見出し画像

【LuckyFes②-1】LuckyFesはどんな音楽フェスだったのか?【はじまり・テーマ・コンセプト編】

今回は、7/23(土)・7/24(日)に茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園にて開催された「LuckyFM Green Festival(通称:LuckyFes(ラッキーフェス)」を、フェスのテーマ、コンセプトなどから考えていきたいと思います。

LuckyFesに関しては、茨城放送のプレスリリースLuckyFes公式サイト内で公開された実施報告書を一つひとつ読めば十分すぎるほど内容を把握できるかと思いますが、著者の記事ではもう少し踏み込んで紹介していきます。


LuckyFesのはじまりーROCK IN JAPAN FESTIVALの千葉移転

LuckyFesは、2022年1月5日、ROCK IN JAPAN FESTIVAL(以下「ロッキン」)の千葉移転の発表を受け、LuckyFM茨城放送が「茨城のフェス文化の灯を消すな!」を合言葉に「独自の音楽フェス」を企画・発表したことから始まった。

なお、ロッキンの千葉移転の経緯や地元の反応等に関しては、NHK水戸放送局の取材記事に詳しく記されている。

その後、1月下旬から2月上旬にかけて、新フェスの名称やテーマ・コンセプトが発表される。

さらに3月にはクラウドファンディングサービスによる支援金の募集を開始、目標金額を大幅に達成し、クラウドファンディングは無事終了している。

クラウドファンディングの支援者は「スポンサー」として、公式サイトのスポンサーページに名前が記載されている。個人的には、ロッキン移転を受けた千葉県の熊谷俊人県知事の名前があることが印象的だった。

クラウドファンディングを成功させたのち、いよいよ4月下旬からアーティストや日程の発表、チケットの発売が始まり、フェスに向けての取り組みが加速していく。


テーマ・コンセプト編

ここからは、現地取材の様子や筆者の視点を交えながら、テーマやコンセプトを紹介していく。

LuckyFesのテーマは「音楽と食とアートの祭典」。このテーマのもとに、5つのコンセプトを立て実施されている。

【LuckyFes5つのコンセプト】

①グリーン:環境にやさしく〜茨城の豊かな緑が生い茂る場所で、地球環境に徹底的に配慮して開催
②クロスオーバー:LuckyFMらしさ〜局の番組に連動させた多様なジャンルの音楽を提供
③テーマパーク:参加型フェス〜地元茨城の食や国内外のアートも楽しめる
④ファミリー:未来の子供たちに向けて〜子連れ、家族でも安心して楽しめる
⑤安心安全:医療団体と連携して新型コロナ対策や熱中症対策を万全にする

https://luckyfes.com/lucky-fesより引用

①グリーン

環境に配慮する意図で、いくつかの協力企業がプレスリリースにて紹介されている

実際、温室効果ガスの排出量を測定する装置のようなものがあるのかどうか現地で探してみたが、さすがに見つからなかった。しかし、ゴミの分別に関しては、スタッフが参加者に丁寧に働きかけている風景は幾度も見た。特に子どもに対しては優しく対応し、時には笑顔で子どもと一緒にペットボトルの分別をして子どもに分別の仕方を教えているスタッフが多かったことが好印象だった。

ペットボトルのリサイクルに関しては、株式会社エフピコの協力により実施されているようだ。エフピコは食品トレー容器の大手として知られており、生産工場やリサイクル工場が多く茨城県西地区(生産工場:八千代町・筑西市・下妻市、リサイクル工場:八千代町)に立地している。

さらに、今の世の中における環境問題への意識の高まりを受け、県西地区の坂東市に用地を取得するとのことである。

グリーンに関して、LuckyFesに協力している他の企業も、グロービス(総合プロデューサー堀氏が立ち上げた企業、MBA養成大学院)のwebサイト内で確認することができる。グロービスがこれまで携わってきた実業家や起業家とのつながりを感じることができる…ということであろうか。

②クロスオーバー

出演アーティストの音楽のジャンルや世代などにおける「クロスオーバー」ぶりは、出演アーティストの発表が行われるたびに少々話題にはなっていた。

出演アーティストの各日程へのタイムテーブルの配置も、最終的には納得のいくものであったと思われる。その多様ぶりはまさに「クロスオーバー」のコンセプトの名に恥じないものであった。

筆者としては、「クロスオーバー」というコンセプトの、ラジオ局らしさ…LuckyFMの番組と連動させた部分がとても面白い試みだと感じた。現地にLuckyFMのブースを設け(※一般には非公開)、通常放送されている一部レギュラー番組の中に現地レポートや出演アーティストのインタビューを盛り込んで放送していた。なお、現地レポートを番組に盛り込んでいたのは以下の番組である。

