1年半ぶりにMatterについて語ってみる - Matter1.2 + Matter1.3概説や市場への浸透具合について
スマートホームのプロ集団X-HEMISTRY代表の新貝です。
今回は久々にMatterについての記事を書いてみようと思う。前回Matterについて書いた「誰よりもわかりやすく"Matter"を解説してみる」というnoteは、かれこれ1年半前の2023年2月に書いたので、気づけばあれから随分経ったもののMatterに関心を持った皆さまにコンスタントに読んで頂いているようで、このnoteは僕が書いたnoteの中でも2番目に多く読まれている。
まずは近況報告から
僕はスマートホームのプロ集団X-HEMISTRYの代表でもあるが、この春、2024年4月にはMatterを策定しているConnectivity Standards Allianceの日本支部Japan Interest Groupが発足し、そこから日本支部の代表を務めさせてもらうことになった。
上記のnoteを書いたときにはそんなことになるなんて夢にも思っていなかったので、世の中面白いものである。
Matterは半年ごとに新しい仕様が公開されるので、まもなくMatter1.4が世の中に出てくるタイミングではあるが、公式サイトがMatter1.3についてのブログを公開したこともあり、Matter1.2とMatter1.3について簡単に解説してみようと思う。
Matter1.3について解説しているこの公式ブログについては、公式から許可をもらい日本語訳したものをX-HEMISTRYのオウンドメディア「スマートホームBASE」に掲載しているので、ご興味があるかたは参考にして頂きたい。
Matter1.0からMatter1.3までの変遷
ということで、ようやく本題に入るがMatter1.0のリリースはスマートホーム業界の期待が当初から大きかったが、何度かの遅延を経てようやく2022年10月4日に発表された。
下記がMatterの初版であるMatter1.0対応のデバイスタイプだが、まずはスマートホームとして基本的なデバイスがサポートされた。
その後、半年後にMatter1.1がリリースされたが、新たなデバイスタイプの対応は見送られ、内容的にはマイナーなアップデートだったこともあり、業界やメディアからはがっかりする声も聞かれた。
しかし、2023年秋にリリースされたMatter1.2では待望されていた白物家電やロボット掃除機などが新たにサポートされた。
さらに2024年春にリリースされたMatter1.3では追加の白物家電に加え、EVチャージャーや、(デバイスタイプと括られながらも)「エネルギー管理」と呼ばれる仕様がリリースされた。
なぜMatterがエネルギー管理に取り組むのか
世界人口もまだまだ増加していることに加え、ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢などでエネルギー産出国周辺での不安定さ、EVの緩やかな普及、我々が日々使う電子機器も増え続けているということも相まって、世界的なエネルギー不足が我々の生活にも影響を与えている。
これをスマートホーム機器をインフラと位置づけるべくMatterはこの仕様化に取り組んできた。
Matterは今後もサポートするデバイスを増やしていくことになると思うが、デバイスの状態把握やコントロールだけでなく、消費電力に関する情報も統一しようということがこの狙いとなっている。
スマートホームは家庭内で主に使われるものであるが、今後スマートホームの普及が伸びていくことに伴い、家の中でも様々なものが繋がっていくが、その家が電力網に繋がっていくことによって自然とスマートシティ的な世界が構築され、電力の需給バランスコントロールの調整弁としてスマートな住宅が街のインフラのように機能していく、というわけだ。
そのための基板作りをConnectivity Standards Allianceでは取り組んでおり、その成果としてエネルギー管理という仕様をMatter1.3に盛り込み世の中に送り出した。
詳細については、公式ブログの日本語訳をスマートホームBASEに掲載してるので参考にして頂きたい。
Matter対応デバイスは増えているのか?
