「世界収集家」 イリヤ・トロヤノフ
浅井晶子 訳 早川書房
ブルガリア出身ドイツ在住の作家。前にユーロシネマ祭?でブルガリア映画「世界は広いー救いはどこにでもある」という映画を見たのだけど、どうやらこの作者イリヤ・トロヤノフが脚本参加してたみたい。DVDも出ててその邦題が「さあ帰ろう、ペダルをこいで」になっている(この映画見た時のタイトルは原題直訳)
この映画のことはこちら ↓
「千一夜物語」の出版、そしてインド、アラブ(メッカ巡礼も)、アフリカ(ナイル源流探し)と探検したリチャード・バートンの話。今日は第1部の0章まで。早稲田文学2015冬号に掲載されてたのはプロローグと、次の第1、2章。
(2019 06/11)
解き明かさない謎
バートンはトリエステで1890年亡くなった。その死の場面から、本が燃える描写を経由して、そこから第一部英国領インドのボンベイにシーンが受け渡されるところなども、ほんとにぞくぞく…
その第一部英国領インドの章立てが、0章+64章+0章、となっているのは、ヒンドゥー教世界観によるという(解説より)
(2019 06/16)
第9章のナウカラム辺りから、バートンの召使いであったナウカラムと代筆屋との見解が合わなくなってくる。というかずれてくる。それは代筆屋はナウカラムの話から自分が思い描くストーリーを派生させているから。言語等、様々な現地語を覚え並べていく、という作業はバートンのうちで(それ以外にも?)進行していく。タイトルが「世界収集家」とあるのもその為だ。
(2019 06/23)
世界収集家たるもの相違を楽しむ余裕がなければならない。
(2019 06/24)
ヒンドとシンド
「世界収集家」第1部英領インドも半ばに入り、複数の世界、視野、思惑が広がり、厚みを増してきた。
バートンとナウカラムがボンベイ・バロータから、現在パキスタンのカラチへ移り、そこでバートンは上司の将軍の諜報仕事をしながら、現地ムスリムの生活と世界観に溶け込む。バートンと気が合いながらもややイギリス式に凝り固まっている将軍に反論もするバートンと、ヒンド(だいたい今のインド、ヒンドゥーの国)からシンド(ムスリムの国)へ移って周りに反感を持つナウカラムとそれを諌める代筆屋。それにバートンが父親等に書く手紙も加わって複眼的世界。
バートンはどうやらカッワリーに出会ってそれに染まったようだが…
(2019 07/03)
「世界収集家」は、進行するバートンの物語が、ナウカラムが語っているのか、代筆屋が加筆したものなのか…きっと、共同作業なのだろう。そういえば、そのバートンとクンダリーニの間でも、小物語がクンダリーニから語られバートンが受ける、という構造。こうしたものが一体化して作品は進む。
(2019 07/05)
英領インドを出て
これ自体は正しい(世界のいろいろな紛争の根源にこの暴力がある)けれど、世俗的権力(政府とかだけでなく個人間レベルにおいて)がこれを利用するとそれはそれで問題。ふたつに割れる思想の代表格、デカルト思想もそういう問題に抵抗するために出てきたものであろう。この二つの傾向の思想のバランスをとって、実際の世界は動いている。
(2019 07/15)
今日で(やっと)第一部英領インド終了。うまくまとめる時間ないので、筋の要点だけ。
シンド人の雑貨屋(小間物屋って言った方がいいの?)店主と友人になり、そこでイギリス側に摘発されたバートン。仲間のイギリス人将校にも身元がわからず、拷問を受けても口を割らない。この店主と親戚の者が経営する売春宿(しかもそこにいるのは男)で出入りしているイギリス人将校から極秘情報を聞き出していた、とバートンは将軍に報告する。
最初は仮病を使っていたバートンだが、後に南インドのウーティで大病にかかり、イギリス帰国が許され、ナウカラムと供にイギリスへ行き、続いて両親が滞在しているフランスの別荘へ。そこに元々いたイタリア人コックとナウカラムの折り合いが合わず、結局ナウカラムだけインドに帰らせる。
…とこの状態がこの第一部の開始の状態なんだけど…
