B = チーム人件費 / ( スポンサー収入 + その他 )
・強化効率C = チーム人件費 / ( スポンサー収入 + その他 + 特別利益 - 当期純利益)
としています。詳細は事例を見ながら説明していきます。
はじめにチーム人件費をスポンサー収入で割った強化効率Aを出したところ、とくに上位クラブで結構なばらつきが出ました。その他売上に大きく差異があるのが原因です。Jリーグフォーマットと呼ばれるこれらの科目分類は、ガイドラインは示されているものの、何をどこに入れるかを最終的に強制されているわけではないので、クラブごとに税理士や監査法人などの見解も含めて扱いが分かれる可能性があります。ライセンス審査では使途や変動についてはかなりしっかり問われますが、どこに分類したか自体を問われることはあまりありません。
そこで、その他売上(移籍金が含まれる。けど、移籍金以外かもしれない)を含めて割ったのが強化効率Bです。これで結構見えてきたのですが、神戸と長崎に計上されている特別利益が気になります。資産を処分したのか、親会社が何か差配したのか、詳細はわかりませんが、スポンサー性がありそうなので考慮に入れます。さらに、最終的に当期純利益がいくらだったのかも割合に大きな影響がありそうです。チーム人件費率が高いと思っても、それが赤字によるものであれば、あまりうれしくありません。ということで、その2項目をも分母に入れたものが、強化効率Cとなります。
前述のとおり、強化効率Cは特別利益と当期純利益を含めていますが、これは親会社や責任企業が関わっているものの可能性が高いので、一般のクラブパートナーに直接損得があるものでもありません。既存株主や将来の株主が影響を受けることはあるでしょう。つまり、子会社クラブの場合は強化効率Bを見ておけば十分だし、市民クラブの場合は強化効率Cを見たほうが良いのではないかと私は考えます。
気になるクラブを見てみると…
スポンサー収入が18.6億円で全体15位の広島。強化効率Aで130.6%、Bで100.3%。理想的に見えます。やはり参考にすべきは、兄クラブとも言える広島ですね。7.5億円の赤字が出ているので、Cだと76.5%に下がりますが、すでにエディオン子会社となりましたので、他のスポンサー企業にはあまり影響がないところかと。ちなみに日経の記事によれば、子会社化にあたってクラブの時価評価額は約62億円となります。営業収入の約1.5倍ということで、過去のJ1クラブのディールよりは評価が高そうです。
スポンサー収入が12.4億円で全体21位の長崎は、Aが145.1%で、Bが116.1%。営業損失が14.6億円あるのですが、特別利益で黒字なので、一般スポンサーにとっては応援しがいがあるクラブと言えるでしょう。予算規模はJ1クラスなので、あとは結果だけとも言えますが、J1昇格後に残留するためにも、親会社以外の応援があればあるだけ良いような気がします。
スポンサー収入が9.4億円で全体25位の福岡は、Aが172.1%で、Bが105.3%。強化効率Cも99.4%と、極めて高効率のクラブ運営ができていると言えます。昨年はルヴァン杯王者となり、J1リーグでも毎年好位置につけるようになり、素晴らしいの一言です。ぜひとも今年対戦したかった。営業収入28.7億円はすぐには真似できませんが、経営面で強く参考にすべきクラブだと思います。
スポンサー収入が3.4億円の東京ヴェルディは、女子チームと売上を折半して計上しているため、単純計算では比較できないところです。この男子と女子で半分ずつの思想は、北欧っぽいですね。おそらく将来のスタンダードになっていくものと思われます。あえて特別な計算はしませんが、営業収入28.2億円で、男子はJ1、女子はWEリーグというのは偉業です。今後も他に真似できるクラブはないでしょう。
そして我らレノファは、スポンサー収入が6.1億円です。とうぜん柏や湘南よりも少なく、東京ヴェルディの事情も勘案すると、全60クラブ中33位にあたります。Aが66.5%。Bが56.5%、Cが56.8%で、スポンサー収入が近いクラブと比較すると、チーム人件費に割いている割合は比較的大きめと言えます。一方で、岡山や大分と比べて入場料収入と移籍金収入が少なく、チーム人件費に3億円以上の差を付けられているのは苦しいところです。レノファよりスポンサー収入が少ないクラブでは、強化効率指標からは、藤枝と群馬が健闘しているように見えます。
Jリーグが各カテゴリを20クラブずつに分けている現状では、予算規模的に各リーグの下位にあたるポジションでは、残留争いのために無駄なコストがかかりやすいので、なんとか機を見てリーグ上位に持っていくことが大切と言えます。その成果によって昇格すると、またリーグ下位になってしまうのは仕方がありません。福岡が5年サイクルを抜けてJ1に定着できたのは、ここを乗り越えての快挙です。
ということで、かなり多くの仮説が入ってはいますが、スポンサー収入とチーム人件費の関係を自分なりに整理してみました。コメントは大歓迎ですが、優しくお願いします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?