待望のアップデートを盛り込んだMatter1.4がリリースされた
スマートホームのプロ集団X-HEMISTRY代表 兼 MatterやAliroを規格化しているConnectivity Standards Allianceの日本支部代表の新貝です。
Connectivity Standards Allianceでは、会員企業のメンバーが一同に集まるメンバーミーティングが定期的に開催されており、2024年の秋ラウンドはハンガリーのブダペストで開催された。メンバーミーティングの最終日に「Matter1.4の公式ブログがリリース」とアナウンスされ、クロージングセミナーの会場が拍手喝采となった。
ちなみに、公式から発表されたMatter1.4に関するブログは下記のリンクから参照できるが、このnoteを通じて日本語で解説していきたい。
この公式アナウンスを受けて、最近Matterに対して辛辣な記事を書いていたメディアThe Vergeも「Matter 1.4 tries to set the smart home standard back on track(Matter1.4はスマートホームの標準を軌道に戻そうとしている)」というタイトルで公式アナウンスを紹介した。
ということで、ここから公式のMatter1.4アナウンスをDeeplで翻訳した結果を少し手直した日本語抄訳を紹介していきたい。
公式ブログの冒頭はこんな書き出しで始まっている。
Matter1.4に関する公式ブログの出だし
「エコシステム間の同期、ホームネットワークインフラ、新たなエネルギー管理デバイスへの対応と機能追加、その他の重要な機能強化のサポート」
Connectivity Standards Alliance は、デバイスメーカーやプラットフォームが製品に統合できる Matter 1.4 のリリースを発表します。
このアップデートは Matter エコシステムを大きく前進させます。Matter 1.4 では、デバイスメーカーやプラットフォームが拡張マルチアドミニストレーションにより複数のエコシステムをまたいだ場合のユーザーエクスペリエンスを改善します。
また、ホームルーターやアクセスポイントもMatterの認証対象とすることで、より信頼性と相互運用性の高いホームネットワークを構築できるようになります。
エネルギー管理機能も強化することで、さらなる省エネ化を実現するための基盤を提供します。このいくつかの新しいデバイスタイプのサポートや機能強化行われ、より優れたユーザー体験を提供できるようになります。
1.4リリースにおけるMatter仕様の進化は、グローバルから参画している数百社ものメンバー企業のサポート、その企業から提供される何千人に及ぶエンジニアや製品エキスパートの貢献により実現されています。2022年の発表以来、Matter製品は世界中の何百万もの家庭で使用されており、Matterワーキンググループのメンバーは、スマートホームを改善し成長させるために、実世界での経験、イノベーション、課題をMatterの継続的な開発に持ち込み続けています。Matter 1.4 は、シンプルさ、相互運用性、そして IoT 業界全体にわたる新しい体験を提供するという我々のコミットメントを強化するものです。
(解説)「エコシステム」とは日本語に直訳すると「生態系」だが、スマートホーム業界でいう「エコシステム」とは、いわゆる「プラットフォーム」のことを指していて、日本式に言うといろいろなメーカーのデバイスを束ねる仕組みとUIを提供するプラットフォーマーのことを指している。出だしでは、「Matterエコシステム」という表現も出てくるが、これはMatterという規格自体も多くのメーカーのビジネスを支える仕組みであることから、「エコシステム」という表現が使われている。
Matterは多くの企業からの優秀な人材が貢献して作られた規格であるという記述もあるが、まさに実際多くの企業が利害や垣根を超え、スマートホームの新しい未来を作ろうという目標に向かってチームを編成した賜であることは、アライアンスに所属しているメンバーの一員として日々目の当たりにしている。
ここからは実際の機能拡張について解説していきたい。
ホームルーターとアクセスポイント(HRAP : Home Router&Access Point)によるネットワークインフラの強化
ホームルーターやモデム、アクセスポイント、セットトップボックスなどのデバイスもサポートされ、Matterを ベースしたスマートホームをより強固にサポートするように規格化されました。既存の機器のアップグレードも可能です。Matter 認定 HRAP デバイスは、Wi-Fi アクセスポイントに加え、 Threadボーダールータの機能を組み合わせることで、スマートホームの基盤となるインフラを提供できるようになります。HRAPデバイスは、Threadネットワーク認証情報を保存・共有するためのセキュアなディレクトリも備えています。この標準化により、ユーザーはThreadボーダールータを含む新しいThreadデバイスを、新たに別途Threadネットワークを作るのではなく、既存のThreadネットワークに簡単に追加することができるようになります。そのため、統一されたThreadメッシュネットワークの利点を実現できるようになるため、家庭内ネットワークにおけるThreadネットワークの断片化を減らすことができます。
