鳩のための入試問題
『公園内のハトはご自分でお持ち帰りください。』
公園の出口に立てられた看板の前で思わず鳩と目が合う。
「持って帰られちゃうんですか僕?」 鳩が言う。
困ったね。僕は答える。僕も鳩を持ち帰ったってしかたない。
だけど、と僕は言う。
何か言おうとした僕を、鳩が咽を鳴らしながら遮る。
そんなことより、これ手伝ってもらえませんか? 鳩が言う。
鳩の首には、鳩のための入試問題集。
お前、受験なの?
鳩ですからね。
僕は問題集のページをめくる。
《東ティモールにおける鳩の役割を簡潔に答えよ》
僕には答えられそうもないな。悪いけど。僕は言う。
「いいんですよ、別に。鳩は正解を知ってますから」
だけどその答えが本当に正しいのかどうかは――。
僕は、また何か言おうとしたけれど途中で言うのをやめる。
帰りましょう。鳩が言う。
僕は、ぽたぽたと鳩のあとをついて歩きながら、
東ティモールの白く、くすんだ空を飛び回る鳩のことを考える。
考えながら東ティモールに鳩なんているのかなと、ふと思う。
きっといるのだろう。酔っ払いや詐欺師のいない町がないように、
そこにも鳩はいるのだ。
「どうかしたんですか?」
鳩が僕を振り返り言う。
なんでもないよ。僕は言う。そう、本当になんでもないのだ。