「陽気なお葬式」 リュドミラ・ウリツカヤ
奈倉有里 訳 新潮クレストブックス 新潮社
同じく新潮クレストブックスから、「ソーネチカ」、「通訳ダニエル・シュタイン」、「女が嘘をつくとき」、「子供時代」、「緑の天幕」。群像社から「それぞれの少女時代」、「クコツキイの症例」。それぞれ翻訳されている。
ニューヨークの異国人たち
「陽気なお葬式」リュドミラ・ウリツカヤ。亡命ロシア人達のニューヨークのコミュニティで、画家のアーリクが死に臨んでいる。そこにかけつけた5人の女性たち・・・病院で死ぬことを拒否し自宅の部屋で死んでいく、それを見守る人たち、という図式は前の「無限」と重なる(同じ新潮クレストブックスだし)。
(2020 08/09)
これで貴方も亡命ロシア人…
…というほど、亡命ロシア人の生活誌が興味深い「陽気なお葬式」。
死期が近づきニーナに「洗礼してくれないと死後あなたに会えなくなる」と言われたアーリクは、ロシア正教の牧師を呼ぶことにする。ただ同時にユダヤ教のラビも呼ぶ。この牧師とラビの巡り合わせが前半の読みどころ。
「不在」という言葉は「存在」を前提にした言葉ではなかろうか。「不在」を語ること自体、「存在」を待ち侘びている現れではなかろうか。無神論、無宗教は神を無視しているのとは違う。
それでも酒を飲む…
亡命した人たちの集まり。しかもテレビでは祖国がクーデターにより混乱状態に陥っているのが放映されている。死につつあるのはアーリクだけでなく、ソ連という国そのものもまたそうであった。
(ひょっとしたら、1992年くらいに一回書き上げた時点ではこっちの要素の方が強かったのかな、とも考えてみる)
こうしているうちに、最重要問題であったはずのアーリクの死は、割と淡々と訪れて…
埋葬は出航のイメージ。動かないけれど動く。
個人的に予想していたのよりはあんまり「陽気」ではなかったが、昔レントゲン写真に溝掘って作った非合法のジャズのレコードとか、ワレンチーナが歌う北方の卑猥な民謡とか、パラグアイの音楽家とか、イリーナとマイカとの対話とか、しんみりとでも陽気なのかな。そうしておこう。
というわけで、「陽気なお葬式」読了…
(2020 08/10)