今季最高のゲーム
20/21 ブンデスリーガ 第7節
ドルトムント vs バイエルン
~デア・クラシカーのあらゆる局面を分析します~
特に今シーズンは個人的に様々なリーグの試合を見ていますが、その中でも先日行われたブンデスリーガ第7節のドルトムントvsバイエルンでは、チームや各選手の戦術的、精神的、技術的な観点のすべてにおいてハイレベルで、これまで私が見てきた今季の試合の中で一番面白かったと思いました。
そこで、この試合で見られた様々な局面を分析していきたいと思います。
スタメン(home : ドルトムント)
(away : バイエルン)
結果 : ドルトムント 2 - 3 バイエルン
( 前半 1 - 1、後半 1 - 2 )
バイエルンの守備
(プレッシング)
① 開始点
この試合バイエルンは敵陣でのプレッシング時、下図の黄色エリアがプレッシングの開始点となる攻撃的プレッシングを主に行っていた。
※後半は守備的プレッシング(ミドルプレス)が多かった。
② 陣形
陣形は、トップ下のミュラーがCFのレヴァンドフスキと横並びになり、全体として「4-4-2」となる。
このとき、できるだけDFラインを高く保ち全体をコンパクトにする。
③ 追い込み方
ボールを追い込むエリアはサイド。ここでサイドへの誘導の仕方は、相手CBがパス交換する際にFWの位置に立つレヴァンドフスキとミュラーが相手CB、ボランチに対して下図のようにチャレンジandカバーを行う。これにより、第1プレッシャーラインを越えられるようなパスを防ぎボールをサイドに誘導する。
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その後、相手CBからサイド(相手SB)にボールが出たところをSHのニャブリ(左)、コマン(右)がアプローチし、これをスイッチにボールサイドでアグレッシブなプレッシングを行う。
このとき全体がボールサイドにスライドし、ボール周辺のエリアでは基本的にマンマークとなる。
また、このときも出来るだけDFラインを高く保ち全体をコンパクトにする。
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④ バックパス
ボールをサイドに追い込んだ際、相手がボールを後方に下げたときには、そのまま全体を押し上げ「超攻撃的プレッシング(ペナルティエリア付近でのプレッシング)」に移行する。
このとき、FWのレヴァンドフスキとミュラーには相手GKまでボールを追い続けるというタスクが与えられていた。
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ドルトムントの攻撃
(ビルドアップ)
① 陣形とプレー展開
ドルトムントは自陣からのビルドアップ時、下図のような陣形となる。
ここでビルドアップの方法としては、まずDFライン(CBとSB)で左右にショートパスで動かし、相手がプレスに出てきたところで、ロングボールを使って前線にボールを送る「ダイレクトなビルドアップ」を行う。
② プレス回避
試合中に見られたプレス回避の方法を紹介する。
まず、DFラインでショートパスで左右にボールを動かしながら、SBのムニエ(右)/ ゲレイロ(左)にボールが入ったところで、前線に立つSHのサンチョ(右)/ジョバンニ・ レイナ(左)が大外レーンに移動しながら後方に下り相手SBを引き付ける。このとき同時にCFのハーランドがボールサイドのハーフスペースに移動する。その後、スペースのできた相手SBの裏へSBのムニエ(右)/ ゲレイロ(左)がロングボールを送り、そのスペースへハーフスペースに立つCFのハーランドが走り込む。
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バイエルンのハイプレス時の特徴としては、やはりDFラインが非常に高いという点。そのため、ドルトムントはバイエルンのハイラインの裏を積極的に狙っていた印象だった。しかしながら、バイエルンはGKのノイアーがDFラインの背後を広くカバーできるため、ドルトムントのロングボールはなかなか効果的にハーランドへ繋がらなかった。
また、個人的にレヴァンドフスキとミュラーのチャレンジandカバーの技術の高さとバックパスを追い続ける走力に驚きを感じた。
ドルトムントの守備
(プレッシング)
① 開始点
ドルトムントはプレッシング時、ミドルプレスとハイプレスを使い分けていた。今回はハイプレスについて分析する。
ハイプレス時の開始点として、下図の黄色エリアがプレッシングの開始点となる「超攻撃的プレッシング」を行う。
② 陣形
陣形としては、トップ下のロイスがCFのハーランドと横並びになり「4-4-2」となる。
このとき、全体が下図のようなマンツーマン(只のマンツーマンではなく、監視するようなイメージ)となる。
③ スイッチと追い込み方
追い込み方としては、まずFWラインのロイスあるいはハーランドのどちらかが相手GKまでマークしていたCBへのパスコースを消しながらアプローチし、相手GKからパスが配球されたのをスイッチにプレッシングを開始する。
その後、全体がボールサイドに多少スライドし、ボール周辺のエリアではマークの強度を高め、プレスをかけ続ける。
