本屋さんをハシゴする
来る日も来る日もお天気で暖かかった3月から、4月初めのパスクワ(復活祭)のお休みをはさんで曇りがちに、気温も下がって1カ月くらい逆戻りしたような肌寒い日が続いている。大雨が降ったかと思うと急に晴れ間が出て虹が出たり。
日々の生活はというと、昨年11月より、イタリアが州ごとに指定している行動規制の色分けでここローマは現在、オレンジ・ゾーンにいる。オレンジでは飲食店での店内外での飲食は全て禁止でテイクアウト、デリバリーのみだが、娯楽、嗜好品のショッピングは可能。美容サロンなどの営業も可、ただし、美術館・博物館は開けられず。劇場・映画館、スポーツ施設にいたっては、もう1年以上前から閉まったっきりだ。サッカーなどプロスポーツは、無観客のまま実施している。
外食の楽しみがないのと、人と会うのに制限があるのを除けば、オレンジはもはや、かなり過ごしやすい状態とさえ言える。それだけやはり、レッドはしんどかった。レッドではスーパーの一部と食料品、子供用品や下着店しか開いておらず、ローマ生活初心者にとっては必需品であるはずの買い物にも不便する中で、特筆すべきは、本屋さんは開いていることだった。
レッドのときは、散歩もそうそう遠くには行けないので、いきおい、ぶらぶらと本屋さんに行ってはハシゴしていた。本屋さんと言っても、大手出版社系の店舗はF社もM社も、中に入ってしまうと区別がつかないくらい、配列も選書も似たりよったりで変わりばえがしないのだけれど、それでも新しい本は次々と発行されているようで、1週間もすると少なくとも新刊コーナーは陳列が変わる。もうとてもとても、イタリア語の本はなかなか読めないから、おもしろそうと思っても全部は買っている場合ではないし、今はよほどでないと手にとってパラパラ・・・もやってないけれど、タイトルとカバーを見物している。
そうして本屋チェッカーをしていて気づくのは、日本の本がひいき目ではなく、改めて多いということ。ちょっと大きめの本屋さんなら、全作平積みの村上春樹は言うに及ばず、やはり平積みで見かけたのが、梨木香歩さんの「西の魔女が死んだ」(”Un’estate con la Strega dell’Ovest”)や川上未映子さんの「乳と卵」(”Seni e Uova”)など。
そして村上春樹さんの最新作「一人称単数」(”Prima persona singolare”)とともに、ベストセラーの棚に堂々並んでいるのが、川口俊和さんの「コーヒーが冷めないうちに」(”Finché il caffè è caldo”)。こちらは私がローマへ来てすぐの2月、全国紙の書評欄にバーン!と著者インタビューが出ていて、日本語でも読んでいなかった私は、へえ〜と思ったのだが、続編の「この嘘がバレないうちに」(”Basta un caffè per esser felici”)とともに、イタリア全国で今でも売り上げを伸ばしているらしい。誰もが自宅に籠らずを得ない状況の中で、「バック・トゥー・ザ・フューチャー」の地味版とでも言おうか、コーヒー1杯を飲み干す間だけ希望する過去に戻ることができるという、小さな、だがそれぞれ当人にとっては大切な物語が詰まったこの本が多くの人々の心に響いたのだろう。
新刊やベストセラー・コーナーには、ムラカミやカワグチのほか、オバマ元大統領やカマラ・ハリス現副大統領の顔も並ぶ。本を買って読もうという人は、外に意識が向いているということだろうか。もちろん、宣伝力ということもあるけれど。一方、マンガのベストランキングには、「鬼滅の刃」(”Demon Slayer”)各巻が並ぶ。
もっと個性豊かな本屋さんはどうかわからないが、こうした大手出版社系の書店では、「小説・文学」のコーナーは、「ミステリー」とそれ以外は分かれているものの、イタリア文学と翻訳もの、日本で言うところの「海外文学」は分かれていない。なので、ユキオ・ミシマもジュンイチロー・タニザキも、イタリア人作家や他の外国人作家らの名前とともに、アルファベット順に収められている。翻訳書は日本の作家さんの作品と分けて分類されるのに慣れた目には新鮮に映るけれど、原書が日本から来ようがアメリカから来ようが一緒というのは、よくよく考えてみればごくあたり前のことのように思う。もちろん「女流作家」の別もない。だから、ナツオ・キリノもヨーコ・オガワも、イタロ・カルヴィーノやウンベルト・エーコと一緒だ。
今日はまた、朝は青空だったのに午後から雨、一旦上がったと思いきや、ひどい雷とともに雨が再び降り始めた。今日はお散歩もやめておいたほうがよさそう・・・。
一昨日の4月16日に、今月26日からの飲食店や娯楽施設の段階的規制解除案が発表された。
当面は、飲食は屋外席のみとのことだが、これからお天気もよくなれば、歩道に張り出したテーブルは飲食する人で溢れるだろう。嬉しい、けれど、まだまだしばらくは一層注意して過ごさなければ、と思う。
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Fumie M. 04.18.2021
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