裸の王様になりたい誰かのはなし
何かがどうにかなって権力者と呼ばれる人たちを取材することがある。稀にだけど。
どんな世界のどういう権力者なのかはオープンには書けないのだけど、まあそういうこと。
で、べつにその「権力」にあまり興味はない。だから僕なんかのところに話がくるのかもしれない。
それも、僕が出会うことが多いのは晩年の権力者だ。いろんな意味で。
権力の絶頂にいるときには僕クラスの人間なんて遥か下なのだから出会わなくて当然だろう。取り巻きやなんやかんやが潮が引くように少しずつ離れ始めた権力者の黄昏。そこの空白に入り込んで話を聞く。
自慢話に終始することもあれば、まったく関係のないとんでもない話をしてくれたり、そんなことより君の話を聞きたいと言われることもある。まあ、いろいろだ。
一応「取材」なので記事になる本筋の話ももちろん聞かせてもらう。だけど、正直に言えば、そこはある程度ちゃんと聞ければもっと掘りたいということは少ない。
権力者が動かしているもの、動かしてきたものにそこまでの興味はない。
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昔の話。ある雑誌で晩年の権力者を取材したときのことだ。その権力者はいろいろあって、もうその座は長くないだろうと言われていた。そんなタイミングで取材をすることになった。
べつに僕らも、どうしてもその人に会って話を聞きたいわけではなかった。まあ、そこもいろいろあるのだ。
その権力者のピークは明らかにすぎていた。とはいえ、ある地位にまだ留まっていることは事実なので、当然、いろいろ面倒くさい手続きやら準備は必要だった。
外部の人間と応対するための部屋で待っていると、その人が現れると同時に隣の部屋からもふたりの人間が現れ、権力者のサイドテーブルにマーカーが引かれた書類をいくつかの束で置いた。
マーカーがひかれた箇所を話せばいい、ということだ。別の見方をすれば、それ以外のところは話さなくていいということでもある。
権力者はちゃんとマーカー箇所から外れることなく、取材に応じてくれた。ただ、話しを聞きながら「この人はどこにもいない」と思った。
昔の「その人」はメディア越しでも、ちゃんと「その人」が存在していた。好き嫌いは別にしても。
ある地位に就いてから、その人は少しずつ消えていった。その代りに周囲に求められる「ある人物」に変わっていった。すごく雑に言えば、権力と引き換えにだ。
よくわからないふしぎな力に魅入られたのか、取り込まれたのか、操られたのか。それでも権力を与えられているうちはいい。
何かがどうにかなって、ちょっとした弾みで権力の糸が解けていくと、そこには抜け殻のような誰かが姿を現す。その瞬間のほうが「権力」よりも興味がある。嫌な意味にとられるかもしれないけど、
だいたいは「裸の王様」は本当の話なんだなと思う。外からはどんなにいろんなものをまとってるように見えても、やっぱり裸なのだ。
そして王様は裸になって自分も失って放り出されても、その周りで話すべき個所にマーカーを引いていた人たちはまた次の裸の王様をつくるだけだ。
いったいこの世界は何で動いてるんだろう。そのことをいつも思う。
それでも人は裸の王様になりたいのかもしれない。