ポジショナルプレーの考え方に基づいた配置とプレッシングトラップ
20/21 プレミアリーグ 第29節
リバプール vs チェルシー
~リバプールのハイプレスとチェルシーのビルドアップ~
今回は、先日に行われたプレミアリーグ第29節のリバプールvsチェルシーにて、リバプールのプレッシングとチェルシーのビルドアップの攻防が非常に面白かったので分析していきます。
そして最後には、チェルシーに見られたポジショナルプレーと、リバプールに見られたプレッシングトラップについて考察します。
スタメン(home : リバプール)
(away : チェルシー)
結果 : リバプール 0 - 1 チェルシー
( 前半 0 - 1、後半 0 - 0 )
リバプールの守備
(プレッシング)
① ハイプレス時の陣形
リバプールは敵陣でのハイプレス時、下図ような陣形となることが多かった。
具体的には、相手の2枚のボランチに対してCFのフィルミーノと左インサイドMFのカーティス・ジョーンズがマークし、DFライン前方のスペースをアンカーのワイナルドゥムとインサイドMFのチアゴ・アルカンタラがカバーしていた。
② スイッチ
プレッシングのスイッチは、主にウイングのマネ(左)あるいはサラー(右)で、下図のように相手CB(または相手ハーフDF※3バックの外側の選手)に対して外切りで寄せていた。その後、このスイッチを起点に、相手のショートパスに対して全体で連続的にプレッシャーをかけていく。
③ 追い込み方
この試合で見られたプレッシングによる追い込みを2つ紹介する。
1つ目のシーンは、左ウイングのマネが相手CBに対して外切りでアプローチし、これをスイッチにプレッシングが開始されたシーンである。ここでもCFのフィルミーノと左インサイドMFのカーティス・ジョーンズが相手ボランチをマークしている。その後、下図(2枚目)のように相手CBはボールを前方へ運ぼうとするが、相手ボランチをマークしていたCFのフィルミーノがマーカーへのパスコースを消しながら相手CBへ寄せた。このとき、SBのアーノルド(右)、ロバートソン(左)は相手WBへ即座にアプローチできる位置に立つ。これによりボールホルダーである相手CBは2人の相手に挟まれ、かつ前方へのパスコースを失った状態となってしまう。そして、下図3枚目のように相手CBはなんとか体の向きを変え、後方のハーフDF→GKへボール下げるが、このバックパスに対してもリバプールは全体を押し上げながら連続的にプレッシャーをかけていった。
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2つ目のシーンは、先ほどと同様に左ウイングのマネが相手CBに対して外切りでアプローチし、これをスイッチにプレッシングが開始されたシーンである。その後、下図(2枚目)のように、相手CB→ボランチ→外側のハーフDFへのパスを繋がれてしまうが、相手ボランチをマークしていたインサイドMFのカーティス・ジョーンズが連続的に相手ハーフDFまでアプローチを行い、その後もボールサイドのエリアでSBのロバートソン、CBのオザン・カバクが連続的にプレッシャーをかけた(下図3枚目)。
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チェルシーの攻撃
(ビルドアップ)
① 陣形
チェルシーは自陣からのビルドアップ時、主に下図ような配置となっていた。数字で表すならば「3-4-3」または「3-4-2-1」となる。
② プレー展開
プレー展開としては、後方からショートパスを繋いで組み立てる「ポゼッションによるビルドアップ」を主に行っていた。
③ プレス回避
上記のメカニズムにより、この試合で見られたプレス回避のシーンを2つ紹介する。
1つ目のシーンは、CBのクリステンセンがボールホルダーとなっており、相手ウイングが外切りでアプローチしてきたシーンである。その後、この外切りでアプローチしてきた相手ウイングに対してボランチのカンテを経由して外側に立つハーフDFのアスピリクエタへボールを繋いだ。このとき、下図(2枚目)のようにボールサイドではハーフDFのアスピリクエタを中心にWBのリース・ジェイムズ、ボランチのカンテ、WGのツィエクの4枚でダイヤモンドの位置関係となっている。この位置関係により、アスピリクエタ→リース・ジェイムズ→カンテ→前線のツィエクへとテンポよくパスを繋ぐことでプレス回避に成功した。
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2つ目のシーンは、CBのクリステンセンがボールホルダーとなっており、ボランチのジョルジーニョをマークしていた相手CFがクリステンセンに対して寄せに来たシーンである。ここで、下図(2枚目)のようにCBのクリステンセン→ボランチのカンテ→ボランチのジョルジーニョへとパスを繋ぐことで効果的に相手の第1プレッシャーラインを越えた。その後、下図(3枚目)のようにジョルジーニョからハーフスペースの入口に立つウイングのマウントへボールを送り、この有効なスペースでマウントが前を向きボールを前進させることに成功した。
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・考察
チェルシーのビルドアップから考察する。まず、ポジショナルプレーの基本となる原則は、「隣り合うレーンに位置する選手は常に斜めの位置関係をとる、つまり、前方へのパスコースが常に斜めとなる位置関係をとる」ことと、「トライアングル(三角形)とロンボ(ひし形)の位置関係により常に3つ以上のパスコースが見えている状況を作る」ことである。
ここで、下図のようにチェルシーの配置において各選手を線で結ぶと上記のポジショナルプレーの原則を満たした配置となっていることが分かる。
つまり、今回紹介したチェルシーの配置のように「3-4-2-1」という陣形はポジショナルプレーの考え方に基づいた配置となっていると言える。
次に、リバプールのプレッシングについては、上記でも紹介したように、CFのフィルミーノが相手ボランチをマークするという配置により相手CBはフリーになることが分かる。おそらく、この相手CBのクリステンセンをあえてフリーにし、ウイングのマネあるいはサラーが外切りで寄せることで、これがプレッシングトラップとなっていたのではないかと思う。ここにCFのフィルミーノが相手ボランチへのパスコースを消しながら寄せることで、クリステンセンを2方向から圧迫するというシーンが何度か見られた。リバプールはこのプレッシングトラップにより、容易にプレスを逃れるボールを出されてしまうのを阻止することを意図していたと思う。
あらゆるプレッシングの目的は相手のボールロストを引き起こすことであり、リバプールのようにプレッシングトラップを設けることは非常に効果的だと感じた。