「sketch mosaic」作品解説
絵の小さな断片が、ところどころ隙間をあけながら並べられている。
遠くから見ると、何やら見慣れた形にも見える。もしかしたら、QRコードかもしれない。
概要
これは2023年9月12日(火)~9月17日(日)に世田谷美術館で開催された「musa2 アート&デザイン展2023」の出展作品である。
画面上で制作したものを、画面以外の媒体(キャンバス)に出力し、それをバラバラにして再構成することで、再び画面に戻すという実験でもある。
作品では、小さな正方形に裁断されたキャンバス地の絵が不規則に並べられている。角に3つ正方形の枠が配置されており、それはQRコードのパターンのようにも見える。そしてこれは実際に、QRコードとして読み取ることができる。
QRコードからは、Webページにアクセスすることができる。そのWebページには、小さな絵の断片を連想させる3つの画像が配置されている。その中からどれか1つを選びクリックすると、インタラクティブなページ(open processing)にリンクされていて、小さな絵の全体像を見ることができるとともに、その絵で遊ぶことができる。
制作工程
あらかじめWebページのURLを用意しておき、それをQRコード化する。
QRコードのセル(マス)を数えた結果、切り出しシンボル(3つの枠の部分)を除くと360セルになり、3の倍数になることがわかった。3つの切り出しシンボルに対応したインタラクティブ作品を作ることにした。
プログラミングツールのProcessingの展示(Processing Community Day Tokyo2023)で、キャンバスプリントという印刷方法を使った作品があり、画面上で再生するのとは違った質感が印象的だった。
そのため、Processingで制作した画像をキャンバスプリントし、正方形に切り分ける制作方法にした。QRコードは周囲に一定の余白がなければ読み取りエラーになることがあるため、B1サイズ(1030mm×728mm)に制作する場合は一辺19mmの正方形が最大サイズになる。
また、QRコードは地とコード部分のコントラストが強ければ、色に制限は無いということだったので、白や淡い色彩をなるべく使わずに制作した。
画面で制作したものを、QRコードを通じて個人のスマホ画面で再生するにあたり、何か仕掛けがあった方が面白いだろうと思い、スマホのスクリーンに触れることで動くインタラクティブなものを作った。
Processingはデスクトップエディターなので、それをWeb上で公開するOpen processingの自分のアカウントに投稿した。そしてそのURLを、QRコード読み取り先であるWebページにリンクとして貼り付けた。
それぞれのリンク先は下記を参照。パソコンの場合はマウスの動きやクリックに反応する。
Fish
魚が指についてくる。水槽などで、魚に気がついてほしくてコンコンたたいたことがある人はそれなりに居るだろう。もし魚が自分の指に反応してついてきてくれたら楽しいと思って制作した。
Dance
タップするとワオキツネザルが太鼓を叩いたり踊ったりし、花火も打ち上がる。踊りは顔・体・尾の3パーツ×3パターン用意されており、組み合わせはランダムで表示される。愉快。
Bird
指で触った部分に色がつく。それによって背景の模様も浮かび上がってくる。色は複数色の丸の群れなので、塗るたびに違った印象になる。
制作期間:約2ヶ月
制作意図
「QRコードがあると読み取ろうする」という行為が、日々いろいろなサービスを受ける中ですり込まれていることが、まずは興味深かった。
「このQRコードを読んだら、詳細情報や答えがある」という期待を持つように私たちは訓練されている。そこで「読み取ってね」と書いていなくても、人々はQRコードを読み取ろうとするのか、試してみたかった。
そしてそれは、あからさまなQRコードではなく、「QRコードっぽい形のもの」でもその行動をとるのだろうかと思い、カラフルかつ質感をつけることにより「QRコードらしさ」をなるべく隠した。そのため、これがQRコードだと気がつかない人がいてもいいし、QRコードだと気づいても読み取らない人がいてもいい。
(しかし、思ったよりも「見るからにQRコード!」な仕上がりになった…)
展示されている状態でも、なんとなく複数パターンの絵のモザイクのようだ、と勘づくように、3種の絵は異なった風合いのものを意識した。ただし全体の統一性を持たせるため、仕様する色はある程度共通している。
モザイクとして貼り合せる時も、視線が回遊するように、方向を感じる図(魚の顔など)を渦巻き状に配置した。ただ、これはそれほど効果は狙っておらず、重要なこだわりではない。
意図する実験はさておき、「なんか楽しい」ということを第一に目指し制作した。改良が必要な点は多々あるが、なんとなく楽しんでもらえれば幸いである。