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こんなふうに書いている、という実況。

まあ、みんな言いますよね、「急に寒くなった」って。

それじゃあおもしろくないから「暖房を入れた」とか「こたつを出した」とか、「今夜は鍋にする」とか「余ったそうめんどうしよう」とか、そういう話をする人もいるでしょう。

そうなんですよ、そのストレートな物言いに対する「それじゃあおもしろくないから」が大事なんですよ、なにかを書くうえでは。

書き出しを考えるときに、他の人ならどう書くかなあ、何の話から始めるかなあと考える。その上で、他の人がやりそうなものは全部捨てるんです。

『思考のレッスン』丸谷才一

「急に寒くなった」じゃダメだし、「暖房を入れた」とか「鍋が食べたい」もおそらく人口密集地域。だったらどこから話をはじめるか。実況中継っぽくやってみたいと思います。

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冷えた水、うめえじゃねえか。
きんきんに冷えきったミネラルウォーターを飲み干して、そう思った。

ここから話をはじめることにしました。「え? こんなに寒いのに?」「急に冷えてきたってのに?」ではありますが、まあここから。

もっとも、本日の東京はガクンと気温が下がった。しかも昨日から雨が続いていて、底冷えさえしている。ホットココアのひとつくらい飲みたい気温である。

こんなふうにつなぎました。もちろん寒いよ、先週とかに書いた文章じゃないよ、ちゃんと今日の気温を受けたうえで書いていますよ、というアナウンスです。

とくにうちのオフィスはむき出しともいえるコンクリート造で若干のすきま風もあるため、気温がてきめんに下がりやすい。Tシャツで仕事をしていたぼくは、暖房を入れることにした。

まあ、そんな東京のなかでもとくに冷えてる建物にいますよ、着込んでいるわけでもありませんよ、という状況説明でしょうか。暖房の話もごく自然に、特別な出来事という感じを出すことなく挿入しました。

ああ、暖かい。ひさしぶりの暖房はオフィスをすこしずつぬくぬくの空間に変え、なんならほっぺが火照ったりしている。そうだったそうだった、これが暖房のぬくもりだった。夏の暑さでそんなことは起こらないのに、冬の暖房だと頬が火照るんだ。ぼくは安心して仕事を続けた。

暖房を入れたあと、オフィスや自分にどんな変化があったのかの説明です。ひさしぶりの暖房なのですから、そこにある「なつかしさ」にやや多くの筆を費やしてみました。これは若干の伏線です。

しかし、完全に忘れていた。部屋の温度が上昇してくると今度は、喉が渇いてくるのだった。そう、火照った身体が、冷たい水を求めてくるのである。

ここで冒頭の一文につながる要素の登場です。そうなんですよ、暖房を入れてると喉が渇くんですよ。それを完全に忘れていたんですよ、暑い夏のあいだに。

そういうわけで現在ぼくは、ウォーターサーバーの冷水をなみなみとコップに注ぎ、いま飲みまくっているのである。「寒い=温かい飲みもの」なんて先入観に負けず、ほんとうに身体が欲しているものを、飲んでいるのである。

はい。冷えた水の説明が終わりました。だったらそろそろ、締めくくってもかまわないでしょう。最後は、なにか教訓っぽい話を絡めるか、オチのひと言でも入れて終わりたいところです。

考えてみれば寒い冬、ガンガンに暖房が効いた部屋で食べるアイスクリームはとてもおいしいものである。明らかにいろいろと間違っているんだけど、その間違いごと味わう背徳感が、暖房部屋のアイスクリームにはある。何事も頭のなかだけで考えず、真冬にもハーゲンダッツが繁盛し、コンビニの氷菓コーナーが縮小しないその意味をぼくらはもっと考えるべきなのだ。
いや、ぼくは滅多にアイス食べないんだけど。

問題はまるでオチがついていないところですが、あまり深く考えずこのまま公開します。それがわたしのnoteです。