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20歳の自分に受けさせたい文章講義。

ついに、ようやく、念願の、電子版ができあがった。

ぼくの単著デビュー作でもある、星海社新書の『20歳の自分に受けさせたい文章講義』だ。スマホや iPad のなかでこれを読めることが、いま単純にうれしい。

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いまからちょうど10年前、2010年に設立された星海社はこれまで、電子書籍を持たずにやってきた。紙媒体へのこだわりとか、インクへの偏愛とか、そういう懐古的な理由からではなく——ぼくの理解するところでは——ほんとうの電子書籍は、「これ」とは違ったかたちなのではないか? という問いをもとに、ブラウザベースでの読書体験提供を10年前から模索し続けてきた会社だ。ぼくはその姿勢が好きだったし、ずっと応援し続けてきた。

それでも電子書籍元年といわれた2010年から10年が過ぎ、スマートフォンや電子書籍専用端末を介しての読書が当たり前になり、また電子書籍内での「できること」が増えていったこの2020年、ついに星海社が電子書籍の配信へと動きはじめた。


しかも、ただ電子版をつくるのではない。

なんと、電子書籍専用の日本語かなフォントを2種類つくり、それを組み込んだ上で配信するというのである。社長の太田克史さんからそのプランを聞かされたとき、ぼくは「さすが太田さん!」とよろこんだ。


「それで、ひとつお願いがあるんですけど……」

太田さんが言う。

「今回、フィクション用のフォントをひとつと、ノンフィクション用のフォントをひとつ、つくろうと思っているんですよね。それで、そのノンフィクション用フォントの開発アドバイザーを古賀さんにお願いできないかと思っていて……」

「……えっと、いや、ちなみにフィクション用フォントの開発アドバイザーは、どなたが務められるんでしょう?」

「受けていただけるかどうかはともかく、京極夏彦さんにお願いしようと思っています」

「ええええええええええええ!!!!!」


結果、フィクション用かなフォントの開発アドバイザーは京極夏彦さんがお務めになり、ノンフィクション用かなフォントの開発アドバイザーは、ぼくが務めさせていただいた。書体設計を担当されたのは「ヒラギノ」の書体設計士・字游工房の鳥海修さん。フィクション用かなフォントには京極夏彦さんが「フミテ —筆—」の名を与え、ノンフィクション用かなフォントにはぼくが「なぎ —凪—」の名前を付けさせていただいた。ひとつの書体がどうつくられていくのか、その過程を垣間見ることのできる一生に一度あるかないかの、貴重すぎる経験だった。


ちなみに、開発アドバイザー就任に怖じ気づくぼくに太田さんは、こんなふうに声をかけてくださった。


「古賀さん。この分野における古賀さんは、ご自分で思っているより何倍・何十倍もすごい、第一人者なんですよ。その自覚は持ってください」


太田さんは、カッキーとはまた違ったスーパー編集者だ。一緒に本をつくる機会のなかったぼくでさえ、何度も驚かされ、何度も感激させられてきた。もちろん、今回のご依頼とそのプロセスにもまた、スーパー編集者の凄みを見せつけられた。

そういう諸々もあって、今回の電子化はほんとに感慨深いのである。