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空飛ぶイカ

いつも眺めていた。いいなぁと思いながら。あっちのほうが広々して気持ちよさそうだな。

ある日、僕は思い切って飛び出した。仲間たちには内緒で。言ったらきっと反対するに決まってる。

最初はなんていうか、何も囲まれてない感じがして落ち着かなかった。スースーする。

意外と泳げるんだな。自分でもそう思った。いつも泳いでるみたいに、上の世界でも気持ちよく泳げる。

ただ、あんなにいつも眺めてた目の覚めるような世界は思いがけず透明で、どっちかというと白っぽいんだ。見るのとそこに飛んでみるのでは大違いだ。

どこからか黒い鳥が僕を見つけて近づいてきた。

「こんなとこで何してるんだい?」

「ここで泳いでちゃダメかな?」

「かまやしないけど、乾くぜ?」

言われてみれば、さっきからなんとなく身体が軽いなと思ってた。こういうものなのかなと思ってのだけど。

だんだん自分の身体が自分のではなくなっていく。

気がついたら僕は寝ていた。背中の辺りに規則的な編み目を感じる。見上げると「呼子へようこそ」とかなんとか書かれた看板が目に入った。

よく見たら、僕の隣にもその隣にも仲間たちが寝ていた。

「どうだった、あっちは?」

よく一緒に追いかけ合ってた仲間が僕に声をかけてきた。

「おんなじ色してるからいけるかなと思ったけど、やっぱり落ち着かないな。海の中のほうがいいよ」

不意に、人の気配がした。

――ねぇねぇ、なんでこのイカだけ透明なの?

親子連れの観光客の子が母親にたずねてる。

「あ、ほんとだ! クリアファイルみたいになってるねー。このイカさん」

道理でまたさらにスースーするわけだ。

「このイカさんがいい! これにする!」

指名された僕はひょいと持ち上げられ、袋の中に放り込まれる。

「じゃあな、みんな。今度こそさよならだ」

僕はみんなに足を振った。やっぱりうまく力が入らなかった。

「青色」をイカしました。

くコ:彡 くコ:彡 くコ:彡💦ピューン