【現地レポートを入れて当日放送していた番組】
※番組名-通常パーソナリティー
※敬称略

<7/23(土)>
・4Me-菊地真衣アナウンサー
・土曜王国~サタデイキングダム~-バロン山崎・廣瀬千鶴
・週刊ニュースポ!-柴田明子・古谷経衡
☆当日レポーター:蓑輪史織アナウンサー・くまきもえ

<7/24(日)>
・(※当時は夏なので、高校野球茨城県予選の放送枠が15:00まで確保されていた。その放送枠の時間をある程度LuckyFesに充てていた。この時間帯、通常は「SUNDAY 10 Carat Numbers(パーソナリティー:八木志芳)」などの人気番組が放送されている)
・レバレジーズpresents MUSIC COUNTDOWN-オズワルド
・J・K HIP-HOP-蓑輪史織アナウンサー・TRILL DYNASTY
☆当日レポーター:· 山口あや・くまきもえ

※山口あや:HAPPYパンチ!等担当パーソナリティー
※くまきもえ:HAPPYパンチ!、LuckyもえClubMusic等担当パーソナリティー

https://lucky-ibaraki.com/timetblより引用

番組内では、レポート担当の楽しいレポートや、出演を終えたばかりのアーティストの声を聴くことができた。当日フェスに参加をしていた方は、その様子をリアルタイムで聴くことはできなかったと思われるが、フェスが行われている裏でラジオの番組は通常通り放送され、その中でフェスの様子が伝えられるという試みはラジオ局が主催するフェスならではと感じた。LuckyFesは「クロスオーバー」というコンセプトを見事に体現してくれていたと個人的には思っている。

③テーマパーク

「参加型フェス〜地元茨城の食や国内外のアートも楽しめる」の部分にも、運営側としてはかなり力を入れていると感じた。

まずは「食」の部分。LuckyFesのフードプロデューサーとして「食の祭典」を統括したのはLAF Entertainment株式会社代表取締役CEOの遠藤衆氏。肉フェス・餃子フェスなどを手がけた実績を持つ。

LAF Entertainment株式会社は、ライブエグザム・イープラス共同出資による合弁会社である。ライブエグザムは音楽ファンにもおなじみ、「Zepp」を源流とする企業である(※Zeppのライブ企画部門)。遠藤氏は経歴的にも音楽・ライブ事業に造詣が深い印象があり、「音楽」と「食」による「フードエンターテイメント」をフェスで体現するのにはうってつけの人物であると言える。

上記インタビューの中で語られている「食のクロスオーバー」に関しては、筆者も遠藤氏の狙い通りの体験をした。

27店舗中、12店舗が茨城からの出店。
「①グリーン」で取り上げたプレスリリースの記事にも記載されていたように、
茨城産の食材を使用している店舗が数多くあった。

「クロスオーバー」のコンセプトを食で実現させる意気込みの表れであろうか、メニューに関してはバランスの良さを感じた。また、ピザ・チキン・グリル・麺・ケバブなど「世界の料理」を意識できる店舗が配置されていたことで、より食の「クロスオーバー」を感じることができた。

筆者の個人的な体験として、「クロスオーバー」を感じたのは、LUCKY DINING(※店舗と飲食スペース)にてブラジルグリルの肉を食べていた時だ。

塩のきいたシンプルな味付けによる肉がとても美味しかった。

LUCKY DININGはGREEN STAGEの隣に配置されているため、この場所で食べているときにはGREEN STAGEで演奏されている音楽がダイレクトに聞こえてきた。

この肉を食べていたときにちょうど聞こえてきたのがDIAMANTES(ディアマンテス)の演奏だったのだ。

DIAMANTESは日系ペルー三世であるアルベルト城間擁するラテンバンド。DIAMANTESの生の演奏が流れてくるというあまりのタイミングの良さ、そして料理と音楽とのドンピシャ具合に思わず心の中で唸ってしまった。

その時、GREEN STAGEはLUCKY DININGにとって場所的に「ラジオ番組」のように機能していると感じた。ラジオ局が主催する音楽フェスならではの、しかも主催者と遠藤氏が狙った通りの体験をすることができ、個人的に忘れられない思い出となった。前回の記事で少し触れた、「SKY-HI氏(音楽プロデューサー・ヒップホップMC)がラジオというメディアをとても大事にしている理由」…「ラジオは『偶然の出会いを生めるメディア』だから」という部分にも大きく頷けてしまう出来事だった。ブラジルグリルの肉を食べている時にDIAMANTESの生演奏が聞こえてきた、というのはまさに偶然が生んだものだ。「LuckyFMらしさ」が生んだこの偶然にはとても感謝している。

