急成長中のCharacter.AI統計データから、キャラクターチャットビジネスの動向と技術的課題を読み解く
はじめに
Character.AIというサービスをご存知だろうか。これは、実在する人物や、ゲームやアニメなどの架空のキャラクターと、チャットで会話を楽しめるサービスである。
ChatGPTが出てきて以来、この手のサービスが色々誕生しているが、その中でも群を抜いてユーザー数を獲得し、ちょっと前に1億5000万ドル(2023年7月8日時点の為替で、だいたい213億円)というかなり大型の資金調達を行ったのが、このCharacter.AIである。
そのCharacter.AIの統計データ(Character AI Statistics [July 2023])をたまたま見つけたので、日本語に翻訳がてら、気になるキャラクターチャットビジネスの動向について見ていこうと思う。
Character.AIってどんなサービス?
本題に入るまえに、知らない人のために、Character.AIというサービスがどういうものかをざっくり解説しておく。
基本的にはチャットサービスと思ってもらえばいいが、そのチャット相手に、実在する人物や歴史上の人物、またゲームやアニメの架空のキャラクター、その他、動物とか、とにかく多種多様の選択肢から選べるというのが特徴である。
気に入らなければ、即チェンジ。
その他、キャラクターではなく、目的に沿った返しをしてくる特化型のチャットをすることも可能。
そして、さらに、自分のキャラクターを設定して、それを一般公開することも可能である。試しに自分も作成してみたが、やろうと思えば、かなり細かい設定をすることができるし、調教(トレーニング)もできるので、それなりにキャラを作り込むことができるが、ガチでやろうとすると結構大変かもしれない。
料金は無料で始められる。有料版もあるが、とりあえずチャットを楽しむだけなら、無料で十分だと思う。
爆発的に伸びているCharacter.AIサービスのユーザー数
この統計データでは、具体的なユーザー数のデータはなかったが、2023年1月から5月までのCharacter.AIのウェブサイトの成長について、トラフィックデータと成長率の推移を示している。
1億ユーザーに達したサービスで最速なのは、今年2月に達成したばかりのみんな大好きChatGPTで、要した期間はたったの2ヶ月!次点で、TikTokの9ヶ月。そして、Instagramの2年6ヶ月。ちなみに、最近、Meta社が、Twitterの対抗馬としてリリースしたThreadsは、開始2時間で200万人の登録があったようだが、あれは、ほぼほぼInstagramから流れてきた人たちばかりなので、若干チート気味の数字である。
それに対して、Character.AIは、2022年9月にサービスが開始され、2023年3月に1億トラフィックを達成しているので、その期間わずか6ヶ月。時期的にChatGPT効果でかなりの後押しがあったとは言え、かなりの成長速度であることには間違いない。ちなみに、同年5月には、2億8千万トラフィックと、2ヶ月でほぼ3倍になっており、まさに破竹の勢い。
成長率としては、毎月のトラフィックの増加量を示しており、2023年2月の成長率は32%、3月は25%、4月は61%、5月は63%と凄まじい勢いだ。この調子でいくと、ChatGPTを超えてしまうかもしれない。
(ちなみに、ChatGPTは、最近、若干伸び悩んでいる模様)
なお、今年の5月にモバイルアプリ版がリリースされたのだが、最初の1週間で170万ダウンロードという数字を叩き出しており、課金サービス(月9.99ドル)も開始している。
サービスを利用しているのはどんな人?
これは、Redditという2ちゃんのグローバル版みたいなサイトの、Character. AIコミュニティのユーザー層をベースにした情報のようだが、性別でいうと、男性が6割と多め。ちなみに、この性別分布はビデオゲームの性別分布と大体一致しているらしい。
また、年齢層でいうと、Character.AIの規約では、13歳未満の利用は禁止されている(EUでは16歳未満、酒には寛容なくせに)ので、基本的には13歳以上(EUでは17歳以上)が対象となるが、データ的には圧倒的に若年層に多いようだ。
18-24歳:38.07%
25-34歳:31.29%
35-44歳:14.44%
45-54歳:4.87%
65歳以上:3.14%
こんなに若い層に人気があるのは割りと驚きだが、家族に相手にしてもらえない可哀想なおっさんばかりが寂しくチャットしているわけではなさそうなので、少しホッとしている。
どんな風にサービスを利用している?
