いまを食べて生きる
一食一食が大事で不味いものは食べたくない。
もしかしたら「は?」と思われたりカチンとくる(死語かも)言いぐさなのはわかってる。お前、何様のつもりなんだと。けど、本当にそうなのだから仕方ない。
もちろん、美味しい不味いなんて食のプロでもない限り日常レベルではほぼ主観だし、何を美味しく感じるかなんて自由。
その前提の上で「不味い」ものはなんか生きるちからが出ないのだ。自分が。
一応、補足しておくと僕自身はグルメ(これも死語かも)でも食にうるさい人でもなんでもない。食材や料理へのこだわりは? とか聞かれたら黙るしかない。
ただ、世の中には同じパンでも身体が美味しいと感じるものと、そうでもないと感じるものがあるなと思うだけ。パンは例えばの話だけど。
なんでだろう。たぶん、僕が感じてる不味いは「味」そのものじゃなくて、生きることと繋がってるかどうかの部分。
すごく感覚的で、そこを言語化したり前提条件をあげていくのは、それもなにか違う気がする。
燃料補給だけじゃない「食べて生きてる」ことを実感できる食。そういうものを摂取したい感覚が強い。自分ががんになってから特に。
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僕らは食べて生きている。何を当たり前のことをと思うかも。
うん。そうだね。みんな食べて生きてる。病気だとかいろんな事情で食べられない人ももちろんいる。
だけど、基本的に「ちゃんと食べたい」はどこかにある。これも僕自身の話であれなのだけど、入院したとき2週間(最初の予定では1か月)絶食をした。そうしないと命が危なかった。まあ、いまもひとつ間違えればそうなんだけど。
それまで、あたり前のように3食あるいはそこにプラス間食とか呑みながらつまむとかしてたのが蝋燭の灯をふっと消されたみたいになくなった。
だからといって空腹感もない。中心静脈栄養と呼ばれる高濃度の輸液を点滴で送り込んでいたからだ。
あの時、僕は生命維持はできてたけれど「生きてる」という強い実感は持てなかった。なにかが足りない。食べて生きてなかったからだ。
もちろん医療的に治療のために意味のある絶食だったから、そこに不満があるわけじゃない。ただ、やっぱり人間は「食べて」「生きてる」のだなと、あらためて思っただけ。
何も考えずになんとなく食べてるのは「生きてる」に繋がってるのだろうか。
いや、もっと言えば頭でいろいろ考えて栄養バランス的にどうこうした食が、なぜか「生きてる」実感に乏しいにはなぜなんだろう。
で、退院してあるときリンゴを食べた。食べたというより齧りついた。それは紅い佇まいとは裏腹に色のない味だった。
たまたま自分の体調とかそのリンゴがボケて(リンゴの食感や味が後退するのを信州ではそう呼ぶ)たのかもしれない。
それも人生。ただ、なぜか不思議に身体が覚えてしまってる。
We are what we eat.
我々は食によって創られている。
それなら、いまのファストでコスパよくて、見映え良くて手軽に食べられるもので生きてる我々は、どんなふうに創られてしまってるのだろう。
食べることは生きることなのだとしたら、ファストでコスパよく(最近は時間のコスパの概念タムパもある)見映えと手軽なものだけで人生を創ってしまってるのかもしれない。
「食べること」と「生きること」が、なんだか少し分断されてる気もする。
べつにそれを否定したいわけでも、全部がそうだと言ってるわけじゃない。そう生きるしかないときだってある。けど、それだけでは物足りないと感じる自分がいる。
*
せっかく「食べる」ことができてるのだとしたら、やっぱり「生きる」と繋がりたい。いまをちゃんと生きられてる歓びに寄り添ってくれる食がいい。そのほうが身体ごと「美味しい」と感じられるから。
大きな話で食と生き方を見直そうとかそういうのでもない。頭で考えてやることでもないし。個人レベルで自然に満たされるようにしたいだけ。
「食べて生きてる」ことを、ただただ感じたい。
もしかしたら日本では少し難しくなってることがスペインという土地では、まだそれが何気ない日常、細い光が差し込む路地裏のバールに、漁港の静けさの中に生きてる気がして。
食べて生きるが土地に染み込んでるスペイン。日本のようにコンビニが全土に張り巡らされてることもなく、ファストフードも少数派。それよりも、それぞれの土地、風土に根差した「生きるための食」を提供してくれる個人店がそこかしこに。
日本とどっちがいいというのでもなく、なぜかスペインの生きるちからを持った食に惹かれる。
もし、よければ僕が伴走のような編集をお手伝いしてるHARCOさんの新連載、スペイン全土の食を巡る『食べて生きる人たち』で、歴史、文化、生活を一緒に食べてみてほしい。
読んでるうちに忘れそうになってる食の細胞たちが目を覚ますのがわかるから。
「あなたは今、食べて生きていますか?」
◎毎週、水曜日の夜(20:00~20:30)にツイッターのSpaces(ラジオみたいにリスナーとして聴くだけでも、コメント参加あるいはトーク参加もできます)で、 聴いて話せる版の『食べて生きる人たち』もはじまります。
今回のお題は『トルティージャについて聞きたい事や思い出』
スペイン風オムレツとして知られるトルティージャ。シンプルだけど深くて気持ちまで温かくなるトルティージャにまつわるあれこれをみんなで聴きながら味わいたいと思います。
トルティージャの質問や疑問、思い出など以下の記事のコメント欄に書き込んでいただくとSpacesで紹介しますね。もちろん直接、当日Spacesで生コメをいただくのも嬉しいです。
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