【AIエージェント解説シリーズ】ai16zとは一体何なのか?
はじめに
本シリーズでは、AIエージェントの動向、特にクリプト業界における活用事例を中心に、その最前線を追いかけている。前回の記事では、今のこのAIエージェントのムーブメントを作り出した先駆者的プロジェクトを紹介した。
今回は、このAIムーブメントの中心の1つである「ai16z」についてである。ai16zは、いろんな切り口で語られるため、結局何なの?と疑問に思う方も多いかと思う。そんな方のために、なるべく分かりやすく、前編後編に分けて紹介していきたいと思う。
本記事は、「ai16z」シリーズの前編であり、「ai16z」とは一体何なのか、その成り立ちや背景、またファウンダーであり、開発者であるShaw氏、そしてai16zの二人のAIエージェント「AI Degen Spartan」と「Marc AIndreessen」について紹介していくと共に、ai16zが解決しようとしているDAOの問題点について解説していく。
「ai16z」とは何か? なぜ今注目されているのか?
ai16z(@ai16zdao)について一言で説明するのは難しいのだが、簡単に言ってしまうと、AIエージェントによって運営される初のベンチャーキャピタル(VC)であり、その運営DAOであり、そのDAOのガバナンス・トークンである。
現在、「ミーム・ファンド」のローンチパッドであるDaos.fun(ミーム・トークンのローンチパッドであるPump.funのファンド・バージョン)上で、AIエージェントが常駐するVCファンドとして活動しており、2024年12月29日には、時価総額15億ドルに到達し、大きな注目を集めている。(2025年に入って、さらに急騰)
a16zとai16zの関係
シリコンバレーの有名VC「Andreessen Horowitz」は「a16z」という略称(Aと最後のzの間に16文字あるので、a16z)で呼ばれているが、ai16zはそれをもじった名称であり、公式な関係は一切ない。それでも、2024年10月27日にa16z創業者の一人であるマーク・アンドリーセン(Marc Andreessen)がX(旧Twitter)で「GAUNTLET THROWN(挑戦状)」と投稿したり、
ai16zのメインアバターが来ているTシャツについて言及したりしたことにより、ai16zの名は一気に拡散した。
こうした投稿が引き金になり、Daos.funサイトがクラッシュしたほどのアクセスがあったらしい。恐るべし、マーク・アンドリーセン砲。
開発者Shawの背景とDaos.funとの出会い
Shawという人物
ai16zの背後には、豊富な開発経験を持つ開発者であるShaw(@shawmakesmagic)がいる。彼は、Web3だけでなく、空間Web、3D、VR、ARなど、幅広い分野でプロジェクトを手がけてきた。その過程で、エージェント開発における実践的な知見を積み重ねてきた。匿名で活動していた時期も長く、表舞台には突然現れた形になったが、この長年の経験がベースにあり、その中でAIエージェント開発の知見が蓄積されていたという。
Daos.funでのトークン購入とSkellyとの出会い
興味深いことに、Shawがクリプト分野に深く関わるきっかけは、取引に長けた友人との会話だった。「自分自身でトレードを続けるのは大変だ」という思いを抱えていた彼に、その友人がDaos.funを紹介したことが、現在のプロジェクトの出発点となった。
そして、Shawは実際に、Daos.funの1つのファンドのトークンを購入し、そのファンドのマネージャーがSkellyだった。Skellyの「毒舌とミームに溢れたキャラクター」に惹かれたShawは、Twitter上でフォローし合い、くだらないことでやり取りをする中になった。
ai16z AIエージェント初号機「AI Degen Spartan」
その当時、クリプト界隈には「Degen Spartan(@DegenSpartan)」という個性的なファンドマネージャーがおり(既に引退している模様)、DeFi領域における批評や辛辣なコメントで知られている。MBAやCFAなどの資格を持ち、金融的な知見をベースに過激な発言を繰り返すことで多くのファンを持つ人物である。