次に「アート」の部分。アートに関しては、クリエイティブディレクターとしてFantasista Utamaro氏を起用している。

Fantasista Utamaro氏のアートワークで、ひたち海浜公園に常時設置されている「たまご」はカラフルに生まれ変わり、そのたまごの中で多くの子どもたちがわいわいと遊んでいた。

元の「たまご」が…
カラフルに!

実は個人的に今回のフェスで一番驚いたのはこの「アート」の部分だった。Fantasista Utamaro氏のライフワーク「無限増殖するアートワーク」の、まさに無限増殖する様をリアルに目にすることができたからだ。

翼のゲートから会場に入場してすぐの場所で、スタッフが「ステッカー」を配布していた。

そのスタッフは参加者に「今回のフェスは参加型なので、オブジェも皆さんに参加していただくことで完成します。是非このステッカーをペタペタ貼って参加してくださいね」と声を掛けながら、にこやかにステッカーを配布していた。

A4のステッカーをA3用紙に貼るとこのようになる。

このシールを設置してあるオブジェに自由に貼っていくのである。

どんどん貼っていく…
さらに貼っていくと…
終盤にはこんな風に!

非対称の形のシールを自由に貼っていく…ただそれだけの行為でオブジェの印象が都度変化し、作品として完成に近づいていく。色彩的にも何の違和感もない。この発想そのものが芸術的だ。とても筆者には思いつかない。まさに無限増殖であり、完成まで絶えず変化していく。それは世の理を表現しているようにも感じた。

これが入口すぐのクジラのオブジェの「究極完成形」。
(※7/25撮影。原状回復規制中のひたち海浜公園の歩行可能エリアを遵守して撮影している)

子どもから大人まで、楽しそうにシールを貼っている場面に何度も遭遇した。そのたびに心がほっこりした。「参加型フェス」のコンセプトは伊達ではなかった。素晴らしいコンセプト、アートであった。

なお、アートプロデューサーは磯崎寛也氏。水戸市三の丸にてアートギャラリーを運営している

また、B1バスケチーム茨城ロボッツによりバスケコートも設置され、そこでは茨城ロボッツ所属選手による3ポイントチャレンジやサイン会なども行われた。それ以外の時間帯はフェス参加者もゴールチャレンジに参加することができ、たくさんの方がチャレンジしていた。

他にも、バスケコート近くのRed BullのDJブースのそばで少年がダンスを披露していたり、どの場所にいても参加者次第で楽しく過ごすことができる仕掛けがたくさんあった。フェス側は知恵を絞り、あらゆる手段を尽くして「テーマパーク」を表現していると感じた。

④ファミリー

LuckyFesは「ファミリーで参加できる」というコンセプトをかなり強く打ち出していた。その結果、初日の7/23にはたくさんのファミリーが参加、ファミリーエリア・テントエリア・チルエリアといったテントを張ることが可能なスペースは早々に満杯となり、急遽奥のエリアを臨時で開放する事態になるほどであった。

テントをベースにして、ファミリーたちは自由にフェスを謳歌していた。お気に入りのアーティストを見に出かけている家族がいる一方で、テントで昼寝をしているお父さん、ゲームをしている子ども、フェスご飯を堪能している家族など、それぞれがフェスの時間を自由に過ごしている様子がうかがえた。

たくさんのテントがあったチルエリア。

「②クロスオーバー」や「③テーマパーク」の部分でも述べてきた通り、家族たちはそれぞれが自由に楽しく過ごしていた。

ただし、「ファミリー」をコンセプトの大きい柱として立てる以上、避けられないのが乳児・幼児への配慮だ。

自然豊かな空間に舞うシャボン玉はとても美しかった。

家族の管理が届く範囲に乳児や幼児の世話ができるスペースとして、ファミリーエリア内に授乳室やキッズエリアを設置していた。これはファミリーにとって大きな安心材料だったのではないだろうか。

⑤安心安全

当時も今もコロナ禍である。堀氏は自身のTwitterで何度も行政や医師会との連携のもとフェスを実施することを強調していた。

また、フェスの少し前に厚生労働省からマスク着用の考え方が提示されたことを受け、コロナ感染予防と熱中症対策を両立するためフェスのガイドラインも変更された

そのため現地では、参加者のマスクに対する反応や価値観は様々だったと感じた。しかし、ほとんどの参加者がガイドラインを遵守し、やや密になる場所ではマスクをしていたと思う。