今回の内容に加え、HRAPは今後もThread 1.4で改善された内容のサポートを含め、スマートホームインフラを改善するための機能拡張を継続的に追加していく予定いきます(なお、このMatter 1.4リリースとThreadの1.4リリースのバージョン番号は偶然の一致であり、無関係である)。
(解説) この機能を家庭向けルーターでサポートすることにより、今後ISPなどが提供する家庭内ルータや、ケーブルテレビ事業者などが提供するセットトップボックスが中心になり、家庭内のMatterネットワークを提供できるようになっていくため、通信事業者がスマートホームサービスへ参入しやすくなっていくことが予想される。
マルチアドミンの強化
「マルチアドミン」という機能 は Matter のビジョンであるユーザーに対する選択肢の提供と相互運用性の肝となる機能です。この機能によりユーザーは Matter対応の デバイスを複数のスマートホームプラットホームに繋げることができます。しかし、複数のプラットフォームを自宅で管理する際に各デバイスを1つ1つ個別に別のプラットフォーム共有していく仕組みのままだと、ユーザーがスマートホームの機器を増やしていくにつれて面倒で複雑になってしまいます。今回強化されたマルチアドミン は、ユーザーの同意を得ることで、複数のエコシステムを持っていたとしても、既存および新規デバイスが自動的に共有されるようになります。Matter 1.4と今後のリリースされる拡張機能により、スマートホームシステムの開発者がこのオプション体験を実装するに当たって柔軟なアプローチを提供していきます。
アライアンスはHRAPとこの拡張されたマルチアドミンがどのように機能するのか、また製品メーカーがどのようにアプリケーションに最適なパスを選択できるのかについて、今後より詳細なブログ記事を公開していく予定です。この2つの機能強化に関する詳細は、アライアンスのニュースフィードをご覧ください。
(解説) この機能が待望されていた機能。MatterにはマルチアドミンというMatter機器を複数のプラットフォームを跨いで使える素晴らしい機能があるのだが、これまではこのマルチアドミンの使い勝手があまり良くなかったこともあり、Matterの評判を落とす原因になっていた。今回の機能強化により、例えばiPhone上のHomeアプリでスマートホーム機器を設定したら、同じ自宅にある別のスマートホームシステム、例えばAlexaやGoogle Homeにもスマートホーム機器が同期されるようになっていく世界が実現する。
エネルギー管理の機能拡張
Parks Associates社(米国の調査会社)が最近行った調査結果によると、家庭におけるエネルギー管理をするために、消費者がスマートホーム機器を導入する最大の理由の1つとなっている。消費者は、家庭内の各デバイスや家電製品がどれだけのエネルギーを使用しているかを知りたがっているだけでなく、手動で調整することなくエネルギーを節約し、エネルギー料金を削減してくれるルールや自動化にも注目しています。このような未来は、Matter 1.4で紹介した新しいデバイスの種類と機能によって可能になります。
Matter 1.3 では、エネルギー消費に関するレポート機能を導入し、大型家電やEVチャージャーのエネルギー管理ができる機能をサポートしました。Matter 1.4 では、新たにソーラーパネル、蓄電池、ヒートポンプ、給湯器などデバイスタイプのサポートを追加することで、エネルギー管理機能を拡張しました。これらの機能追加は、エネルギー管理およびサーモスタットクラスタ(空調管理)の改善とともに、よりスマートにエネルギー管理を自動化していくための道を開きます。
(解説) Matter1.3でサポートされた機能については、下記のnoteを参考して頂きたいが、将来Matterのエネルギー管理に対応した機器が普及していくことで、人間が意識したり努力しなくても家が自動で快適さと節電のバランスを取ってくれる時代が到来していくことが予想される。
新たにサポートされたエネルギー管理用のデバイスタイプと機能
太陽光発電 : Matterにおける既存の電力および電気エネルギーのサポートは、インバーター、個別または太陽光発電アレイ、ハイブリッドな太陽電池/蓄電池システムにまで拡大されました。
蓄電池 : これには、バッテリーウォール、ストレージユニット、家庭や送電網にエネルギーを再供給できるバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS : Battery Energy Storage System)が含まれ、「仮想発電所」を構築します。 ホームエネルギー管理システムによって有効化され、Matterコントローラーがエネルギー管理システムとして機能することができるようになり、負荷分散をサポートできます。