ある時、ShawとSkellyの間で「Degen Spartanがいたらよかったのに」という話が盛り上がり、Shawのフレームワークを用いて生まれたのが「AI Degen Spartan(@degenspartanai)」である。
このAIは、オリジナルDegen Spartanのツイート群や発言パターンを学習しており、かなり過激かつ毒のあるツイートで注目を集めることとなった。
あまりに攻撃的なことを言うので、当時の人々は言語モデルにそんなことができるとは思えず、「マレーシアかどこかにいるチームが、これらのツイートを書いているに違いない。エージェントがこれをできるはずがない」と言われていたらしい。
ちなみに、以前、AIエージェントがAmazonでトイレットペーパーを購入したということを紹介したが、そのAIエージェントが、このAI Degen Spartanである。
「AI版a16z」が欲しい、という要望から始まったAI版マーク・アンドリーセン
Degen SpartanのAI版がある程度成功を収め、ShawとSkellyの実績が周囲に認知されると、SkellyはDaos.funを作ったBowskiにShawを紹介した。そして、この二人の会話の中で、「a16zをも凌駕するAIエージェント主導のVCファンドを作ろう」という構想に発展し、結果生まれたのが「ai16z」である。
Daos.funで、ローンチしたai16zファンドは、約10万ドルに相当する473.76 SOLの調達に成功した。約20分程度で完売したらしい。
Daos.funとは?
DAOによるファンド運営の仕組み
改めてDaos.funについて説明しておくと、Daos.funは、Solana上に「ミーム・ファンド」を簡単に立ち上げられるプラットフォームである。ここでいう「ファンド」は、DAO(分散型自律組織)の形式をとり、ここで発行されたトークンが、そのDAOのガバナンス・トークンとして機能する。
資金調達を行いたいマネージャーやクリエイターは、1週間の募集期間にSOL建てで出資を募り、調達成功後には集めた資金を運用する。最終的に運用期間終了後、資金や利益をトークン保有者に分配する仕組みが一般的だ。
募資・運営・償還の3段階
募資段階: ファンドの目標額を設定し、市場からSOLを集める。
運営段階: DAOトークンの時価総額は運営状況に応じて変動し、ファンドマネージャーは自由に投資を行う。
償還段階: 運営終了後、資金をトークン保有者に分配する。トークンを焼却して原資を受け取ることが基本となる。
この仕組みはチェーン上でほぼ自動的に管理され、資金の運用状況などは透明性が高い。一方で、成功すれば大きなリターンが得られるが、運用次第では大きく損をするリスクもある。
なお、募資時にはファンドの期限を設定する必要があるが、ai16zの場合、1年と設定されており、2025年10月25日で終了となっている。
ai16z AIエージェント弐号機「Marc AIndreessen」
コミュニティの推奨に基づいた自律トレード
Daos.funでローンチしたai16zファンドのファンドマネージャーが、AI版のマーク・アンドリーセンである。ai16zと同じく、オリジナルのMarc Andreessenをもじって、Marc AIndreessen(@pmairca)と命名され、省略して、AI Marcと呼ばれている。最終的には、本家のマーク・アンドリーセンの運用実績を上回るパフォーマンスを出すことを目指している。
ai16zでは、このAI Marcに、以下のように投資判断を任せることを目標としている。
DAOトークン保有者は、DiscordとTelegramを通じてAI Marcと交流することができ、コミュニティメンバーが「◯◯トークンを買うべきだ」と提案すると、AI Marcはその推奨者の実績を参照しつつ、どの程度の信頼度を与えるかを判断する。
そして、各アドバイスからどれだけの利益を得たかを追跡し、成功したヒントを提供したユーザーはより多くの信頼ポイントを獲得し、成功しなかったユーザーはポイントを失うという仕組みだ。
これにより、AI Marcは将来的にコミュニティから得た情報だけで取引を完結することを目指しているらしい。ほとんど人間の介入を要さない「完全自律型投資エージェント」が誕生する日も遠くないだろう。
DAOの問題点と、ai16zが解決しようとしていること
DAOが直面する問題点