僕はスマートホーム人生が始まってからかれこれ10年以上、パンデミックの間を除き、ほぼ毎月のように日本と海外を行き来している。
この前テキサス州のオースティンに行ったときに、アメリカの家電量販店Best Buyに立ち寄ったので、写真で紹介してみたい。
まずBest Buyはアメリカ最大の家電量販店で、時代の流れもありピークよりも店舗数は大幅に減っているようだが2024年時点でも1000店舗以上は北米にあるようだ。
下記の写真は店内から入口方面を撮ったものだが、アメリカのほとんどの店舗は入口正面に「スマホのコーナー(Mobile & Activation)」と「スマートホーム」が並んで陣取っている。
ちなみに僕はアメリカ50州のうち48州を訪れたことがあり、時間があるとBest Buyに立ち寄ってみることが習慣になっているので、これは都市部の話ではないことを付け加えておく。
そしてどの店舗でもAmazonとGoogleが競うように並んでいる。
はよ本題に入れという感じだが、もう何枚か店内の写真を紹介する。
さてここからMatterの浸透具合
あ、Goveeを紹介して気づいたがnanoleafのMatterロゴをわかりやすく写真に撮るの忘れた!(3枚上の写真にnanoleafがあるがちゃんとMatterロゴがついている)
という感じで、めちゃめちゃ増えてきているか、というと店頭ではまだまだこれからかな、という感じではあるがオンラインも含め徐々に増えつつある。
とはいえ、まだまだだねという状況でもあるが、CES2024でもMatterのロゴが至る所にあったし、IFA2024でもMatterのロゴが至る所にあった。
IFA2024で見られたMatter対応製品を動画に撮って編集してみたので時間がある方は見て頂きたい(これでも見逃したものがあったようで悔しい)。
こういった新しいものは時間をかけて浸透していくものなので、今後徐々に我々の目に留まる機会が増えていくはずであり、今後が実に楽しみである(WiFiやBluetoothもはじめは時間をかけて誰もが知るテクノロジーになったわけだし)。
家電がMatter対応になると何がうれしいのか
おさらいだが、Matterの特徴として我々が普段肌身離さず持っているスマホのOSであるiOSとAndroidが標準対応している、というところがまず前提としてある。Matterは対応機器を買ってきて、箱を開けて電源を入れると我々のスマホが「新しいMatter機器が見つかりました」と教えてくれる。
その画面から製品についているQRコードを読み取るだけで設定が完了し、対応機器がネットに繋がってくれるようになっている。
つまり、今後徐々にMatter対応家電が増えていくとすると、スマートホームに興味がなかった人が買った家電をきっかけとして、知らず知らずのうちにスマートホームに興味関心を持っていなかった人たちがMatterの世界に足を踏み入れるという導線ができていくわけだ。
これまではメーカーもせっかくお金と時間をかけて開発したコネクテッド家電なのに、消費者が繋がる家電であることを認識してくれていないので繋げてもらえないんですよね、という悩みも抱えたりしているようだが、そうした問題も解決してくれる。
それを想定した家電メーカーは、みんなが買う家電にスマートホームのゲートウェイ機能(Matterの世界ではコントローラーと呼ぶ)を仕込んで売っている。そのためにSamsungやLGはMatterをテレビに入れているのである。
PanasonicもAmazonと提携し、FireTVを内蔵したテレビを販売し始めたが、そういうことがこれから起こり始める。
Samsungはそれを"Hub Everywhere"と呼んでおり、まずはテレビ、冷蔵庫、パソコン用のディスプレイ(スマートディスプレイ)にその機能を入れてきたが、最近ではサウンドバーやミュージックフレームと呼ばれるAV機器にも盛り込んでおり、徐々にHub Everywhere対応製品を増やしている。
Matterについてさらに詳しく知りたい方
我々スマートホームのプロ集団X-HEMISTRYにお問合せを頂ければ、Matterのみならず、スマートホームに関しては幅広くお手伝いができますが(お仕事としてお応えするケースもありますが)、MatterについてはムセンコネクトさんのYouTubeチャネルでも解説しておりますので、ご興味がある方はご覧ください。
上記の動画は後編にあたり、Matterに絞って解説していますが、スマートホームに関連する無線技術を語った前編動画もあります。
参考 : Matter1.2とMatter1.3デバイスタイプ概説
Matter1.2
冷蔵庫 : 基本的な冷蔵庫の温度制御とモニタリングにとどまらず、冷凍庫や、ワインやキムチの冷蔵庫など、その他の関連デバイスにも適用できる。
ルームエアコン : HVACとサーモスタットはすでにMatter 1.0の一部だったが、温度とファンモード制御を備えたスプリットタイプのルームエアコンがサポートされるようになった。
食洗機 : 遠隔スタートや進行状況の通知など、基本的な機能がサポート。食器洗い乾燥機のアラームもサポートされ、給排水、温度、ドアロックのエラーなどの操作エラーもカバー。
洗濯機 : サイクルの完了など、進行状況の通知を Matter 経由で送信可能。
ロボット掃除機 : 遠隔スタートや進行状況の通知といった基本的な機能だけでなく、クリーニングモード(ドライバキュームとウェットモップの比較)やステータスの詳細(ブラシの状態、エラー報告、充電状態)といった主要な機能もサポート。
煙・一酸化炭素探知機 : これらのアラームは、通知、音声およびビジュアルアラーム信号をサポート。バッテリーの状態に関するアラートと寿命末期の通知にも対応。これらのアラームは、セルフテストにも対応。一酸化炭素アラームは、追加データポイントとして濃度検知をサポート。
