鳩のための入試問題
『公園内のハトはご自分でお持ち帰りください。』
公園を出ようとして、見慣れない看板が立っているのに気づいた。
僕が看板の文字を何度か反芻していると、思わず鳩と目が合う。
「持って帰られちゃうんですか僕?」
鳩が言う。
そうだね困ったね。僕は答える。僕も鳩を持ち帰ったってしかたない。そもそも僕の鳩じゃない。
何か言おうとした僕を、鳩が咽を鳴らしながら遮る。
「そんなことより、これ手伝ってもらえませんか?」
鳩が言う。鳩の首には、鳩のための入試問題集。
もしかして、受験なの?
「鳩ですからね」
僕は問題集のページをめくる。
《東ティモールにおける鳩の役割を簡潔に答えよ》
僕には答えられそうもないな。悪いけど。僕は言う。
「いいんですよ、別に。鳩は正解を知ってますから」
だけどその答えが本当に正しいのかどうかは――。僕は、また何か言おうとしたけれど何を言いたかったのかわからなくなる。
「帰りましょう」鳩が言う。
*
僕は、ぽたぽたと鳩のあとをついて歩きながら、東ティモールの湿度が高く、妙に蒼い空を飛び回る鳩のことを考える。
考えながら、東ティモールに鳩なんているのかなと、ふと思う。
きっといるのだろう。酔っ払いや詐欺師のいない町がないように、そこにも鳩はいるのだ。
「どうかしたんですか?」
鳩が僕を振り返り言う。
なんでもないよ。僕は言う。そう、本当になんでもないのだ。
※昔のnoteのリライト再放送です