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偉大なるソフィア


 数日前に、友人から映像のリンクが送られてきた。
 先週11日、2021年のダヴィデ・ディ・ドナテッロ賞が発表された。これは、イタリアのアカデミー賞と言われるもので、前年1年間に発表された映画を対象に、最優秀作品賞から監督、脚本、制作、俳優、音楽、衣装、など各部門にノミネートされた中から、それぞれの最優秀賞が発表される。受賞者には、ルネサンスを代表する彫刻家ドナテッロの「ダヴィデ像」のミニチュアが贈られることからこの名称がつけられている。
 イタリアは昨年3月からつい最近まで、映画館はずっと閉まったままだった。また、厳しいロックダウンが続く中での制作も困難の多かったことが予想される。だがともかく授賞式はマスク着用でソーシャル・ディスタンスを保った上で関係者列席の上で開催された様子がテレビでも中継されていた。映像は、その授賞式の一部だった。

 今年の主演女優賞に輝いたのは、ソフィア・ローレン。そう、あの、「ひまわり」や「昨日、今日、明日」のソフィア・ローレンで、ダヴィデ賞は実に7回めとのこと。名前を呼ばれると彼女は「おおおー!」と声を上げるように口をすぼませ、同映画の監督エドアルド・ポンティに支えられて立ち上がった。すぐに司会者が駆け寄って、両側から支えられて歩く。ステージに上がる数段の階段もおぼつかないよう、だが濃紺にビッシリとラメが光るドレスがピッタリと体を包むその姿は、確かにソフィア・ローレンだった。
 大きな拍手、スタンディングオベーションに包まれてマイクの前に一人立つと、意外にもドギマギしたような困惑したような表情を見せる。そして手に持っていた老眼鏡をかけ、監督から手渡されたメモを受け取ると・・・「ああ、なんてこと・・・ちょっと助けてちょうだい」と呟いて笑いを誘い、、メッセージを読み始めた。
 「信じられないことに、初めてダヴィデ賞を頂いたのは60年以上も前のことでした。(訳註、1959年、『黒い蘭』)」。彼女は現在、86歳。「でも今日はまた初めて賞をいただくように感じます。たくさんの素晴らしい喝采をありがとうございます。私のこれまでの人生全てにおいて。感激は常に、いえむしろますます大きくなります。喜びも同様です。この映画の制作に関わったすばらしいチームの皆様、プロダクションに感謝いたします。」
 「この賞を、全てのキャストの皆さんと分かち合いたいと思います。特に・・・私と共に主演を演じたすばらしい子役のイブライマ(Ibrahima Gueye)、若く才能にあふれた俳優です。この作品の中のまさに魔法でした。」
 「そして最後に、エドアルド監督にも感謝を伝えます。彼のハートとセンシビリティ、そしてパッションがこの映画と、そして私の演じた役に命と魂を吹き込みました。このため私は・・・私の息子を大変誇りに思います。とてもすばらしい男性であり、ほんとうに美しい映画を実現しました。」
 「これは私にとって最後の映画になるかもしれません。でもわかりません。たくさんの映画に出演してきましたが、いつも、さらにまた、すてきなストーリーの、すてきな映画を作りたい、という思いは変わりません。というのも、映画なしには私は生きられません。絶対に。」
 会場は大きな拍手に包まれる。トロフィーを持って近づいた、実の息子であり監督であるエドアルド・ポンティから抱擁を受けると、「今はトロフィーは受け取れません。私が転ぶか、トロフィーを落とすか。」と付け加えて、再び息子と司会とに両脇を抱えられて舞台を去った。
 これがカッコイイでなくてなんであろう!そして、名実ともにイタリア映画の歴史を築き上げた大女優の受賞にはやはり、オンラインではなくて、今のイタリア映画界の重鎮から若手までが集う大会場での、本物の拍手と笑顔がふさわしいのだった。

 エドアルド・ポンティ監督のこの映画は、「La vita davanti a sé(The Life Ahead)」(目の前にある人生)、ソフィア・ローレン演じる、元娼婦でホロコーストを生き延びた経験をもつマダム・ローザがセネガル出身の孤児モモを一時的に預かることから始まる。トレイラーを見ただけだが、現代的なテーマの中で、ソフィア・ローレンが、初めは大地をしっかりと踏みしめて立ち、そしてやがて老いゆく一人の女性を演じていることが見て取れる。
 「私はここにいる。・・・あなたのことを誰もきいてくれなくても、あなたが言葉を失っても。行き場を失っても」。映画のテーマソングを、静かに、朗々と歌い上げるのが、これもイタリアのポップス界のもはや大御所と言えるラウラ・パウジーニ。この「io sì (seen)」も、残念ながら最優秀賞は逃したものの、ダヴィデ賞にノミネートされていた。この曲は先日、アメリカのアカデミー賞でもノミネートされ、受賞すればイタリアのポップス音楽界でも初めてとかでこちらのメディアでは随分盛り上がっていた。
 Netflixオリジナル映画ということで、劇場公開の予定はないようだが、これはできれば劇場で観たいなあ・・・。

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 今年のダヴィデ・ディ・ドナテッロは、最優秀作品賞、監督賞、主演男優賞ほか全7賞を独占したのは、「Volevo nascondermi」(俺は隠れたかった)、 主役を完全に、すっかりソフィア・ローレンに奪われた格好だが、それもやむなし、大女優には喝采を送るしかないだろう。この主演のエリオ・ジェルマーノの怪演もおもしろそうで、これもぜひとも観たいと思う。


 ようやく開いた映画館で、そろそろ映画も観に行こうか・・・。
(画像は、https://www.deejay.it/ および https://www.labussolanews.it/より拝借しました)

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Fumie M. 05.16.2021


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