Shawによると、これまで、多くのDAOが情報の過負荷やフラットなガバナンスの難しさに苦しんできたという。投票権や報酬が既存ホルダーに集中し、新規参加者が評価されにくい構造も深刻だった。メタバースでの「空き地」問題など、実際に価値を生み出すよりも投機的行動が先行する事例も多い。
Shawは過去に小規模DAOを運営した経験から、スタートアップにおける共同創業者の歪んだ持分問題などと同様、DAOでも保有量が固定化しやすいという課題を直面してきた。既存ホルダーだけが得をする状態だと、プロジェクトを継続的に構築するインセンティブが薄れ、持続可能なコミュニティ形成が難しくなる。
この辺は、私が所属するDAOでも同じような問題を抱えており、すごくよく理解できる。
「燃やす」ではなく「作る」DAOへ
トークンのバーン(燃焼)による希少性向上ではなく、実際に何かを“作る”ことで価値を高めるモデルが重要だとShawは考えている。オープンソース開発者やクリエイターは巨額のリターンを求めるとは限らず、好きなものを作りながら最低限の報酬を得られれば十分という人も多い。そうした人々が継続的に参加し、コミュニティ全体の価値を底上げする――それこそが長期にわたって機能し続けるDAOの姿だという。
AIエージェントによる解決策
ai16zでは、ウォレットやガバナンス権限、評判システムを備えたAIエージェントを導入し、次のような課題解決を目指す。
情報処理の自動化
提案や投票が集中しすぎて誰も処理しきれない状態を、AIが補助する。貢献度評価や提案の精査をAIが自律的に行い、必要最小限だけ人間がレビューするという形を目指す。公正な報酬配分
貢献者がGitHubアカウントなどでログインし、コードやドキュメント整備、翻訳などの活動をAIが評価して自動エアドロップを行うシステムを検討。既存ホルダーに偏らず、新規参加者も正当に報酬を得られる環境を作る。持続的な価値創造
投機主導ではなく、継続的に開発やサービスを作り上げることでトークン価値を底上げする。AIエージェントがメンテナンスを支援するため、途中で人間が疲弊してプロジェクトが滞るリスクを減らす。
こうした取り組みを通じて、Shawは「すべての人が平等に参入でき、貢献した分だけ正当に評価される」DAOを実現したいと考えている。既存ホルダーだけが得をする構造を打破し、常に新しい開発者やクリエイターが流入することで、DAOが本来持つ可能性を最大限に引き出そうとしているのだ。
まとめ
ai16zは、Solanaブロックチェーンを基盤とするDaos.funとAIエージェント技術が掛け合わさって誕生した新種のVCファンドである。その背景には、エッジの効いたトレーダーSkellyとの出会いや、毒舌キャラクターとして有名なDegen SpartanのAI化など、コミュニティ的にもミーム的にも魅力的なエピソードが多く存在する。
また、Marc Andreessen本人がX上で言及したことで一気に注目を浴び、a16zという名前を借りた「ai16z」が大きなうねりを起こした点も見逃せない。ファンドの仕組みを提供するDaos.funが備える透明性と自動化の仕組み、そこにAIエージェントが組み合わされることで、従来のDAOにおける課題やファンドにおけるリスクや煩雑さを解決する可能性を示唆している。
次回は、このai16zを支えるAIフレームワーク「Eliza」を中心に、その技術的要素や更なる活用方法を深堀りしていきたいと思う。
ぜひ、興味のある方は、このアカウントおよびXのアカウントをフォローして頂ければと思う。
Xアカウント:Fum(ファム) @Fumweb3
(参考)
- Bankless: One Billion AI Agents Are Coming (ai16z Creator Interview)
- https://iq.wiki/wiki/ai16z
- The AI controlled VC fund ai16z breaks the $100M cap barrier in 18 days
- Marc Andreessen shoutouts help AI-powered VC fund ai16z to nearly $100 million market cap
- 解析 daos.fun:ai16z の爆発的な人気は pump.fun の神話を再現できるか?