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見覚えのある顔

何かを突きつけられるときってある。いまがそうなんだけど。

誰かが正面から歩いてこっちに向かってくるのを見てる。男の顔に見覚えがある。だけど同時に、こうも感じる。

見覚えがあるだけで、本当に自分に向かってきているのだろうか。わからない。

とうとう男は僕の前で立ち止まる。

男は何もしゃべらない。ただじっと自分の前で立っている。瞬きもせずに。立ちはだかるという感じでもない。自分が避ければ男は、そのまま何もなかったかのように歩き去るだろう。

そうするべきなのだろうけど、それをしてはならない気がする。

なぜ男は、ほかにも歩けるところはあるのに自分に向かって真っすぐ歩いてきたのだろう。ここに僕がいるのがわかっていたかのように。

それでも、もしかしたら男の気が変わってくるりと向きを変えて戻っていくかもしれない。

僕はじっと待つ。どれぐらい時間が経ったのかもわからない。次第に意識がどこかに行きそうになる。

だんだん、僕が目の前の男を見ているのか、目の前の男が僕を見ているのか、自分の意識がどっちにあるのかわからなくなる。

これ以上は無理だ。自分がどっちにあるか分からなくなる前に、僕は自分の中の何かをこじ開けるようにして口を開く。

「どうして、僕を避けて先に行かないんだ?」

男の目の奥が微かに何かを呼び起こす。

「誰もそんなことはしないさ。なぜなら、お前の前に立ち尽くしてる男はお前自身だからだ。わかったら、俺は戻る」


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