「マザーツリー 森に隠された「知性」をめぐる冒険」 スザンヌ・シマード
三木直子 訳 ダイヤモンド社
はじめにから第2章まで
著者はカナダの森林生態学者。
「氷山の一角」ならぬ「森林のキノコ」か。著者は森林の木々とこの菌糸体のネットワークの関連の知見を新たに刷新した人…らしい。
自分などはキノコの種類は、何から栄養をとっているかなどだけで決まり、森林生態における機能としてはだいたい同じだとしか思っていなかった。ただ、この第1章で出てくるヌメリイグチとクヌギダケという2種類でも機能は異なる。前者は木の根に栄養を与え、後者は死んだ生物の分解を行う。
(2024 04/28)
素通りしていた?「はじめに」より
それに引き続き、第2章では、著者の子供時代、そしてもっと過去の林業(大きな樹木を二人がかりで二日で切ったり、伐採した木材を川に流したりなどなど)の様子。
(2024 05/11)
第3章「日照り」
前半は弟ケリーのロデオ大会(ここでさらっと両親がともに病気になってそして結婚が破綻したことが書いてある)、後半が菌根菌。菌根菌はこの本の重要概念の一つ。
菌類の中で、病原菌や腐食菌には注目が集まるが、もう一つの菌根菌(マイコライザ…マイコが菌、ライザが根)はあまり知られていない。が、これこそ植物の根の細胞を包み込み、根の代わりに土壌の中へ成長し、水やミネラル、養分を運び植物に届け、植物は代わりに光合成の栄養を与える。植物の根は細胞壁なので、そこまで柔軟に成長はできない、そこを菌根菌が手助けするという共生関係。
共生関係はよく知られているが、こういった側面はあまり考えてきてなかったのかも。他にもこのような側面を持つ事例はまだあるのだろう。
(2024 05/13)
第4章「木の上で」、第5章「土を殺す」
昨日は第4章「木の上で」。友人のジーンと山のトレイル歩いていたらアメリカハイイログマの親子とばったり遭遇した話。木の上に登ってなんとかやり過ごすことができた。
今日の第5章「土を殺す」。
母との山歩き。前も書いたように両親は離婚して母親が子供を育てた。ここではその母親と重ね合わされている。著者の人生としては、前の木材会社には戻れずに違う会社を探すことに。それを母は丸ごと受け入れる。
後半は、森林局のアランという研究者のもとで行った2つの実験。除草剤ラウンドアップの濃度と自生植物と苗木の関係。それと表土を剥がした場所に、別の原生林から持ってきた土を入れたものと同じ原生林の土を殺菌したものと何もしないもので比較した実験。やはり原生林の土をそのまま入れたものだけ苗木は育った。
一方前者の除草剤の実験は、除草剤が有効ではないことを示すものだったとはいえ、著者と協力した姉のロビンに精神的ダメージも与える。当時は「自由生育型人工林」という考え方が流行していた。それは周りの自生植物を枯らして有用な苗木だけを「自由に」育たせるということだったが、それでは孤立して栄養が届かない。
(2024 05/15)
第6章「ハンノキの湿原」、第7章「喧嘩」
パインの苗木を植える時に、低木で窒素を固定するために水を多く使うハンノキや草木層が邪魔をするのか共生関係にあるのか、を調べる実験。何故か最初は囚人たちが手伝いに来たが、それ以降は家族や友人がアシスタントとして協力している。この著者の研究の成功の秘訣かもしれない。離婚していた父と母も別の日ではあるが、それぞれ協力しに来る…ただ義理で来ているのではなく、実験に興味津々で。一方、友人には前も出てきたジーンの他に、研究助手として働いているドーンもいる。
なんて言いながら、どうやらこのドーンに惹かれているらしい(この章の最後辺りで結婚するらしい)。
さて、研究結果は、章の半分くらいまで読んだところだと、一時的(真夏)には、水分をハンノキに奪われない「ハンノキ伐採区画」が水分保持率が高く窒素は少ない。真夏を過ぎると、「ハンノキ共生区画」では土中水分保持率が上昇し窒素も固定されている一方、伐採した方は土壌成分が雨でそのまま流され、窒素は全く欠乏している。
(2024 05/17)
昨日少しと今日で、第6章の残りと第7章「喧嘩」を読む。第6章最後でドーンと著者が結婚して、一家が集まってくる…のに、第7章は早くも「喧嘩」? これは弟のケリーとの仲違い。木材業界での講演に神経をすり減らした著者と酔っ払ったケリー。ここで著者も述べているように、弟の言葉にここまで突っかかることでもないわけだが…この時の著者にはそんな余裕はなかった…
(2024 05/18)
第8章「放射能」
