自分大好きとは違うタイプの「自分病」がある。むしろ逆。自分がどんどんなくなっていくほうの「自分病」だ。これ、想像するとちょっと怖い。
ソーシャル社会(この言葉も変だけど)になってからとくに自分病の人が増えている。SNSとかスマホが日常をゆるく、だけどどこまでも覆っている時代になってから「無自覚な自分病」が蔓延しているのだ。
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自分がどんどんなくなっていく自分病が進行すると、自分の中で「みんな」が増殖していく。まるでふつうの細胞=自分細胞が「がん」に侵されて、「みんな」というがん細胞化していく感じかもしれない。
実際のがん細胞も、ふつうの状態の細胞遺伝子がわずかに傷つけられたことで発生する。遺伝子の傷が一度に多く発生することはめったになく、長い時間をかけて徐々に傷が誘発されていくことが知られている。
そう、ここがまさにソーシャル化された環境で長くコミュニケーションし続けている私たちがおかれているのと同じなんじゃないだろうか。
本当は自分がAだと思ったり感じていても、みんながBだと思ってたり、そっちが正義になって、そこにヒーローのような存在まで登場したら自分の中の「Aだと思うのに」を無意識に押し殺してしまう。自分細胞をみんな細胞で傷つけてしまうのだ。
日常のささいなレベルから世の中の大きな出来事レベルまで、そうしたことを積み重ねていくと、どんどん自分本来の正常な細胞が傷つき、「がん」が体の中で増殖するように「みんな細胞」が自分を支配するようになっていく。
恐ろしいのは、これもがん細胞と同じで、傷つき異常を持ったがん細胞が増えると、さらに増殖のスピードが速くなる。通常は、細胞が体の組織の状態(たとえばケガをしたら一時的に修復のために細胞を増殖させるように)に合わせて細胞増殖をコントロールしているけれど、その制御がきかなくなって暴走し始めるのだ。
最初は、自分はこう思うのになんか変だなというぐらいの小さな違和感。
だけど、それを「みんな」に合わせてしまって、次第に何を考えるのも、何を決めるのも「みんなはどう言ってるか」「みんなはどう反応してるか」を確かめないとできなくなっていく。自分がこれでいいじゃんと思ったことも、「みんな」のいいねがないと不安になっていく。自分がなくなる自分病だ。
本来、自分の細胞はちゃんと自分の中でバランスをとって生きていけるようにできてるんだと思う。自分の本質的な部分での価値に周りがどうかは関係ない。
もちろんソーシャルのいい部分だってある。でもそれは、ちゃんと自分を持っていて、その上で自分とは異なる人や社会との差異から学んだり、それをいい意味で楽しんだり、あるいは自分にも取り入れたり、力を貸すためのものだと思う。自分病になるためのものではないのだから。
というようなことを考えてたら、ほんとにそのまんまのタイトルの本が出てるんですね。