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バイエルンの攻撃
(ビルドアップ)
① 陣形とプレー展開
バイエルンはビルドアップ時、下図のような陣形となる。特徴としては、前線の4枚のうち中央に立つ2枚がトップ下の位置(相手DFとMFのライン間)に立つ。
また、この前線の4枚(レヴァンドフスキ、ミュラー、ニャブリ、コマン)は1局面ごとにポジションを入れ替えていた。
プレー展開としては、後方の7枚(GK、CB、SB、ボランチ)でショートパスを繋ぎ、ポゼッションによるビルドアップを優先的に行う。
※相手のプレスの強度によってはロングボールを使うダイレクトなビルドアップも行っていた。
② プレス回避
試合中に見られたプレス回避の方法を紹介する。
まず、後方でショートパスを繋ぐ際にCBのアラバ(あるいはボアテング)が積極的にボランチ(ゴレツカ、キミッヒ)へ縦パス/斜めのパスを入れる。その後、ボールを受けたボランチのゴレツカが中を向き、ゴレツカ→キミッヒ→ハーフスペースの入口(赤エリア)に立つレヴァンドフスキへとダイレクトプレーで繋ぎ、相手のプレッシャーラインを突破した。
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バイエルンは、前線の中央に立つ2枚を1.5列目(相手DFとMFのライン間)に配置することで、相手CBが飛び出して来ないときは、ライン間の2枚へボールを送ることを狙い、相手CBが飛び出して来たときはその裏をロングボールで狙うというプレー展開を採用していた印象だった。
一方、ドルトムントはハイプレス時のマンツーマンプレッシングは非常に効果的だったが、この微妙な位置に立つバイエルンの前線2枚への対応に少し苦労していたように感じた。
ドルトムントの守備
(ブロック守備)
① 陣形
ドルトムントは自陣でのブロック守備時、下図のように「4-4-1」のブロックを形成する。
守備の基準点はボールと敵で、一旦陣形の整えた後、ブロックをコンパクトに保ちつつ陣形の維持よりもボールホルダーに直接プレッシャーをかけることを優先する。
また、ブロックの横方向と縦方向のコンパクトネスは縦方向が約10~15m、横方向はペナルティエリアよりも狭い。
② サイド
サイドのエリアでは、大外のボールホルダーに対して原則SH(サンチョ、ジョバンニ・レイナ)かSB(ゲレイロ、ムニエ)のどちらかがアプローチする。
ここで、ブロックをコンパクトに保ちながらボールサイドにスライドさせ、ボール周辺のエリアではマンマークで対応する。
また、下図のように相手がボールを下げた際もボールの受け手に対してプレッシャーをかけ続ける。(相手がさらにボールを下げた際には、全体を押し上げミドルプレスに移行)
バイエルンの攻撃
(ポジショナルな攻撃)
① 陣形とプレー展開
バイエルンは敵陣でのポジショナルな攻撃時、下図のように「2-4-4」の陣形になる。
このとき、陣形を保ちながら全体で頻繁にポジションチェンジを行う。(ボランチの1枚がライン間に侵入、前線の選手がMFラインに下りる、CBがSBの位置に上がりボランチがCBの位置に下りるなど)
また、前線に立つ選手はお互いが同レーンに被らないようにポジショニングする。
プレー展開としては、幅を使ってポゼッションを行いながら主にサイド攻撃を行う。
② 具体的な攻撃方法
ここで、個人的に印象に残ったシーンを2つ紹介する。
まず1つ目は、ライン間のハーフスペースに立つミュラーへCBのボアテングから縦パスが入り、その後大外のコマンがボールを受け、相手SBと1対1になったシーン。ライン間のハーフスペースでミュラーがボールを受けたことにより相手の組織が多少崩れ、その状態でコマンが相手SBと1対1で勝負した。(最終的にはクロスボールがゲレイロに当たりコーナーとなった)
また、このときニャブリとゴレツカがポジションチェンジを行い、ニャブリがボールを引き出そうとしていた。
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2つ目は、ボランチのキミッヒがライン間に侵入し、ポジションチェンジするようにミュラーがMFラインに下りてボールを受け、逆サイドでフリーになっていたコマンの裏を浮き玉で狙ったシーン。この場面では相手左SBのゲレイロにカットされてしまったが、非常に効果的な狙いだと感じた。
今回紹介はしませんでしたが、バイエルンのブロック守備やミドルプレスとドルトムントのポジショナルな攻撃の局面、両チームのトランジョン(攻→守、守→攻)の局面でのカウンターやゲーゲンプレッシングの攻防など、非常に面白かったです。
特に、ドルトムントはポジティブトランジション時、最終的にハーランドの裏を狙うカウンターを行い効果的にバイエルンの最終ラインの背後を取れていました。その中で、ハーランドの裏へ抜け方やタイミングの質の高さ、そして圧倒的なスピードには驚きました。
また、バイエルンもポジティブトランジション時にはカウンターを主に行い、人数をかけてテンポよく一気に相手ゴールまで迫るようなカウンターは見事でした。
一言で素晴らしい試合でした。
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