12人の運転士たち
駅のホームで新幹線を待っていると自動案内放送が流れた。
「はくたか315号が12人編成で参ります」
空耳かと思ったてたら今度は駅員さんの声で「今度の1番線 12人編成です」と念押しするようにアナウンスがあった。
そうか12人編成なのか。ホームに列車が滑り込んでくる。たしかに新幹線だけど電車ではなく、人が12人で連なって手を繋いでいた。
時速250kmぐらいで走ってきたのだろう。みんな息があがって苦しそうだ。
自分が乗る車両は中井貴一さんみたいなおじさんが担当していた。ホームに停止した瞬間、何を言ってるのか聴き取れないくらい微かな渇いた声で「お待たせしました」と言った。
もしかしてサラメシのロケなのとも思ったけれどそんなに体を張る必要もない。それに、こんな過酷な仕事のあとではお昼ごはんどころではないだろう。
まだ少し苦しそうな表情の貴一さんに、なんとなく会釈して車内に入る。申し訳ないような気もしたけれど指定席も買ってしまったのだし仕方ない。
***
乗客はそれほど多くはない。どの乗客も人が12人で連なって走っていることに、とくに感慨もない様子で無に近い顔をして前方を見ている。
どんな仕事も楽なもものなんてないんだなとあらためて思う。突風のような速度で駆け抜ける新幹線は地上の乗り物の中では華やかなものに見えるけれど、今日みたいに誰かの息があがることだってあるのだ。
それでも仕事を終えて車庫に入ると、みんなは無言でそれぞれのお昼ごはんを食べるのだろう。
座席に座ってしばらくすると発車の機械音が鳴った。
12人編成の新幹線はまた加速し始める。トンネルに入った瞬間、誰かの呻き声のようなものが聞こえた。