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宇宙への裏方をしたよという話

普段、自分のnoteでは「仕事」の話ってほとんどしない。大きな意味での「生きることを仕事にする」みたいなのはするんだけど。

べつに何かルールやビリーフがあってというのでもないのだけど、なんとなく。

そこを掘っていくとそれなりに掘れてしまう。たぶん、ライターとか編集の仕事って「こういうの」って切り取りやすいから、それだけでバリューがあるみたいに見えてしまうけど、そんなことはないと思ってて。

たまたま、名前が出る仕事をしてるだけで、そこに本質的な意味はない。

じゃあ、仕事の本質的な意味とかバリューって何なんだろう。

諸説あるけど、その仕事が存在しないと「仕事が成立しない」ものかどうかっていうのもあるかもしれない。

たとえば飛行機を運航する「仕事」があって、それはもちろんパイロットや客室乗務員、管制官なんかが「目立つ」のだけど、当然、それだけでは飛行機は運航できない。

ディスパッチャーと呼ばれる運航管理の仕事、整備士、さまざまな地上支援をするグランドハンドリング、ほかにも無数の仕事が絡み合って、ちゃんと飛行機が運航できる。

なにそれ、あたり前じゃんって思うかもしれないけど、そうじゃないと思う。

「きょうはプッシュバック(誘導路まで飛行機を押し出すアレ)なしで自分でやってね」なんてあり得ない。原理的には飛行機はバックできなくないけど、さまざまな理由でできないし、やってはいけないのだ。

裏方と言えば裏方の仕事だけど、その仕事がなければ飛行機の運航は成立しない。

プッシュバックをほとんどの乗客はいちいち気に留めないのだけど、そういう仕事をしてる人こそ「この仕事が支えている」という矜持を持っている。口にはしないけれど。

で、なんで飛行機の話をしてるのか。そう、これが業界に古くからある伝統芸「前振り」というやつ。

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飛行機ではないけど宇宙へ夢を載せて飛んでいくロケットや宇宙探査機開発の先駆者たちがたくさん出てくる、子ども向けの本の制作プロジェクトに携わらせてもらったからだ。

NASAの父と娘による宇宙探査のストーリー

NASAの技術者である父と、その娘ミーちゃんとの対話を通して、宇宙探査の歴史が語られます。わかりやすく、親しみやすいストーリー展開と、世界観を表現するイラストたち。
その途中には、ここでしか読めない宇宙をテーマにした美しくディープなコラムも差し込まれ、図鑑としても読めます。
火星探査の最前線で活躍する著者が生み出した、全くあたらしい宇宙の定番書。
10年後もそばに置いておきたい、珠玉の児童書が誕生しました。
(出版社の紹介文)


著者の小野雅裕(おの まさひろ)さんはカリフォルニア州PasadenaにあるNASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)のエンジニア。NASA JPLはNASAの無人宇宙探査ミッションの中心的存在で太陽系のすべての惑星に探査機を送り込んだ世界で唯一の研究機関。

2020年7月に打ち上げられた「アトラスV」ロケットに搭載されている火星探査機「Mars 2020/Perseverance(パーサヴィアランス)」も小野さんたちが開発したものだ。

パーサヴィアランスは来年火星に降り立ち、火星の生命の痕跡を地球に持ち帰る壮大なプロジェクトを担っている。

今回の本『宇宙の話をしよう』はそんな人類の宇宙探査の知られざるストーリーを、NASAの技術者をパパに持つ、女の子ミーちゃんとパパの対話で追っていくもの。利根川初美さんの宇宙愛にあふれたイラストも良き。

なのだけど、小野さんのコンセプトは「教える本」ではなく、子どもたちの「話を聞く」本。僕も個人的に、このコンセプトがすごく気に入っている。

なんだろう。宇宙の話に限らず、いまって大人が話を聞かない。要件だけ手早く。大事なポイントだけ。そういう話の聞き方をする人は多い。だけど、本当に話を聞けてるかというと聴けてない。

その話はどういう興味や関心から出てきてるのだろう。その話の根っこは何につながって、どんな養分を必要としてるのだろう。その話がちゃんと育っていったら、その先の未来にどんなものが生まれるのだろう。

本当に話を聞くのは、そういうところまでイマジネーションを働かせることだと思う。

このときのベクトルはフラットだ。ベクトルがフラットなんておかしな表現なのはわかってるけど。なんていうか、いろんな可能性を含んだ状態でいること。評価ゼロの状態。そこからどこにでも飛び立てる。

パパとミーちゃんが対話する「宇宙の話」も、そんな感じ。だから、読んでいていろんなところに行けるのだ。それが楽しい。

僕らが担当したのは、物語の中で随所に挟まれるトータル50ページほどの図鑑的なコラムページ。

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宇宙っ子の「本気の興味」に応えられる、ここもまた濃い内容になってて、制作中はNASAから飛んできたヤギには理解できない宇宙語(比喩ではないやつ)が飛び交ってた。

一応、カテゴリは児童書だけど、大人が十分読んで楽しめる。というか、正直、この濃いボリュームの内容を子どもたちが? と最初僕も関係者とクラウドで共有した原稿や素材の山を前にしてびびった。

書籍の進行も通常ではないつくり方しないと無理。なんていうかいつもは絶対その情報量、密度ではつくらない。

でも、今回の書籍プロジェクトは宇宙が好きすぎて周りに誰もついて来れる子がいないような子どもたちの話を文字通り「聞いて」つくる本。ちゃんと彼ら彼女たちを、新しい発見がたくさんある宇宙に連れていく使命があるのだ。

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とはいえ物理的に地球上で印刷されるページは二次元、本の物体として三次元なので、フォーマット的にさまざまな制約がある。

印刷事故が起こらないギリギリの版面でページデザインとレイアウトに落とし込み、ページ前半と後半で微妙に違ってくるノドの食い込みを計算をして、見開きでロケットの精密なスケールイラストをいくつも載せるとか(DTPやる人ならその綱渡りわかると思う)、何度も調整を重ねた。興味ある人は実際の本で確かめてもらえたらうれしいけど。

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まあでも、そんなのは裏方の世界なので、通常は表に出すものでもない。

ロケット飛ばすとか無人宇宙探査ミッションにどれだけの表に出ない裏方の仕事があるのかは想像するしかないけど、きっと宇宙につながる世界にも無数の「知らない仕事」があるんだろう。

その一つひとつの「仕事」にも、知らないわくわくや発見があり、いろんな宇宙が広がってる。人間くさいものもあれば、スペーステクノロジーの最先端のもの、あるいはファンタスティックで哲学的なものも含めて。

そのどれもが「宇宙」を形成してるのだ。

この本が連れて行ってくれるのは本を媒介した先にある宇宙。子どもにも大人にも大事なことが星の数ほど広がった世界。

『宇宙の話をしよう』は、人間にとって大事なことを時空を超えて繋がってるものたちと対話することで確かめようとする本なのかもしれない。

地上の大人たちの哀れとしか言いようのない、あんなことやこんなことの重力場を抜け出した世界。

読んで終わりではなく、読んだ人たちとずっと旅を続けられるような本として存在できればいいな。