ヴェネツィア舞台のドラマ、「私をおいていかないで」
“Non mi lasciare” は、私を置いていかないで、私をひとりにしないで、(私と)別れないで、といったニュアンスになろうか。イタリア国営放送Rai1で、1月の月曜日、4回にわたり放送された番組は、ヴェネツィアで撮影されたことと、ヴェネツィアの友人がエキストラで参加したらしい、というので、正直のところ特にそれ以上でも以下でもなく見始めたのだが、見事にハマって2時間x4回、最後まで夢中になって観た。
ヴェネツィアのジュデッカ島の運河で、中学生くらいの男の子の遺体が見つかる。大きな外傷もなく、リュックにたくさんの石。思春期の、自殺か。ひっそりと幕を閉じるはずだった哀れな少年の死を前に、ローマからやり手専門調査官が乗り込んでくる。担当警官が駅まで迎えに行くと・・・それは、警官自身のかつての彼女で、現在の妻のかつての親友なのだった。
ああ・・・もういきなり、ドロドロが見える。やれやれ・・・。
ところがこの三角関係が微妙に、ぐらりぐらりと揺らぎながらもバランスを保つ。いい意味で最初のうがった予想を裏切られる。いや、引っ張られる。ときに切なく、ときに後ろめたく、ほんとうの意味での大人の関係に、どきりとさせられる。
そして、事件は悲惨・・・というより、観ていて悲痛を伴う。運河に沈められた少年は、未成年を狙い、食い物にする大人たちの犠牲となった、ほんの氷山の一角なのだった。
舞台背景としてのヴェネツィアが美しい。キラキラでもギラギラでもない、日常のヴェネツィア。このドラマがヴェネツィアである必然性はない。むしろ事件の内容はと言えば、残念ながらイタリアのどこにでもあり得る、いや世界中にはびこる未成年の心の隙に漬け込む悪であり、その連鎖であり、闇は恐ろしく、悲しい。
ヴェネツィアの冬の夜、人気のない路地や運河は、その湿気のために少しくぐもった捉えどころのない闇となる。その闇と、不気味な犯罪の闇の深さがシンクロする。そしてその中に時々、まるで深呼吸をするように、ぱーんと開けた運河のボートパトカーのシーンが登場する。パトカーで街中をぶっ飛ばすのにも、ヴェネツィアのモーターボート・パトカーなら、それだけで絵になる。
ヴェネツィアはそれだけ丁寧に描かれている割に、他の土地のいくつかの場面はいくつか、びっくりするほどおざなりなところがちょっと残念だったり、誰も彼もがいちいち豪邸に住んでたりするのが非現実的だったりするけれど、その分、普段は入れない、撮影できないところも存分に使っていて、いろんなヴェネツィアが楽しめる。
全体のストーリーも大胆なカメラワークも、最後までドキドキと観た。
イタリア国内限定(だと思うが)、Rai Playで無料視聴可能。
https://www.raiplay.it/programmi/nonmilasciare
Non mi lasciare
Italia, 2002
監督 Ciro Visco
出演 Vittoria Puccini, Alessandro Roia, Sarah Felberbaum、他