経験してないと出てこない言葉が好きだ
そのまんまなんだけど。言葉についての短い戯言。
取材でもそうじゃなくても、誰かの話を聞かせてもらっていて「持っていかれそう」な瞬間がある。
言葉の被写界深度がそこだけ浅くなって、言葉だけがその場で浮き上がるというか。迫ってくる感じ。
周りの情景がスローモーションで静かになり、その言葉がクリアに像を結ぶ。
経験してないと出てこない言葉が出てきたときっていつもそうなる。それって、すごく心がつかまれる。僥倖というか。
いろんな人の話を聞かせてもらうことを仕事にしてるから、もしかしたら人より少しだけそういう機会が多いのかもしれない。
それなりにヘビーなものを越えてきたある人は、こう言った。
「しんどさは消える。事実だけが残る」
そうか、と思う。言葉の前に正座している。
成獣のクマとばったり遭遇したことのある人は
「その瞬間、自分の動物の毛穴が閉じた」と。
ふだん、散々いろんな言葉を扱ってるのに、この新鮮な感覚ってなんだろうとそのたびに思う。
なんならある程度自分でそれっぽい状況の言葉をつくれる技術があっても、経験してないと出て来ない言葉は強いなと。