エアクオリティセンサー : サポートされているセンサーは、PM1、PM2.5、PM10、CO2、NO2、VOC、CO、オゾン、ラドン、ホルムアルデヒドを計測してレポート。さらに、Air Quality Clusterの追加により、Matterデバイスは、デバイスの場所に基づいたAQI(Air Quality Index)情報を提供することが可能。
空気清浄機 : 空気清浄機は、センシング情報を提供するためにAir Quality Sensorデバイスタイプを利用し、ファン(必須)やサーモスタット(オプション)などの他のデバイスタイプの機能も含む。空気清浄機には、消耗品リソースのモニタリングも含まれ、フィルターステータスの通知を可能にします(1.2ではHEPAフィルターと活性炭フィルターの両方がサポート)。
ファン : Matter 1.2 では、独立した認証可能なデバイスタイプとしてファンをサポート。ファンは、首振りや首振りロックなどの動きや、自然風モードや睡眠モードなどの新しいモードをサポート。さらに、送風方向(正方向と逆方向)を変更する機能や、送風速度を変更するためのステップコマンドも強化された。
Matter1.3
エネルギー管理 : ユーザーがエネルギー使用量を把握し、費用の節約、カーボンフットプリントを削減を管理できるようにするため、Matter 1.3は新しいエネルギーレポート機能を導入。これにより、任意のデバイスが実際および推定の測定値(瞬時電力、電圧、電流など)をリアルタイムで報告する能力を持ち、時間の経過とともにエネルギー消費または発電量を報告することが可能になる。
EVチャージャー : Matter 1.3のエネルギー機能は、新しいエネルギー中心のデバイスも可能にし、その最初のものが電気自動車供給装置(EVSE)。これにより、EV充電機器メーカーは、消費者が車両の充電方法とタイミングを制御するためのユーザーフレンドリーな方法を提供できる。充電を手動で開始または停止したり、充電速度を調整したり、出発時刻までに追加する走行距離を指定したりする機能があり、充電ステーションが最も安価で低炭素なタイミングで自動的に充電を最適化できる。
水まわりの管理 : 漏れ検知器や凍結検知器、雨センサー、制御可能な水弁のサポートにより、住宅所有者は自宅や周囲の水をより効果的に監視、管理、および保護できる。
電子レンジ : ユーザーは調理時間、パワーレベル、動作モードを制御でき、電子レンジの動作が完了すると「サイクル終了」や「調理完了」といった通知を受け取ることができる。「オーバーザレンジ」構成に設置された電子レンジの場合、この仕様は換気ファンと照明の制御もサポート。
オーブン : ビルトイン、単体、またはクックトップと連動するレンジの一部としての構成がMatter 1.3アップデートに含まれる。各オーブンコンパートメントは、操作モード(標準、対流焼き、ロースト、スチーム、ブロイル/グリル、発酵)や温度設定の観点から個別に制御でき、オーブンの状態(予熱中または冷却中など)に関連する情報も提供される。予熱完了や目標温度到達などの通知もサポート。
クックトップ : Matter 1.3ではクックトップのサポートが含まれており、リモートアクセスと制御が可能(通常は誘導加熱デバイス)。クックトップの個々の要素は温度制御と測定が可能(規制で許される場合)。
換気フード(クッカーフード、換気フード): Matter 1.3はクックトップやレンジに対応し、クックトップフードと連携。これにより、デバイスのライトとファン設定、および使用されるフィルタ材(例:HEPAフィルタ)の状態/寿命終了を制御できる。
乾燥機 : ユーザーは乾燥機のモードと目標温度を設定でき、地元の安全規制に応じてリモートで乾燥機を開始および停止できる。「サイクル終了」やエラーステートに関するアラーム(ベンダー指定)などの通知もサポートされる。
Matterキャスティングメディアプレーヤー/テレビ : Matter 1.3は、テレビの機能に改善をもたらす。新しいアンビエントエクスペリエンスのためのプッシュメッセージやダイアログのサポート、キャスティングの初期化強化、テレビアプリの拡張されたインタラクションオプション、テキストおよびトラックのサポート、検索機能の改善などが含まれる。家庭内の他のデバイスとの連携も強化され、他のMatterデバイスがテレビや他の画面付きデバイスに通知を送ることができる(例えば、ロボット掃除機が詰まっている、洗濯が完了したなどの通知)。
著者 : 新貝 文将
スマートホームに特化したコンサルティングサービスを提供するスマートホームのプロ集団X-HEMISTRY株式会社の代表取締役。
2013年から東急グループでスマートホームサービスIintelligent HOMEの事業立ち上げを牽引し、Connected Design株式会社の代表取締役に就任。
2018年には株式会社アクセルラボの取締役 COO/CPOとして、SpaceCoreサービスの立ち上げを牽引。
2019年秋にX-HEMISTRY株式会社を設立。スマートホーム事業に関連するノウハウを惜しみなく提供する形で、多くの日本企業向けにスマートホーム事業のノウハウを伝授しつつ、数々のスマートホーム事業企画/立ち上げにも寄与。
2024年春にはMatterやAliroで知られるConnectivity Standards Allianceの日本支部代表に就任。
リビングテック協会発行「スマートホームカオスマップ」の製作も監修しており、スマートホームのエキスパートとして日本のスマートホーム業界で認知されている。
X-HEMISTRYのコーポレートサイト
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