東京嫌いって言わないで
この話は、いつかしないといけなかった。
もし、あなたがどこかの街を好きだったとする。
その街のことを「嫌い」と、誰かに名指しで言われてるのを知ったり聞いたりすると、もやっとすると思う。
自分の好きな街を否定された気分。どうして? こんなにいい街なのに? 好きじゃないのは構わないけど、そんなふうには言わないでほしい。私にとっては大事な街だから。
いろいろな感情が出てくる。
それが大都会「東京」だとなおさら。知らなかったけど日本でいちばんたくさんの人が住んでたり仕事してる街なのだ。
わかってる。それなのに僕たちは『東京嫌い』と名付けた同人誌をつくろうとしている。
*
そもそも、どうして『東京嫌い』なのか。
最初は単純に「東京」だった。東京の街にある(物理で)noteに引き込まれた三人が集まった東京。
最初の編集会議で同人誌のテーマとしての東京はすんなり決まった。
だけど、それだけだとあまりにもつかみどころがない。粒度が粗い。ばくっとしすぎてる。
どうする? 歌舞伎町とか? それはそれでちょっと色がつきすぎる。
東京カレンダー? それはあかんやつ。いろんな意味で。
東京日和。それもいろいろ権利的に駄目。東京という街は意外に名付けるのが難しいのだ。
というところに責任編集のひとり、Yukiさんがぽろっと言った。
「東京嫌い」
それだ。なんだろう。東京だけだと漠然としてるものが「嫌い」が付くことで、人格を持ったかのように、そこにいる感じがする。言葉が立っている。
ただ懸念もなかったわけじゃない。東京の嫌いな話、控え目に言うと東京の悪口ばかり集めた同人誌って思われる可能性もあるから。もしかしたら実際、そんなコンセプトのも実際あるかもしれないけど。
『東京嫌い』には「東京が嫌い」というストレートな感情ももちろん入ってくるけど、それだけじゃない。
好きだったけど好きが拗れて、単純に好きとはもう言えなくなった。基本的に好きか嫌いかで言えば好きだけど、東京大好きとまでは言えないスキ。好きだからこそ、キライってつい言ってしまう瞬間。
何か追い求めたり、爪痕残したくて飛び込んだ街に受け入れられたり、跳ね返されたりした喜び、痛み。置いてきてしまった何か。
あるいは、東京の何でもない空と生活の匂い。
東京に付いてまわるいろんな感情を「東京嫌い」のことばは呑み込んでしまう。
*
あれだけの人が24時間365日行き交って、いろんな出会いや別れ、新しい何かが日々誕生し、その一方で数えきれない喪失が積み重なる。
そう、東京にはみんなが気付いていない、あるいは気に留めない感情の地層があるのだ。
東京のアスファルトを剥がすと、そこにあるのは土ではなく、きっと――。
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「プース・カフェ」のように、色も比重も異なるさまざまな東京の想い、愛憎、出来事を愛しく鮮やかに見せてくれる作品たち。
「あの人の新作や意外なあの人の新境地も……」
◎責任編集
林伸次(BAR BOSSA)
https://note.com/bar_bossa
ふみぐら社
https://note.com/fumigura