ちょっとずつ何かを変えたいあなたへ
「ピシッ……何かが壊れる音がした。」
身体は、比較的丈夫な方であったが、このときばかりは違っていたらしい。
「立つ」、「歩く」といった普段の何気ない行為ですらままならない状態だった。
同僚の肩を借りて近くの病院に案内してもらう。
「いや〜これは、ヘルニアですね。最低でも2〜3日は安静に。」
お医者さんがあっけらかんと言うのである。
レントゲンをみて「やっぱりな……」という表情を浮かべていた。
あまりにも配慮のない言葉の選び方であったのが印象的だ。
ふてくされながら「今の仕事は続けられるのでしょうか。」と尋ねた。
「部署を変更してもらうか。もしくは転職するとかね。」
痛みを我慢しながらお医者さんの言葉を聞いたとき、とてもじゃないが配慮が足りないと感じたのである。
歯車をつくる製造メーカーに入社して半年のことだった。やっとの思いで無職から会社員になった自分は、上司に怒られながらも生産管理の仕事を少しでも早く覚えて、戦力になれるように必死の思いで仕事に取り組んでいた。
これといってスキルを持っていなかった自分は、0からのスタートであった。27歳といえば会社ではそれなりのポジションであるが、何もなかったのだ。
生産管理の仕事といえば品物を滞りなく現場に回してお客様の指定した納期に完成した歯車を届けるのがミッションである。
しかし、それだけではない。
協力企業から運ばれてくる歯車の材料。フォークリフトでも運べない。自分の腕っぷしだけで運ばなければならないものもあった。
「運べないほどでもない。大丈夫だろう」そんな過信があった。
自分の身体のことを考えずに材料を運んでしまったのだ。結果、ヘルニアになった。
「このままどうすればいいのか……」
その前の会社も診断書を提出した際、退職というカタチになったため、会社に診断書を提出する行為がどうしても億劫になる。腰を痛めると気持ちが後ろ向きになり、何もできない自分を責めたくなった。
「また、会社を辞めることになるのか……」
スキルも何もない自分が半年で怪我をして、雇ってもらえるような会社は存在しているのか。そんなことばかり考えていた。
そんなときであった。
ふとTwitterを眺めていると、キャッチーなタイトルの本が流れてきた。
『「自分」を仕事にする生き方……』
ブロガー・作家はあちゅうさんの自己啓発本である。
「ネット時代の新たな作家」をスローガンにネットと紙を媒体にして発信を続けている人であり、つぶやいている内容も響いて刺さるようなものがたくさんあった。
真っ赤な装本で印象がとても強く、まるで今の自分のことを言っているような本であった。
ボロボロな精神状態の自分は藁にでもすがりつきたい気持ちであったため、すぐに購入して読んでみた。
「強く願えば夢は叶う!」そんなタイプの自己啓発本ではなく現実的で等身大の今の自分でも自信を持つことができるものであった。ひとつひとつの何気ない作者からの問いかけを自分なりの言葉にして書いてみる。何もないと思っていた自分のやりたいことやヒントに気づかせてくれる。
それだけではない。
今、働いている会社での仕事に関しての心構えもアップデートしてくれた。
「この作業の先にどんな目的があるのか」
日々、仕事をこなしていると気づくことのない。その先にあるお客さんの声やどんな用途で製造した歯車が社会を支えているのか。想像力を働かせ、目の前の作業に熱意を持って、ひとつずつやっていくことの大切さをこの本から教わったのである。ヘルニアになったからこそ、今の自分でもできることを考えたのであった。
単純作業であるが、正確性や速さも求められる。そんなときに相手の要望よりも早く応えることで小さな「信頼」が積み重なっていくことにより自分の仕事に「価値」を見出すことができるようになったのだ。
「人は本能的に誰かの役に立ちたいという気持ち」
会社員、フリーランス、自分が想像できないようなお仕事をされている人もたくさんいる。どんな仕事もたくさんの人と人とのつながりがあるからこそ、成り立っている。
そのときに思うことは自分の「居場所」をしっかりと持ち、お互いがお互いを助け合える関係性を継続していけるようにつくっていくことが仕事の本質であると感じた。
この本は、どれだけ自分に向き合い、自分を取材し続けることではじめて効果が発揮するものだ。
日々の自分の行動や得意なことを分析して、強みを引き出すことができればとても心強い一冊になるだろう。
そして、気づいたときには、もう一回りした自分に出会える。そんな希望を携えた本だ。
ぜひ、手にとってみて欲しい。