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「Here」想うということ―GRAPEVINEのライブにて

FALLと題されたGRAPEVINEのライブにでかけたのは秋の入り口の9月26日だった。
場所は中野サンプラザ。珍しくホール公演。

その夜以来私は、カーステレオの設定をリピートにして、彼らの3枚目のアルバム「Here」に収録された「想うということ」という曲を繰り返し繰り返し聴いていた。
ライブでは2番目に演奏された曲だった。
1週間が過ぎ、2週も過ぎ、3週目に入ってもまだ聴いていた。

GRAPEVINEは結成して四半世紀を越えるというベテランバンドである。
16枚のアルバムを出している。
初期に出したアルバムの中では「Here」が1番好きだった。
聴き終わると、時間が遡って、得たものと失ったものに想いをはせてしまうのも「Here」だった。

アルバムは「想うということ」で始まる。
空間に飽和していく歪んだギターの音が、瞬く間に、ここをあの頃にする。
振り返るでも懐かしむでもなく今いる場所があの頃になる。
2000年。
ここは20世紀と21世紀の境い目。
世の中はミレニアムに浮き足立っていた。

一人きりで道を歩いている時、一人きりで車を運転している時、ふいに「私は本当に現在にいるのか」と疑う瞬間がある。
目に飛び込んでくる景色だけが、その全てであるような時に。
たとえばここが20歳のときにいた世界ではないと、どうしていえるだろうか。
車で聴く「想うということ」は、そんな感覚を加速させた。
ヴォーカルの声も今より甘酸っぱく若い。
西川さんの弾くギターの音や田中さんの声に、あの頃が綴じ込められていると思ってしまう。

GRAPEVINEは不思議なバンドだ。
コンスタントにアルバムを出し、ツアーをまわり、実直ともいえる活動を大げさに言い立てるでもなく営々と続けてきた。
そう書いてしまえば真面目なバンドであるが、実際の彼らはもっと緩くてしなやかだ。
まるで酔拳の遣い手のように。
彼らは年齢を重ねていくことに抗っていないように見えた。若さは必ず失われるということを自然と受け入れてるように見える。
ヴォーカルもすっかり昔と歌い方が変わった。
それがまたカッコいいのだけど。

そして私は9月26日の中野サンプラザで、全く予測をしていなかった、現在のGRAPEVINEが「想うということ」を演奏する現場に居合わすことになったのだった。
いつだって現地点のGRAPEVINEが最高だと思っているので、昔の曲を今の演奏力で魅せてくれるのはどんな時も嬉しい。
だけど「想うということ」だけは聴きたくない気がしていた。あのままに綴じ込めておきたい気がしていた。

シューゲイザーのようだと思っていたギターがホールに響き、あの頃に寄せつつもまぎれもなく現在のヴォーカルが響いていく。
最初は何が起こったかわからなかった。
まさか聴けるとは思っていなかったから。

シニカルに物事をみる尖った若者だった人は、齢を重ね親にもなり、最新アルバムで「ここで待ってるよ」と歌う人になった。
その人が「想うということ」を歌う姿を見ながら、私は「曲の時間は動いている」と思った。

演奏する人間が年をとるように、曲も年齢を重ねていけるのだと知った。
あの頃を綴じこめたまま、それからの時間と辿り着いた現在がかぶさり、またここからその向こうへと伸びていく。
曲の命が、過去から現在、そして未来へと伸びていくさまを見た。
バンドに映し出される時の流れをみつめていた。
光に照らされる現在の姿が眩しかった。

GRAPEVINEだからこそできたことだとファンの贔屓目を抜いても思う。
晴れの年も、曇りの年も、大雨の年も絶えずに、繰り返し繰り返し続けてきたという強さが彼らにはある。
あの曲はあのままにという私の密やかな願いを最高の形でひっくり返してみせてくれた。
過去の声と現在の声が重なるユニゾンを聴いた気がした。

帰宅後私は「想うということ」を繰り返し聴いた。当時にタイムトリップするのでなく、それから生きてたどり着いた現在までをなぞるように繰り返し繰り返し聴いていた。

Just come around come around
繰り返されても
選び得る両の手
そのドアを開けていいんだよ
Just turn around turn around
振り返ればいつも
誰かが笑いかけていて
―GRAPEVINE 想うということ


曲の中に新たに色づいた輝きを見ていた。

GRAPEVINEには現在、出戻りと自称するファンがたくさんいらっしゃる。
生きていく中で様々な事情がそれぞれにあり、離れ、離れている間は互いの場所でそれぞれの時間を生きていた。
そして、季節が巡るように再び巡り会った。
そのことを素晴らしいことだと私は感じている。

「Here」とは

「ここ」とは

時と共になだらかに動いていくものなのかもしれない。


想うということ - GRAPEVINE
(LINE MUSICで再生)


GRAPEVINE-光について(若かりし頃のGRAPEVINEしか知らないという方へのおすすめ動画です)

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