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言葉の所在地


私はみんなには隠している暗黒期がある。

今では立派にOLとして働いているものの以前は全く違う職に就いていた。職といっても食べて行けずにバイトで生計を立てていたので職とは言えないか。夢を追いかけていたといえば尊いかもだけど、今になって思い返すと”何者かになれるかもしれない“”神様から与えられた使命だ“という中二病の私が暴走していただけだと思うので職と言うには恥ずかしすぎるのでやめておく。

今日はその暗黒期の一部をご紹介しよう。

私がいた場所はこんな感じ。(↓↓以降、かなり主観が入った説明をしています。)
どこのだれかも知らない演出家(笑)が主催の劇団。劇団員はその演出家(笑)が勤める俳優養成所であつめた人達で、その中でも自分を尊敬してくれる教え子のみで構成されている。誰からも支持される国の中で演劇作品をつくり、そこに見に来るお客さんはほとんどがその養成所の学生と、友人や家族らしき人たちばかり。なので作品は内輪ネタがほとんど。知り合いじゃないとわからないネタがつまっていて知り合いだけが笑える、そういうやつ。
一番いやーな事実として私はそこで舞台女優(笑)をしていた。つまり私もその演出家(笑)に踊らされて劇団入りしているということなんだけど(自己嫌悪)

ただ気持ちよくなるための舞台。

私はそこで芝居をしながら、観に来てくれる友人にただただ申し訳なく思っていた。その中でもハルという私の友達にはトップクラスの謝罪をしたい。なぜかというと彼女はいつも私が出演する舞台を全通する。全通というのは全日程を全部見てくれること。例えば5日間の公演で1日2ステだったとして10公演全部みるということ。意味わかんないでしょ?彼女は専門学校卒ですでに社会人をしていたのでなおのこと。
仕事大丈夫?って聞いても、
―おん。
しか言わない。有給だって絶対足りてないし、カレンダー通りの出勤をする事務の仕事で若手が少ないから結構頼りにされているらしい。なのに全通。
シンプルに私のことめっちゃ好きなんだなと思う。
ハルはもともと演劇部で観劇も好きだからいろんなお芝居は見てきたはず。だから私の劇団のレベルも1回の観劇で理解してるはず。なのに全通。
―ごめんなさい。いつも来てもらってるのに。
は違うなあ、と思って何も言わないでいる。ごめんなさいの理由は言いだしたら止まらないくらいあるから言い切れないので言わない。し、お金と時間を使ってもらっといて謝罪を聞くのも、なんか。ねえ?
―ありがとうね。
といつもそれだけ言う。するとハルは、
―私はあなたを観に来てるから。
と言う。きっと私が謝りたいのもわかってるんだろう。

年齢だけ重ねた演出家が演劇界にすがるために作った舞台。今思えばその劇作家も苦しかったのかもしれない。やめるにやめられなかったのかもしれない。でもその時の私はいつもおじさんたちをみて

―きしょい。


つづく

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