ヒートポンプ : ヒートポンプは、家庭内の温度管理のために普及が増えている機器であり、設置に対する奨励金プログラムも増加しています。 Matterのエネルギー管理機能により、これらの機器は消費量を予測し、ピーク時の需要に合わせて使用量を調整することができます。 ヒートポンプは、例えば家の予熱など、エネルギー使用をピーク時以外にシフトさせることができ、バッテリーのように機能する「バッファタンク」を搭載したものもあります。
給湯器 : 電気温水器は、あらかじめ設定した温度または割合で設定でき、ユーザーは温水の残量を確認できます。温水を素早く必要とする状況では、複数のエネルギー源から急速に加熱するブーストコマンドにより、一時的に加熱スケジュールを無効にすることができ、ゲストを招いている場合などに最適です。これにより、消費者はよりコントロールしやすくなり、柔軟性も高まります。さらに、新しい給湯器モードクラスターでは、スケジュールを簡単にオン・オフに切り替えることができるため、通常の生活パターンが変化した場合でも、暖房パターンを簡単に調整することができます。
EVチャージャー(EVSE : Electric Vehicle Supply Equipment)の機能強化:EVSEのサポートは、ユーザーが自動車の充電を希望する時刻を指定するなど、ユーザー定義の充電設定を導入することで強化されています。これにより、ユーザーは利便性とコストを考慮して最適な充電開始時刻を選択できるようになります。これは、以前のMatterバージョンの暫定的な機能を発展させたものです。
サーモスタットの機能強化:サーモスタットクラスタは、スケジュール設定や休暇、帰宅、外出設定などのプリセットモードをサポートします。プリセットは、動作検知、他のデバイスとの統合、カレンダー・イベントに基づく自動化によって起動できます。
デバイスエネルギー管理とモード : デバイスエネルギー管理に対応した Matter 1.4 では、エネルギー消費の多いデバイスがエネルギー使用予測と電力管理ニーズに基づいて起動時間を調整できるようになりました。この機能は、消費パターンを最適化するデバイスに最適です。新しいデバイスエネルギー管理モードクラスターにより、デバイス固有、ローカル、またはグリッド全体のエネルギー最適化を簡単に切り替えることができるため、家庭内の電力管理に柔軟性と効率性をもたらします。
オン/オフおよび調光可能な負荷制御デバイス
Matter 1.4では、照明やファン、その他のスマートでない家電製品を制御する壁スイッチなど、有線接続された機器に電力を供給する壁固定型スマートホームデバイス用に特別に設計された2つの新しいデバイスタイプが導入されました。 これまでは、これらのデバイスは通常、照明としてモデル化されており、ユーザーインターフェースや自動化の柔軟性が制限される可能性がありました。
在室検知機能の拡張
センサー系デバイスの機能強化により、ミリ波レーダーやビジョン型、アンビエントセンシング技術(Wi-Fiセンシング等)などの検知機能がサポートされました。また今回の更新により、カスタマイズで感度設定変更ができる機能が導入されるため、センサーの検知や検知履歴を分析してチューニングすることで、人の動きに基づいていろいろなものが動く形のスマートホーム体験が実現します。この更新により、人の活動量分析などの機能も実想定しているため、今後新しい検知技術をサポートしていくための基盤となります。
Matterに関する解説ビデオ
MatterについてはムセンコネクトさんのYouTubeチャネルでも解説しておりますので、ご興味がある方はご覧ください。
上記の動画は後編にあたり、Matterに絞って解説していますが、スマートホームに関連する無線技術を語った前編動画もあります。
著者 : 新貝 文将
スマートホームに特化したコンサルティングサービスを提供するスマートホームのプロ集団X-HEMISTRY株式会社の代表取締役 兼 MatterやAliroを規格化しているConnectivity Standards Allianceの日本支部代表。
2013年から東急グループでスマートホームサービスIintelligent HOMEの事業立ち上げを牽引し、Connected Design株式会社の代表取締役に就任。
2018年には株式会社アクセルラボの取締役 COO/CPOとして、SpaceCoreサービスの立ち上げを牽引。
2019年秋にX-HEMISTRY株式会社を設立。スマートホーム事業に関連するノウハウを惜しみなく提供する形で、多くの日本企業向けにスマートホーム事業のノウハウを伝授しつつ、数々のスマートホーム事業企画/立ち上げにも寄与。
2024年春にはMatterやAliroで知られるConnectivity Standards Allianceの日本支部代表に就任。
リビングテック協会発行「スマートホームカオスマップ」の製作も監修しており、スマートホームのエキスパートとして日本のスマートホーム業界で認知されている。
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