小説「ヒゲとナプキン」に至るまで
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オトさんと出会った日のことは今でも忘れない。
14年前の春、部活に向かうため自転車で早稲田大学へ向かう途中の明治通りでのことだった。花粉症がひどく帽子にマスクにサングラスというなんとも怪しい格好で自転車をこいでいる僕の前を走る電動車椅子を見つけた。思わずその前を塞ぐように回り込み、話かけた。
「すみません!乙武さんって手足を取り戻すような手術をしたいと思ったことありますか!?」
当時の僕はトランスジェンダーである自身のセクシュアリティを少しずつ周りの友人にカミングアウトし始めたころだった。性転換手術、現在で言う性別適合手術を考えている時で、その事を話すと周りのみんなからは、
「どうしてそこまでして男に変わりたいの?」
と聞かれてしまう。自分としては「変わりたい」のではなく「元の体に戻りたい」という思いで手術を考えていたのだが、なかなか周囲には理解されずにいた。そんな時にテレビで乙武さんを見かけ、「手足があるという状態が人としてあるべき姿ならば、彼は手足を取り戻したいと思ったことがあるのかな?」ふとそんな疑問が頭をよぎったのだ。
それから数ヶ月後、突如目の前に現れた乙武さんに思わずその疑問を投げかけた。世界中で声をかけられているだろう彼も、さすがに初めての人に手術だなんて聞かれることもないだろう。
「すみません。失礼なことは重々承知の上なんですが…」
と前置きをしつつ、その時の自分の思いをぶちまけたのだった。「なんだコイツ??」と最初は驚いた表情だった彼も途中からは食い入るように話を聞いてくれ、気づけば道端で1時間近くも話し込んでいた。そして、
「本を書いたりするのに興味はない?まだそういったことを人前で話す人いないから、 本でも書いてみるのはどう?」
と乙武さん。僕はと言えばちょうどフェンシング日本代表チームから落ち、長年付き合っていた彼女とも別れ、就職活動すらうまくできず、、、これからどうやって生きていったらいいのかなと悶々と悩んでいた時期。
「是非やってみたいです!」
後先のことなど何も考えず、気づいたときには口から言葉が飛び出していた。
それでも話し足らず近々ご飯でも行こうと連絡先を聞かれた。フェンシングのコーチとして作ったばかりの名刺を出したところで、名刺を手渡す手がないことに気がついた。少し戸惑う僕に、
「この胸ポケットに入れておいて」
と乙武さん。 あわてて名刺を入れ、またねと別れた。無我夢中で話していた僕も我に返って、「いきなり手術だなんてあまりに失礼だったんじゃないかな、、、本当に連絡くるのかな?」そんな心配をよそに、部活から帰宅するとすぐに携帯が鳴った。
「乙武です😃今日はありがとう。早速なんだけど来週ご飯でもどうかな?」
本当に連絡がきたことに驚いたと同時に、「あれ?乙武さんってどうやってメール打ってるんだろう?」と。そういえばご飯ってどうやって食べるんだろう? 僕が食べさせてあげるのかな?いや、おせっかいかもしれない、、、でも気が利かないヤツって思われても、、、頭の中が「???」だらけのまま向かった銀座ライオン。五体不満足の編集者でもある小沢さんと共にご飯を食べ、カラオケに行って、
「よし!フミノ面白いから決まり!」
と。その翌年に拙著「ダブルハッピネス」(講談社)を出版することになった(写真は出版記念パーティで挨拶をしてくた13年前のオトさんと僕)。この出会いなくして今の僕はいない。
意気投合した僕たちは、それから毎日のように遊んでいた。
「手足無しとちんこ無しのなしなしコンビです!笑」
なんて言いながら一緒に飲みに行ったり合コンしたり。苦笑
ジャンルは違えど、障害やマイノリティであるという立場をポジティブに発信する感覚が似ていたのかもしれない。同志であり、僕にとっては自分のハンデをフルに活用し第一線で活躍するオトさんは、かっこよくも羨ましくもある、憧れの兄貴であった。
その後1年も経たないうちに、僕とオトさんは大ゲンカをすることになる。細かくは長くなるのでここでは書かないが、約8年もの間連絡を取らなかった。そして8年経って、結局お互い「大人気なかったな。苦笑」ということで和解した。お互いの想いが強かったから、そして似た者同士だからこそぶつかってしまったのだった。
意気投合して、喧嘩をして、仲直りして。
最近またよく会うようになって改めて想いが似ていると感じる。
「日本を多様性ある社会にしたい。どんな境遇の人でも、できるかぎり平等にチャンスや選択肢が与えられる社会を実現したい。」(オトさんのnoteより抜粋)
似ているではなく全く同じ想いだ。このために僕にできることは何か? そして僕たちにできることは何なのか? そんな話を繰り返す中で生まれたのがこの小説「ヒゲとナプキン」である。
自分では書ききれない想いを、今回はオトさんに小説として書いてもらうことになった。トランスジェンダーのいち当事者としての僕の半生と、僕が今までにお会いした数千人を超えるトランスジェンダーの方々からお聞きしたエピソードを織り交ぜたものだ。
LGBTに限らず、普通って何だろう? 家族って何だろう?
そんなことを今一度考えるきっかけになればと。
僕もこれを機会に、小説と並行して自分の想いや先日公表した子どものこと(記事はこちら→ https://www.buzzfeed.com/jp/daisukefuruta/congrats-on-new-baby?fbclid=IwAR0C_XoejQBd5dVbhrl_p5b362omUsg9gw0jef5-LYkeHj1rYiqxqfF4k2k )など、これから少しずつ書いていきたい。
一人でも多くの方に僕たちの想いが届きますように。
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