希望という名の。
雨がちで肌寒い日の多かった春を通り越して、ローマは突然、初夏といった趣になった。
先々週、4月26日から一気に、行動制限が実質解除されて、レストランなどは当面「屋外のみ」とはいえ、ともかく着席での飲食が可能になった。屋外結構、むしろ大歓迎といった調子で、十分に予想はしていたことだが、通りに面して張り出したテラス席はどこも結構な賑わいを見せている。
その週開けの朝、いつもよく利用しているバールの前を通りがかると、歩道の壁沿いに一列に並べたテーブルに、それぞれ1人か2人ずつ席について、一斉にカプチーノやエスプレッソのカップを手に、まったりとしていた。なるほど、数日前までは入り口をテーブルで塞いで、口頭でテイクアウトの注文を受けていたバールだが、ようやく外であれば飲食が可能になったから、皆さっそくカフェを飲んでいるのだろう。とはいえ、ちょっと不思議な光景に見えたのは、多くのイタリア人は日常的に、通勤前やちょっとした休憩時間にバールでカフェで一服する際、決して、そこで「まったり」はしない。基本はカウンターで注文し、出てきたものをさっと飲んで、その間にベラベラベラっとおしゃべりして、1ユーロとか2ユーロとか立ち飲み代の小銭をさっと置いてお店を出ていく。新聞を読んだりするのでない限り、カフェ1杯のために朝からテーブル席に座ることはほとんどない。(カウンターとテーブル席では同じエスプレッソ1杯でも、普通は値段が違うためもある。)26日から施行された条例では、店内での飲食が不可能だから、たとえカフェ1杯でもそれができない。それでも、バールのカフェと言うのはどうしても家で飲むのとは違うし、使い捨てカップのテイクアウトとも断然違う。それで、なんだかみんなが、まったりというか、しみじみとバールのカフェを味わっていたのがなんとも微笑ましく感じ、うん、わかる、わかると心の中で頷きながら横をすり抜けた。
屋外飲食解禁初の週末となった先週はしかし、お天気が悪かった。ようやくの外出にも外食にも文字通り水をさした格好だが、天候が不安定な中、降り出した雨を避けて、本来ならばはみ出していたはずのテーブルも狭いテントの中に無理矢理詰めて、ぎゅうっと肩を寄せ合うように座って楽しくおしゃべりしながら食事をする人々も見かけた。もちろんアクリルの衝立などもない。友人や家族と、久しぶりの会食・外食で一段と嬉しい気持ちも、ほんとにとってもわかる。だけれど、を見ると、正直、怖い、と思ってしまう。
イタリアは幸い、感染者数や重傷者数は減ってきているようだ。だからこその規制緩和なはずだけれど、こんなに急に自由度が増すのはちょっと心配だ。
だがイタリアはともかく、ポスト・コロナへ期待と共に大きく舵を切った。現在は外国からの入国にも厳しい制限を設けているが、今月15日から、EU、英国、イスラエルからの入国の制限解除に踏み切るという。もちろん以前のように完全に自由というわけではない。ワクチン接種済を証明するパスまたは直前の陰性証明は不可欠だが、入国後の隔離期間などが不要になる。
これはもちろん、ビジネス、特に観光業の復活を願っての策だ。米国も1カ月遅れで受け入れる予定になっている。と同時に、イタリア国民はイタリア国内でバカンスの予定を立てるよう、推奨されているが、そこはどうだろう・・・。果たして政府の期待通りに行くかどうかは疑問だ。
だが、22日にはヴェネツィアで、昨年から延期になっていた建築ビエンナーレも開幕する。期間が長いこともあるが、年間の入場者数で毎年トップを記録するビエンナーレを、まずはとにかくスタートしたい、そんな思惑も見えるように思う。
スペランツァ(Speranza)。ウィルスの感染拡大を抑え国民の健康を守る役割を担う保健省の大臣の苗字は「希望(スペランツァ)」と言う。2月にローマに到着して以来、毎日毎日、ニュースの見出しに「希望」という文字が踊るのを不思議な思いで眺めてきた。変わった苗字の多いイタリアでも、これだけハマった苗字も滅多にないだろう。
名前負けすることのないよう、希望が現実となることを真に期待している。
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Fumie M. 05.09.2021