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「シグニファイング・モンキー もの語る猿/アフロ・アメリカン文学批評理論」 ヘンリー・ルイス・ゲイツ・ジュニア
松本昇・清水菜穂 訳 南雲堂フェニックス
読みかけの棚から
読みかけポイント:序を少しと気になった創話を一つ。ここで紹介されている作家も作品もほとんど知らないことに驚く。
はじめに
序章
第Ⅰ部 伝統の理論
第1章 ある起源神話
-エシュ・エレグバラとシグニファイング・モンキー(もの騙る猿)
第2章 もの騙る猿ともの騙りの言語
-修辞上の差異と意味の階層
第3章 もの騙りの比喩表現
第Ⅱ部 伝統を読む
第4章 トーキング・ブックという文彩
第5章 ゾラ・ニール・ハーストンとスピーカリー・テクスト
第6章 黒人性の黒さ
-イシュメール・リードと記号の批評
第7章 私をゾラ色に染めて
-アリス・ウォーカーによるスピーカリー・テクストの書き(直し)
訳者あとがき
原注
訳注
索引
監訳者・執筆者紹介
「もの騙る猿」の話
猿が通りがかったライオンに「象がお前の悪口言ってたぜ」と嘘を言う。ライオンは怒って象のところに行くが誹謗された象はライオンをコテンパンにする…この後の展開はいろいろあるようで…
とにかくポイントは、ライオンは猿が嘘をついている(騙っている)ことを知らないということ。それに自分がかなわない相手に言葉の技でもって勝利するというところ。
序章から
…パスティーシュがアフロ・アメリカン文学の特徴ということなのか。ところで文彩って何?
つまりそれは、小説の主人公でもなく、テクストの実体のない語り手でもなく、むしろ両者の混成体であり、立ち現れては交じり合う瞬間の意識なのである。
(p26 ゾラ・ニール・ハーストン「彼らの目は神を見ていた」の自由間接話法について)
ロシア・フォマリストたちが、スカースと呼んだところの、テクストが口述で物語っていると言ってよいほどの語りの要求がハーストンの比喩上の戦略に最も近い類似物である
(p26)
パロディとパスティーシュとの関係は、意図的なもの騙りと意図的ではないもの騙りとの関係に相当するのである。
(p27 前者はイシュメール・リード、後者はアリス・ウォーカー)
パスティーシュは、先行するテクストに対する賛辞、あるいは見たところとても太刀打ちできないと思しき表象様式に直面したときの空しさを暗示することもある。黒人作家たちは、こうしたあらゆる理由から、互いのテクストをもの騙るのであり、二者以上の複数の黒人のテクスト間でなされる黒人特有の意味作用としてのもの騙りは、アフロ・アメリカンの伝統における形式上の改変理論の基盤となっている。
(p28)
ミッチェル=エリスンの「もの騙る猿」体験
続いて、第2章「もの騙る猿と、もの騙りの言語」からミッチェル=エリスンの辺り。p139から始まる彼女の子供の頃の逸話。
例の「もの騙る猿」の話をウォーターズという男が幼い彼女にしていた時、となりの家の女性が彼女に店に行ってくれと頼んできた。もっと話を聞いていたかった彼女はその女性の依頼を断り、ウォーターズに「この女性はあなたを怠け者だと言ってるから嫌い」と嘘をついた、という。ウォーターズ自身は「解雇された為働けない、あの女性はその事情を知らないのだ」と言い(ミッチェル自身は彼が怠け者と言われていたのは知っていたが、それを聞いたのはこの女性ではなかった)。
「もの騙る猿」の話の続きが始まり、そこでは象にやられたライオンが戻ってきて猿をやっつけた。というオチになった。この時のミッチェルはこの結末に納得していたのだが…
数日後、別の子どもにその説話を話してやることになったとき、私はそれが時宜を得て話されたことを理解した。私がついた嘘の言いわけや告白は、愛情あるユーモアに迎えられた。そして、私はついに、自分が「会話をする」-すなわち、ほのめかしを理解し評価する-ことができる年齢になったのだと教えられた。
(p140)
これは「スクーリング」と称される。
メタファー的タイプのもの騙りは、語り手は話を間接的に伝え、聞き手はその発話を「もの騙り」として認識することで成立する。一方第三者のもの騙りは聞き手が相手の言語行為を「もの騙り」と認識できない時に成立する(「もの騙りの猿」のタイプ)
(p141要約)
文の見かけの意味は、そのほんとうの意味とは異なる。文の見かけの意味はその実際の意味をもの騙る。
(p142)
…一つ疑問というか反問というか。こういう騙りとか別のテクストに語りかける手法とかいうのは、別に黒人特有ではないのではないか。すぐ思いつくのは落語なんだけど(オチが時宜によって変わるとか)、それ以外にも。ただ著者(この人の名前を一部引く時はどこを引けばいい?)自身も、これはメルヴィルとかもろもろにも見られると書いているし。ただ、奴隷貿易と人種差別の歴史がこうした狡智の技術を卓越させたとは言えそうだけど。
(2020 08/02)