あとこれはいち参加者として、そして弱小ではあるが今回のフェスを取り上げるいち個人メディアとして強く伝えたいことだが、主催者や出演アーティスト達が意図的に観客を煽るということはなかったはずだ(※もちろん気分が高揚して「つい」悪意なく煽ってしまったアーティストがごく一部存在していることは聞いている。しかし、フェスのガイドラインは出演アーティストにも適用されるため、演奏の中断をお願いする場合があることを運営側から各アーティストに強く伝えられている)。「大声」や「コール」なくフェスが運営できるよう、堀氏はヒップホップフェスティバル『POP YOURS』などの現地に赴き、フェスを研究している。

特に危惧されていたのは2日目7/24のGREEN STAGE(ヒップホップアーティストステージ)だったのだろう。しかし、出演アーティスト達は観客の様子が行き過ぎていると感じたら、ステージの上から注意を促していた。あるヒップホップMCは「約束したじゃねーか!」と言っていたそうだ。また、GREEN STAGEの大トリを飾ったt-Aceは演奏中以下のように叫んでいた。

「これまで散々煽ってきたこの俺が、煽りたいのに煽れないんだそ!
 わーかーれーーー!!」

7/24GREEN STAGEでのt-Aceの発言より

観客に注意を促すため、多くのスタッフがプラカート(「大声禁止」の旨の書かれているもの)を持って会場中を歩き回っていたし、中にはかなり強めに注意するスタッフもいた。

フェスの参加者の数だけフェスの見方・評価の仕方がある。一人ひとり参加した方の見た景色やネット等で発言していた内容が全てではない。筆者がここまで書いてきたこともそうなのだが、フェスに対する「視点の一つ」として参考にしていただきたい。

実は筆者もフェスの途中で救護ブースのお世話になったため、中でどのような対応が
行われているかは知っているが省略する。
看護師の方々はとても優しかったし、対応も的確だった。本当にありがとうございました。
手を洗う場所も多く配置。
椅子に座るスペースは木陰やテントを最大限活用していた。

また、1日目の7/23の夕方には線状降水帯のような雲が発生し、雷警報が出され、大雨に襲われるという事態に。コロナでも熱中症でもない事案で「安全」が試される、初回にして伝説のフェスとなった。

当日筆者はその時間帯、GREEN STAGEそばの飲食スペースにいた。ステージで何かが発表され人がぞくぞくとGREEN STAGEから出てくる様子を見て異常を察知した。その後ほどなくして、ひたち海浜公園のスピーカーにて「雷警報が発令されたため、全員避雷針・翼のゲート付近に避難する」よう案内された。テントエリアにいた方々も戸惑いながら移動を始めた。スタッフの懸命の呼び掛けもあり、全参加者が翼のゲート付近に避難した。

避雷針付近でスタッフがとにかく徹底して叫んでいたのは「木から4m以上離れ、姿勢を低くする(しゃがむ)」ことであった。とあるフェスでは落雷事故による死者が出ている。本当に命に関わることだ。スタッフ達は真剣そのものだったし、その真剣さは参加者達にも伝播していった。筆者も強い雨に打たれながら、とにかく全員の無事とフェスの再開を願っていた。

LUCKY STAGEの避雷針付近では、スタッフが「木から4m以上離れる」よう何度も叫んでいた。
最終的には複数のスタッフで人の列を作って木から4m以上の間隔を作っていた。
参加者全員を守ってくれた避雷針。

17:30頃だっただろうか、雨が上がり、そのあとには虹が出ていた。死者が出ることなく無事にフェスが終了したことに対し、運営やスタッフの皆さまに心から感謝したい。


以上、LuckyFesのテーマ・コンセプトを筆者の視点を交えて紹介しました。お読みいただきありがとうございました。次回【LuckyFes②-2】は【協賛企業研究編】となります


<LuckyFesを追ったマガジンの発行を目指しています!>

7/23(土)・7/24(日)に茨城県ひたちなか市の国営ひたち海浜公園にて開催された「LuckyFM Green Festival(通称:LuckyFes(ラッキーフェス)」。

2022年冬を目標に、LuckyFesや周辺地域の地方創生などの内容にも踏み込んだマガジンを発行予定です。発行日などは決まり次第、noteにて告知いたします!

いいなと思ったら応援しよう!