アメリカシラカバとダグラスファーの土中の菌類ネットワークを通じての共生関係。両者の間の炭素の動きを見るため、炭素13と14の放射性同位体を使っての実験。次の文は、一通り設定が終わってから試しに測定した時のもの。
アメリカシラカバからダグラスファーへの炭素の動きが多く、これは後の研究でも参照される、とのこと。
この章最後で、前章で口喧嘩してしまったケリーが亡くなってしまったことを知らされる。
(ここから第9章に入る)そのことが逆にきっかけとなって、研究結果の論文を「ネーチャー」誌に投稿したところ、一回の書き直しのみで誌面トップで掲載される。
(2024 05/20)
第9章「お互いさま」、第10章「石に絵を描く」
(昨日から)
上記「ネーチャー」誌に載った論文は、またよく批判された。それは、進化における競争関係と共生関係の位置。
主に批判していたイギリスの場合、このカナダの森林とは異なり、根につく菌種も違うため競争関係の方がより目立つ。それをおいても、一体「進化」とは何かを考えるきっかけともなる。
次の実験では、これまでの論文が示してきたアメリカシラカバ→ダグラスファーの向きだけでなく、針葉のダグラスファーの方が葉が多い時、春と秋はダグラスファー→アメリカシラカバの炭素の向きになることを示す。
第10章「石に絵を描く」
章の最初は、妊娠3か月で山スキーに行った話。一人で。
この事象自体はよく知られているけれど、こう改めて問われると不思議に思われてくる。わざわざ遠回りして目的を果たす。これは効率という点では無駄や危険が多い戦略なのかもしれないが、冗長性を担保したいからかもしれない。森に知性を感じられる?
(2024 05/21)
「石に絵を描く」ラストは、森林局が除草剤を撒くことについて、この「石に絵を描く」という無駄なことをする喩えをインタビューを受けた時に言ったら、(これは書かないでほしいと言ったのに)そのまま掲載されたという話。この頃娘のハナが生まれた。
第11章「ミス・シラカバ」
森林局の現地視察での衝突(ただ、このすぐ後くらいから除草剤を撒く量を減らしていったりと著者の提言もだんだん受け入れられてきてはいる)、次の娘ナヴァの誕生、バンクーバーでの准教授(そして3年後に終身在職権)と夫ドーンとの齟齬(ドーンは生まれたセントルイスのような都会が嫌いで、小さな町(ここではネルソン)に住みたがっていた)。3年バンクーバーで一家で住み、その後は著者だけバンクーバーに住み週末だけ(片道9時間かけて)ネルソンへ帰る、という生活になる。
しかし、著者の研究生活は軌道に乗り、学生たちとの共同研究も進む。
いよいよ、マザーツリーの研究か…でも、これまでの自分の印象からだと、ダグラスファーとアメリカシラカバのような異種間で物質のやりとりがあって共生している、という話の方がインパクトあったのだけど…それとも。それを抱合した立体的理論になっていくのかな。
(2024 05/22)
第12章「片道9時間」、第13章「コア・サンプリング」
今度は脳神経と森林の対比。実際にアミノ酸やホルモンなどはやり取りがあるという。ここからのテーマは、害虫、病気などのストレス情報を、周りの木々に伝えることがあるかどうか。ユアンユアンという科学者がトマトでそのような実験していて、今回は著者と共同で森林での実験をすることになった。また、著者の私的な話については、ついにドーンと別れることになった。そして乳がんの検査手術をするところまで。
それは必ずしも同じ植物種である必要はなく、温暖化など環境変化に伴い植物種が遷移していく時にも助けになるという。
(2024 05/24)
第14章「誕生日」、第15章「バトンを渡す」、おわりに「森よ永遠なれ!」
土曜日に第14章、月曜日(今日)残り読んで、なんとか読み終わり。第14章は著者のガン闘病記。自身が病気という危機を迎えながら、森で危機を迎えているマザーツリーのことを考えている。
第15章は、ダグラスファーとアメリカシラカバの研究の場所に二人の娘を連れて行った話、サケと森の関係の研究(海から上ってくるサケは窒素15という同位体を持つため、天然のトレーサーとして標識が容易、サケは熊が森の奥へ大量に持ち込む。また石を積んでサケを適正数のみ捕獲する先住民の伝統漁が、森の保全に寄与するかの研究も)、ブリタニア鉱山跡の生態系回復の調査、など。
映画「アバター」の「魂の木」とか、リチャード・パワーズの「オーバーストーリー」やTEDトークなど、様々なところで引用され影響を与え続けている科学者であり、その初めての著書であるのがこの本。
(2024 05/27)