桜の匂い

季節は進んでしまうと、もとがどうだったのか思い出せない。

桜がやっと咲いて、散って、そして、新緑の季節になる。

わかっていることだけど、頭が追いつくまでに時間がかかる。

そして、緑がなかった山を思い出せなくなる。まるで、そこに存在していなかったように。

冬が終わると、南に行くと季節が進み、相対的に北に行くと季節が戻る。

北の季節感で生きてきた僕には、関東ではじめての越冬だった。

雪は少なく、気温も低くない。基本は晴天。

すごく過ごしやすい、快適な冬だった。

それでもやっぱり春が来ると嬉しい。

昨年は桜が散ってから上京し、もう木々には青々と葉が茂っていた。

南に来て季節が進んでしまっていた。

季節感というリズムが取り戻せず、どぎまぎしたまま一年を過ごした。

関東は十五夜の日でも暑くて、満月を見にバイクで茅ヶ崎の海岸まで行ったこと。

ちょっと寒かったけど、山中湖まで紅葉をみたこと。

冬に江の島に行ったこと。

年末年始に新宿で飲んだこと。

徐々に暖かくなって来たときに、明治神宮とか色々歩き回ったこと。

とにかく季節を取り戻すのに必死だった。

日常と非日常を繰り返して、自分の現在地を感じることができた。

春になって桜が咲いて、桜の匂いを嗅いだ。

視覚よりも強烈に嗅覚で春を実感した。

新しい季節がやってきた。

もうさくらは散って、ブロッコリーのような木々が山には見える。

季節が進んで自分は変わったけど、前とは違う自分とまだ影を残している自分とが共存している。

不安ではあるが、次の夏までにどんな自分が生きているのか楽しみだ。

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