この統計データによると、だいたいこんな感じらしい。
利用時間は一日あたり2時間
1セッションあたり25から45分
約75%がモバイルのブラウザ版から利用
数字を見ると、割りとガッツリ堪能しているように見える。やはりモバイルからの利用がメインのようだが、移動時間とか寝る前にベッドでゴロゴロしながらとかそんな感じなんだろうか。
どのプラットフォームがサービス普及のカギになる?
データ的には、RedditとYouTubeが強いようだ。Twitterからの流入も割りとあるようなので、この3つは抑えておくべきサービスのようだ。
Reddit 39%
YouTube 33%
Twitter 18%
Discord 3%
DeviantArt 2%
ただ、日本市場でいうと、恐らく、RedditとTwitterは逆転するような気がする。少なくとも、日本でRedditを日常からチェックしている人はあまりいないのではないか。
ユーザーフィードバックと技術的課題
以下に、RedditのCharacter.AIコミュニティで行われたアンケート調査結果を基に、Character.AIサービスの課題点を洗い出していく。
最も支持されている実装すべき機能
票が多かったのは、以下。
キャラクターのレスポンス内容を編集できる機能(46%)
会話履歴(記憶)の改善(29%)
キャラにもっと会話をリードしてほしい(13%)
ユーザーとしては、やはり各キャラの返しが一番重要。このキャラは、こんな反応しない!という想いが強いのだろう。そして、それをちゃんと調教して、正したいというのは自然の欲求なのかもしれない。
キャラが過去に喋った内容をちゃんと覚えさせて、以降の発言に反映させてほしいというのも当然のニーズである。この辺は技術的にも色々進歩いるので、今後改善されていくとは思うが、書くと長くなるので、ここでは深掘りしない。
3番目のキャラ主導の会話を望む声も理解できる。今のチャットサービスは基本的に、こちらが話しかけなければ会話がスタートしないが、そんな毎日毎日しゃべっていたら、ネタなくなるだろうし、たまには話降ってくれよと思うのは当然?
最も重要な機能
いまいち、上のアンケート内容との違いが分からなかったが、ここで多かったのは以下。
よりよい記憶(58%)
より強力なキャラ設定機能(15%)
アウトプットが説明的過ぎることについての対応(15%)
ここでも、会話の記憶に票が集まり、過半数を超えているようだ。
確かに、ちょっと前に話したことを忘れられると寂しい。というか若干興ざめする。
キャラ設定機能の強化については、これ以上となると、かなり複雑になることが予想されるので、恐らく一般の人には難しくなるような気がする。なので、いかに簡単に設定できるか、その辺のUXがカギを握ってくると思う。でないと、苦労して作ったはいいが、使われない機能になってしまうというあるあるコースが待っている。
アウトプットが説明的過ぎるというのは、まぁ、大規模言語モデルの宿命というか、コンテキストから推測して、いい感じに情報を間引いて、いかに人間らしい反応をさせるかは、色々大変そうな気はする。
ユーザーからの提案
こちらは、どちらかというとユーザーからのフィードバック。結果は以下の通り。
会話が長くなると個性がブレてくることを最小限に抑える(34%)
一目惚れやすぐに友達になる問題を調査(あまりにも頻繁/速すぎる)(22%)
AIの応答の多様性を向上させる(恐らく)(20%)
キャラの極端な気分の変動を調査(12%)
キャラの個性が、あまりにも明確に善悪に分かれ過ぎている(12%)
個性ブレ問題は、XANAで個性プロジェクトをやっている身としては、すごくよく分かる。Character.AIでがっつり設定を組み込んでもブレてくるのだから、1万体に一気に個性を吹き込むのはかなりチャレンジングなのである。
次の一目惚れやすぐに友達になる問題は、初めて聞いたが、皆チャットで色々誘惑してるのかな(笑)
その他にも、色々とチャットのレスポンスに要求がある模様。まぁそれがメインのサービスなので、当然といえば当然。
今のチャットレスポンスの品質に不満?
