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自分探しの青春『レディ・バード』

 女優でもあるグレタ・ガーウィグの初監督兼脚本作品です。
 グレタ・ガーウィグと、本作『レディ・バード』の主人公クリスティーンと、2012年にグレタが脚本と主演を務めた「フランシス・ハ」の主人公フランシスは共通点があって、グレタと同じように出身地がカリフォルニア州サクラメントでニューヨークへ上京するという設定になってるんですね。

グレタ・ガーウィグの生い立ち

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カリフォルニア州サクラメントで看護婦の母と金融コンサルタント兼コンピュータープログラマーの父のあいだに生まれる。ドイツ系の家系である。カトリック系の女子学校に通った。バーナード・カレッジ大学では英語と哲学を学んで卒業した。元々は脚本家志望であったが、ガーウィグは在学中の2006年にジョー・スワンバーグの『LOL』に端役で出演した。彼女はスワンバーグや他の作家らと共にマンブルコア映画運動へ参加し始めた。
引用:Wikipedia グレタ・ガーウィグ

 とWikipediaに書かれているように、特に『レディ・ハード』のクリスティーンとは母親の職業まで共通していて、自身の生い立ちに基づいた経験から脚本の着想を得ている部分があると推測されます。

 主人公のクリスティーンは鬱病の父がリストラに遭って以前ほど収入のない家庭で、見た目はアレだけどバークレー大学を卒業した養子の兄ほど学力がないにも関わらず、髪をピンクに染め上げて『レディ・バード』を名乗り特別で凄そうな人間っぽさを醸し出そうとして周りにも『レディー・バード』と呼ばせるだけではなく、親の予算や学力含めて身の丈に合わない大学進学先を希望するわりに授業をサボり、敷地も大きく綺麗な友達の家を自宅と偽って裕福な家庭の子のグループと交際したり初デートや初セックスと青春の高校生活を重ねていきます・・・、もしかするともっとグレタ・ガーウィグの実体験と重なる部分は多いのかも知れません。

 「フランシス・ハ」の時は、私は主人公フランシスの痛々しさと悲劇を明るい音楽とモノクロームのフィルターを通してコメディエンヌのように喜劇的に見ていたのでした。
 そう、「フランシス・ハ」の時は。

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本作『レディ・バード』では主人公クリスティーンが最後の高校生活の歳になってもまだ厨二病を拗らせている姿をありのままに生々しくフルカラーでさらけ出していて、『レディー・バード』を見ていた私はあまりの痛々しさに初見でギャン泣きしてしまいました。

 過去に厨二病めいてたり、厨二病めいた黒歴史の過去が眠る古巣(故郷)を出て上京した大学生が鑑賞すると古傷を抉られるかも知れない危険があります。しかもPG12(Parental Guidance 12 小学生は保護者の助言や指導が必要)ですね。

 理想の家庭や故郷や自分と現実が乖離しているので、劣等感から着飾るように次々と嘘で自分を虚飾していく自称『レディー・バード』ことクリスティーンですが、実際にその虚飾が功を奏していたかというとそうでもありません。
 プロムの日には父の「クラクションで男の車に乗るな」という助言も聞き入れませんし、嘘をついてまで背伸びして交際していたお金持ちの子供達のグループに「ダサい」とか「キモい服」と影で言われているのを幸いにもクリスティーンは知ることはありませんし、ありのままの自分を見つめ直し現実を受け入れることはありません。

 つまり、大学に合格してニューヨークに行ったら少しは厨二病が寛解するかと思ったらそうでもなく、高校生の時と変わらぬ調子で出身を尋ねられたら「サンフランシスコ」と嘘をつき、ハメを外して急性アルコール中毒で運ばれるという始末です。

一体私は何を見せられているんだと思ってしまいます。

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 最後の最後でクリスティーンが母への愛を語るとき、母と娘の物語だったんだなと確信しました。


 物語の冒頭で一緒に眠り、車の中でジョン・スタインベックの「怒りの葡萄」(労働者が故郷から新天地を求める話でなんだか示唆的ですね)の朗読を一緒に聞いて感動して涙した時も、ニューヨークの大学へ向かうため空港へ見送ってくれた時も、ずっと母は側でクリスティーンを気にかけてくれていて、自分探しに夢中でひたすら我が道を行くクリスティーンに厳しいけど母は冷静に現実的な助言をくれていたにも関わらず、ことごとく母が否定的に思えたクリスティーンは母が嫌いだったんですね。

 散々やらかしてそのままにしてきた故郷の母(身内)に感謝を伝えることは、この映画の中だけではなく、過去に同じように青春を経て生きてきたこの作品を鑑賞する私達にとっても、大切なことだと示しているかのようです。
 過去の古傷に向き合うのってなかなか大変なんですよね。

 高校生の反抗期で自分探しに夢中なクリスティーンの青春を母娘の喧嘩から仲直りに至るまで、クリスティーンの非常にダメなところまで辛抱強く丹念に丁寧に描き残した映画です。『レディー・バード』はクリスティーンの痛々しさをこうして見せることで、過去に青春を拗らせたことのある人や、これから青春を拗らせる人を、共感で包み込んでくれる温かい作品なんじゃないかなと私は思います。

Lady Bird 2017米国公開(2018日本公開)
監督/脚本 グレタ・ガーウィグ
クリスティン・"レディ・バード"・マクファーソン - シアーシャ・ローナン
マリオン・マクファーソン(クリスティンの母) - ローリー・メトカーフ
ラリー・マクファーソン(クリスティンの父) - トレイシー・レッツ
ダニー・オニール - ルーカス・ヘッジズ
カイル・シャイブル - ティモシー・シャラメ
ジュリアン "ジュリー"・ステファンズ - ビーニー・フェルドスタイン(
リバイアッチ神父 - スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン
シスター・サラ・ジョアン - ロイス・スミス
ジェナ・ウォルトン - オデイア・ラッシュ
ミゲル・マクファーソン(クリスティンの兄) - ジョーダン・ロドリゲス
シェリー・ユハン - マリエル・スコット 

出典:IMDB


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