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映画「花束みたいな恋をした」創作物を愛する全ての人のための物語

久しぶりに映画のパンフレットを買った。表紙をめくったときに最初に目に飛び込んでくる文字に、思わず涙で目が潤んでしまう。これほどまでに自分の20代、あるいは、自分の過去の恋愛を思い出させる映画はもしかするとなかったかもしれない、などと考えながら、私は映画館を後にした。


これは自分の話

月夜のたまさんはnoteで、脚本家坂元裕二さんの言葉を借りてそう表現している。

本当にその通りだった。(そして、私もドラマ「カルテット」が大好きでこの映画の公開を何ヶ月も楽しみにしていた1人だった。)


私が、かつて異性と親密になるきっかけはだいたい、創作物だった。
自分の好きな小説、映画、音楽、ファッション。さらに生活の中で気になっている些細な疑問。そんなことを語り合い、それらが分かり合えた時、何か価値観が一致した時の楽しさや、嬉しさ、ときめきに、夢中になったことがある。間違いなくその時の自分たちの目はキラキラに輝き、人生で初めて「もう一人の自分」に出会えたと思える瞬間があった。

2人が東京の街を歩きながら、互いの好きなものを確かめ合い、目的地につくことをできるだけ遅らせたいと思いながら取り止めもない話をすること。付き合いたての頃、毎日彼の家で何日間も二人きりで過ごすこと。同棲することになった街で美味しいパン屋さんを見つけて帰り際に一緒に食べて喜ぶこと。
間違いなくこれは、彼ら二人の物語なのに、まるでかつての自分のことのように錯覚してしまう。

主人公の、麦(菅田将暉さん)と絹(有村架純さん)二人の会話劇は、まるで、名作「ビフォア・サンライズ」を思い起こさせもした。私はこの映画が恋愛映画史上一番好きだ。


だが二人の魔法は、いずれ溶けてしまう。

彼らは、自らが生きていくために就職し、社会で様々な「現実」に向き合ううちに、少しずつ気持ちが離れ、違和感を覚え始める。

「小説や漫画の続き、昔みたいに読みたいよ。でも、全然入ってこないんだ、なぜかパズドラしかできなくなっちゃったんだよ」

菅田将暉さん演じる「麦」が、日々の激務のなかで、かつて好きだった映画や小説などの文化的享受ができなくなったときの、一言。
私にも強烈に身に覚えがある。学生の時にあれだけ好きだった映画に心が動かされなくなった。本屋に行ってもビジネス書の棚ばかりに目が行き、かつて好きだった小説の棚に行こうとも出来なくなったことが。毎日が灰色で、かつての輝きは失っていたが、でも「それで良い」と思っていた。「だってもう大人になったのだから。」と。


この映画はきっと年齢も性別も住んだ場所も関係なく、きっとかつて20代だった人の心に響く物語だと思う。

「見覚えのある」光景、「聞き覚えのある」セリフがたくさん散りばめられ、一体全体、こんな表現をどうやってどこで見つけて言い当てたんだろうと、素人ながら本当に感心しまった。(そしてその答えはパンフレットの脚本家へのインタビュー記事に掲載されており、ここでも二重に驚いたのだが)

主軸はもちろん、ラブストーリーだ。でも、私はこれは「創作物を愛する全ての人」のための物語だと感じた。
映画、音楽、小説に救われ、それによってだれかと心が繋がったことがある人。もちろん、人生はそれだけでは生きていけない。だが、だれかの希望になることは、これまでも、これからも、絶対にあるのだと思う。

事実、一時期は離れてしまった様々なカルチャーに、35歳を過ぎたいまの私は、また夢中になり、間違いなく自分の人生の彩りになっている。

そして私は、感性の違う(私とは興味領域が全然違う)相手と結婚したが、それがまた新たな境地へ自分を連れていってくれるという面白みを知る。

それは、全部、20代前半のあの時に、ああして夢中になった創作物があり、自分と同じような相手が近くにいてくれたからなのだと感じている。

そして不思議と、映画が終わった時には、麦と絹と同じように長い年月を付き合った「かつての恋人」ではなく、隣に座る夫との恋の始まりの時のことを思い出そうとしている自分がいた。

大切な映画が、またひとつ増えた。

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