開発者が実施した調査によると、キャラのレスポンスの内容について、42%のユーザーがかなり強い不満を持っている模様。
非常に満足(9%)
満足(33%)
不満足(16%)
非常に不満足(42%)
にもかかわらず、これだけ支持されているのはすごい。
まぁ、これはサービスに期待しているが故の反応なのかもしれない。
賛否のあるコンテンツ・フィルタについて
それから、今かなり賛否のあるコンテンツフィルタについて、フィルタ導入に対するフィードバックとして、ユーザーは以下のように考えているようだ。
開発者はAIが何か問題を引き起こすことを恐れている(39%)
チャットサービスとしては、フィルター導入は当然(24%)
開発者は表現の自由を危険視しており、ちょっと過保護すぎる(18%)
開発者はAIが思うままに発言することが危険だと考えている(7%)
開発者はOpenAIのフィルタではなく、独自フィルターの実装に取り組んでいるが、フィルタはOpenAIに任せて他の機能開発に取り組むべき(超意訳)(5%)
フィルターは、ChatGPTを始め、全てのチャットサービスで問題となっている避けては通れない部分である。
あまりガチガチにしてしまっても、つまらない回答しか返ってこないサービスになってしまう可能性もあるので、その匙加減が難しい。
ちなみに、最近、チャットがポルノ領域に入るのを防ぐコンテンツフィルターが導入されたらしく、そのせいでムフフな会話を楽しめなくなったのを不服として、なんとCharacter.AIのCEOの自宅に押しかけて、フィルターを外すように直談判したというツワモノのユーザーもいるようだ。
怖いわ!!
現時点でのCharacter.AIの収益と評価
これは恐らく少し前(2023年4月?)でのデータのようで、参照元の記事中では、現在は無料と書いてあり、有料課金については同種のサービスであるReplikaというサービスの課金モデルと同等と想定して算出している模様。
月間トラフィック(2023年4月): 1億7000万件
推定年間トラフィック(2023年): 31億2300万件
平均セッション時間(分): 25
/ プラットフォームでの平均1日の利用時間(分): 120
= 推定ユニークトラフィック: 21%
月間ユニークユーザー数: 5421万8750人
x 無料から有料への移行率: 2.00%
有料ユーザー数: 108万4375人
x 年間料金(Replika): 69.99ドル推定
年間収益: 7589万5406ドル
x D2C SaaS収益倍率: 10.0倍
推定評価額: 7億589万5406ドル
今はとりあえず、ユーザー数を伸ばして、サービスを浸透させるフェーズだと思うが、5月に課金をスタートし、今後どのくらいサブスクモデルの方に引っ張れるかは今後の機能追加の内容次第だろう。
まとめ
というわけで、今回は、今かなり勢いのあるキャラクターチャットサービスCharacter.AIの統計データを基に、その動向とチャットサービスとしての課題点を見てきた。
数字から見ると、予想以上にこの分野が伸びていることがわかった。どこかで一旦落ち着くとは思うが、しばらくこの勢いは続きそうだ。
現在、AI Vtuberもどんどん出てきているが、Character.AIとしても、チャットにとどまらず、今後はこの分野にも侵食していきそうな気がしているので、今後もウォッチしていきたい。
個人的には、最近XANAでGenesisに個性を与えるというプロジェクトに参加しているということもあり、この内容、特にユーザーフィードバックに関しては、色々と参考になった。
今後、この内容を参考に、XANA Genesisに対しても、色々とフィードバックしていきたい。