(2019 07/17)
ハッジを目指して
「世界収集家」第二部「アラビア」。アブドゥラことバートンはメッカ巡礼ハッジを目指している。カイロからハッジへのその道のりと、そのハッジを書いたバートンの紀行文全3巻が出版された後、その真意はどこにあるか、イギリス本国との絡みは、と探るオスマン帝国の調査が先の道のりとは逆に進んで行く。
バートンにとって、収集する世界とは、現世界の様々な世界だけではなく、この世でない世界も含んでいたのか。
(2019 07/22)
19世紀半ばにイギリス人バートンが立ったこの壁無き荒野に、現代の我々は常時立たされているのかもしれない。バートンのような精神力と好奇心を持たぬまま。
(2019 07/27)
ついにメディナへ…
「世界収集家」第2部「アラビア」…400ページだけど、まだ2/3にも満たない…
アブドゥラ…バートンとまで行かなくても、我々は皆旅人なのだ。どこへ行くのか知っている人と、全く知らない人と…
(2019 07/29)
メッカ巡礼
「世界収集家」からバートン一行?の目巡礼。イスラーム教の宗教的力と教義には賛同しつつも、どこか遠いところで観察を続けているバートン。
カアバ神殿の中には小さな石が祀られている。その今回っている信者の輪と、イスラームという宗教がが広がって行く姿がここで一致する。
(2019 08/07)
メッカ巡礼の様子がこと細かく書いてあるのだけど、この作家のことだから、実際に現地観察もしているのではないか、とも思うけど、この19世紀前半という近代の矛盾が最大限に煮詰まった状況がひしひしと伝わってくるディテールは、どこから取り出しているのだろうか。
第二部「アラビア」読み終わり
(2019 08/08)
第3部「東アフリカ」開始
「世界収集家」450ページ超えて、「東アフリカ」篇スタート。バートンの目的も反英勢力スパイ、メッカ巡礼、そしてナイル川源流探しと変わって行くが、それにともない現地社会の語り部の様相も、召使だった男の推薦状書く話し合い、メッカの地元勢力とオスマン帝国の総督達の捜査、そして親類や周りの友人などに昔の冒険を語る老商人、と変わっていく。
というわけで第3部が始まったわけだが、ここまでで一番目をひいたのが、語り手が語る奴隷商人に捕まって時の恐怖の話。
内陸から海岸港に行かせるときにハイエナに喰い殺されられたり、船上で疫病が流行ったなどで死んだ奴隷を海へ投げ捨てたり。
(2019 08/11)
誰もたどり着いたことがない場所
東アフリカ篇。現地でバートンの探検隊び同行したシディ・ムバラク・ボンベイ(ボンベイというわけでインド篇とつながり、宗教的にアラビア篇とつながるこの人物と周りの人達との会話、それからバートンを焦点化した三人称の語りがほぼ交互になっているのがこの篇の構造)の語り。複眼的語りがバートンを、そして19世紀イギリス(ヨーロッパ)をあぶり出す。
(2019 08/16)
世界を紡ぐ意味
ここは東アフリカ篇の現地の語り手ボンベイが、奴隷商人に売られる前の母語を話す男に出会った場面。こういう言葉の問題は今まで考えていなかったなあ。
第2部のカーディや総督などの語りもその典型例かも。この後続く自分の影を追った男の話も理解難しいけど、またじっくり別の機会に読み直してみたいところ。
第1部の代筆屋も思い出す。次ページのいろいろな破片やゴミを繋げて首飾りとして歩いていた男というのは、ある人物の別のあり得た人生を繋げていくトロヤノフ自身かもしれない。
最後は「啓示」から。
トリエステでバートンが司教に語った言葉。トロヤノフが10歳の誕生日にアフリカ「発見」した英雄の本をプレゼントされてた以来、たぶん問い続けてきた世界を旅するし、未知のものに触れ、自分の中に紡いでいくことの意味の、とりあえずの答えがここにあるのだろう。なんとか8月中に「世界収集家」を読み終えられた。
(2019 08/25)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?