見出し画像

エレベーターボーイ

エレベーターに乗って1週間が過ぎた。

またおかしなこと言ってると思われるかもしれない。何の比喩、あるいはメタファーなのかと。

そうじゃない、ただふつうに上昇するエレベーターで過ごしている。

このnoteだってエレベーターの中で書いている。もちろん、最初からではない。誰も好き好んでエレベーターで一日過ごしたい人はいないと思う。たぶん。

例の禍が少しだけ薄まって、久しぶりにあるクライアントのオフィスが入ってる高層ビルに出向いたらそうなったのだ。

最初はいつものようにぼんやりと考えごとをしていた。このビルのエレベーターは途中まで完全に暗いエレベーターシャフトの中にあって、途中の中層階を過ぎたあたりからシースルーになる。

いや、この表現は正しくない。エレベーターの箱そのものは元からシースルーなのだけど、建物の窓がない空間では外が見えないだけだ。

外が見える中層階から目的階までのわずかな時間、僕はいつも大都会のもやった空と景色を見るでもなく見る。

37.38……エレベーターはエレベーター的に無表情な上昇をしていくのだけど、いつまで経っても目的階が近づいて速度が緩む気配がない。

45.46……相変わらず規則的に階数表示が積み上がっていく。

89.90……さすがに、ちょっと変だなと思う。そもそもこのビルは50階までしかないのだ。

エレベーターの階数表示は99を示したあとで消滅した。まあ、なんとなくそれは想像がついたのだけれど。

階数表示が完全に沈黙したエレベーターは何のためにどこに上昇しているのかわからない、ただの垂直移動する箱だった。エレベーターをエレベーターたらしめてるアイデンティティは、あの数字だったのだなと気付く。

僕はあきらめてパソコンを広げて仕事のつづきに取り掛かる。

エレベーターは緩慢な速度で上昇をつづけている。空が白い。