「青春・台風」 ジョゼフ・コンラッド
田中西二郎 訳 新潮文庫 新潮社
「青春」は「闇の奥」と同じくマーローの語り。岩波文庫の短篇集にもマーローの語り物なかったっけ? コンラッドにとってマーロー枠物語は千夜一夜物語みたいなものだったのかもしれない。「台風」は第三者の語り手でマーローとは異なる。どちらも航海譚で他のコンラッド作品より読みやすい。ユーモアもばっちり。
「青春」
マーローがロンドンに戻って給料で買ったものの中にバイロン全集があった。マーローもコンラッドも自分のロマン主義のような要素から自ら海へと向かった。そんな姿が(なかば自虐的に)描かれる。タイトルの「青春」についてはこんな感じ。
自分にもこんな時期があったかどうかは疑問だが(確かになかったといえるかどうか・・・)、「永久に生き残れる」と感じるというところだけはあった(ある)かな。というか、人はなかなか自分が死ぬ存在であるとは身体で体感できないもの。という意味では、なかなかそれを実感してない自分はやはり「青年期の引き延ばし?」
マーロー=コンラッドの前に現れた「東洋」は沈黙。
「台風」
マーロー語りではない分、作者の「高み」から鳥瞰する登場人物構築がもっと特徴的に(キャラクター的?)に楽しくなる。主要登場人物を彼らが航海中に書く手紙から一人ずつ覗かせていくという手法は楽しい。
何回も形容詞が積み重なって重層的になっていくコンラッドらしい文体とその内容。ここは「ごくありきたりの」性格にみえるマクホア船長がなぜ海に向かったのか、という考察から。(最近は「思いもよらぬ目標」が少なくなってきているのかな?)
(2011 03/06)
「台風」の最後は最初と呼応して登場人物の手紙とその反応で幕を閉じる。コンラッドらしさでは「青春」の方がアリかな…と思うけど、こっちも当時の苦力…福建から出稼ぎにきた華僑の人々の様子などもわかって興味深い。
(2011 03/07)