178 変化を乗り越えて
仕事が詰まっている日。
その日は新しく任された仕事がいくつかあって、たくさん考えながらパソコンに向かっていた。
そのせいか、トイレに立った時にふと鏡を見たら、眉間にシワができていた。
おっと、いけない。
考えごとをしていると、つい眉間にシワが寄ってしまう。
眉毛と眉毛を離して、にこっと笑顔を作ってみた。
すると、今度は目尻に小さなシワができた。
ついに私にもシワが…!
笑顔をやめると、そのシワはすっと消える。
もう一度笑うと、やっぱり小さなシワ。
それを見て、嬉しくなった。
私にもシワができるようになったか。
そう思いながら、軽い足取りで仕事に戻った。
顔のシワに新しい仕事。
こんな風に変化を楽しめるようになったのは、ひとつの成長だと思う。
『あまがえるのかくれんぼ』を読んで印象的だったのは、3匹のあまがえるの体が変わっていくところ。あまがえるは、成長に従い周りの場所に合わせて色が変わるようになるのだが、3匹はそれを知らないので、「びょうきになっちゃったのかなあ」「どうしよう、どうしよう」と泣き出してしまう。
その場面を見て、私も似た経験があったことを思い出した。
それは、身長がぐんと伸びた小学5年生の時のこと。
足首が痛くて痛くて、何か病気になったのではないかと思った。
病気だなんて、お母さんが悲しむかも…と怯え、恐る恐る兄に話したら「それは成長痛だよ」と笑われた。
その時のことと、あまがえるたちが変わっていく体の色にあわてる姿が重なって、「あぁ、変化はいつも混乱するし、怖いことなんだな」と思った。
思えば、中学や大学に入学する時、就職する時、転職する時など、変化の時はいつも不安で怖かった。
うまくいくかな。失敗しないかな。こうなったら最悪だなぁ…。なんて、何も始まっていないのに、いつまでも考え込んでしまうこともあった。
社会人になってからも、新しい仕事に不安を感じたり、仕事の結果が気になったり、コロナで急激な変化があったりして、「どうしよう、どうしよう」と泣き出したくなったことも何度もある。
その度に、同僚や先輩から「大丈夫だよ、なんとかなるよ」と声をかけてもらった。
中でも特に覚えているのが、上司に言われたこの言葉だ。
「失敗してもいいじゃないか。その時はみんなで考えよう。そして、失敗してよかったと思える成長をしよう」
コロナ禍になり、わからないことだらけで、不安最高潮になっていた時にそう言われたので、心強かった。私にも変化を受け入れる覚悟ができた瞬間だった。
その言葉をお守りに、いくつもの「どうしよう」を乗り越えてきた。
今では、不安になる前にどうするのがベストか考えるようにしている。
大人のあまがえるが緑色と決まっていないように、状況に合わせて色を変え、最善を尽くせばいい。
そんな風に思えるようになってきた。
3匹のあまがえるは、ピンチを乗り越えた後、場所によって体の色が変わることに気づき、「たのしいきもち」になっていく。
そう、変化を乗り越えたら、生きることがもっと楽しくなる。
ひとつ成長した自分を、今度はどう活かしていくか。
あまがえるたちは「かくれんぼ」をして、自分の得意な色や場所を探す。
そんな風に、自分の特技を発揮できる場所に行くのもいいなと思う。
変化は新しい自分を見つけ、あるいは伸ばし、それが自信になるチャンスだ。
それは、誰かに用意された自信ではなくて、自分で気づいて乗り越えた確かな自信なのだ。
『あまがえるのかくれんぼ』は、草花の中で成長するあまがえるたちの姿が生き生きと描かれている。
それは、変わることの楽しさだけではなく、私たちが普段気が付かない場所でも常に変化し続けていることを伝えている。
表情がいつかシワを生むように、小さな変化は毎日積み重なっている。
これからどんな仕事をしていくのかな。どんなシワができて、どんな顔になるのかな。
そう思うと、やっぱり少しこわいけれど、楽しみでもある。
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