戯曲『珈琲にシラップ、時を選ばない無常と風』冒頭版
《登場するキャラクター》
肉体が出てくる人
・服部 和佳菜
・浦 祐理
・高本 有希
・櫻井 陽翔
・有賀 正司
音声が出てくる人
・高本 稀乃
・高本 光
・高本 真希
・森 明義
音声も肉体も出てこない人
・海老原 あお
・高本 玲於奈
《記号説明》
☆・・・同時に発語しても良い
/・・・話しかける対象を切り替える
《本編》
開演
有賀? では、始めますね。
有賀?、退場
和佳菜、登場している
和佳菜 (グラスに入ったアイスコーヒーを飲みながら)マジでさ、その日は全員ぶっ倒すつもりだったんだよ。私、殺気立っててね。怖かったと思うよ。だから、つまり、血で血をゴシゴシ洗う争いだったわけよ。殺るか殺られるか感がすごくて、すごくヒリヒリヒリヒリしたよね。で、最後まで残ったんだけどね〜、最終的に死角からズドンだったね〜。あれ苦手だわ〜。でもその試合ってか久しぶりにやったからさ昨日はさ、マジで手に汗握ったよね〜。にぎにぎ。マジで手に汗握りすぎてコントローラーびしょびしょ。コントローラー、「にぎびしょ」すぎて壊れるかと思った。でもさ、にぎびしょになるとさ、「お〜私、代謝良いな〜」みたいな感じもするよね。だから、にぎびしょ!は、うえいだよね。にぎびしょ! うえいうえい。にぎびしょ! うえいうえい! うえいうえいうえい!
浦、奥から登場
浦 すみません、
和佳菜 あ、あ、はい。
浦 搬入するものとしては、こちらで最後になりますので、
和佳菜 あ、ありがとうございます。
浦 はい。それでは、納棺の方に移らせていただいても、よろしいでしょうか。
和佳菜 あ、はい。
浦 あのちなみに喪主さんって、
和佳菜 あ、有希さんは妹夫婦を迎えに行くって言ってたような気がします。
浦 あ、そうですか。では納棺師さんには、準備だけで、少し、お待ちいただいてもらいますね。
和佳菜 そうですよね。お待たせしてすみません。お願いします。
浦 いえ全然大丈夫ですので、もし何かございましたら、櫻井と納棺師の海老原さんと奥におりますので。
和佳菜 ありがとうございます。
浦 お願いします。
浦、奥へ退場
和佳菜 やばいやばいやばい。めっちゃやばいタイミングだった。恥ずい恥ずい恥ずいわ。いや〜〜。え〜てか、おかあさん〜〜。も〜。ちょっとどこまで行ったんだろうね。ごめん、一回切るね。(電話を切る)(電話をかける)・・・・。あれ、話してるわ。(電話を切る)(電話をかける)・・。稀乃〜、通じなかった〜。
稀乃との通話は、服部和佳菜の所持する端末(デバイス)を介して行なっており、稀乃の声はそのデバイスのスピーカーから空間へ広がっている
稀乃 え、なになに、
和佳菜 え、お母さんさ、
稀乃 え、え、
和佳菜 え、てか、通じてなかった? 電話。ずっと。
稀乃 今?
和佳菜 うん。
稀乃 うん。え、なんか話してた?
和佳菜 話してたよ〜〜。も〜。
稀乃 え、ごめん〜。こっち電波終わっててさ、
和佳菜 いや、しょうがないけどさ〜、
稀乃 ごめんね〜。
和佳菜 いや、いいって〜。
稀乃 これだと、このあと始まったらビデオ繋ごうと思ってたけど、厳しそうだね。
和佳菜 ま〜、始まる時にとりあえずつけてみよっか。
稀乃 うん。そだね〜。ありがとう。ほんとに。
和佳菜 いいよ〜。え、待って。うわ。「にぎびしょ! うえい。」とか言ってたのも独り言だったってこと? 恥っず。恥ずすぎ。
稀乃 え、なにそれ。恥ず。
電話がかかってくる
和佳菜 は〜い。
和佳菜、固定電話の受話器に話しかける
和佳菜 もしもし。カフェ「ヒモスガラ」です。
(光 ・・。)
和佳菜 もしもし。
(光 ・・・・。)
和佳菜 もしも〜し。あの、切りますね〜。
(光 ・・・・・・もしもし。)
和佳菜 あ、もしもし?
(光 ・・・・。)
和佳菜 あ、ちょっと、聞こえにくいかもです。すみません。
(光 ・・すみません。)
和佳菜 あ、ときどき聞こえますね。ちょっとこっちの設定かもなんで、ちょっと待ってください。大きくするやつは、と。
和佳菜、固定電話の設定をハンズフリーにする
和佳菜 もしもし、聞こえますか?
光 あ、もしもし。
和佳菜 あ、よかった。
光 ヒモスガラですか?
和佳菜 はい。ヒモスガラです。
光 すみません、どなたですか?
和佳菜 あ、ヒモスガラスタッフの服部です。
有希、外から登場
有希 ☆わか、わか、わか、和佳菜ちゃ〜ん。
和佳菜 (指でシーってする)
有希 あ、ごめん。
光 ☆服部さん。
和佳菜 はい。
光 あ、他の人もいますか?
和佳菜 ええ。オーナーもいますよ。変わりますか? てか、どなたですか。
光 あ、それはちょっと言えなくて。
和佳菜 はぁ。・・えっと、切りますね。
光 え、いや、ちょっと(伝えたいみたいな)、
和佳菜 あの、ご用件ないんだったら、切りますよ。
光 ・・。
和佳菜 あ、切りますよ〜。大丈夫ですか。
光 ・・・・ごめんなさい掛け直します。
和佳菜 はい。ちなみに今日は営業してませんので、もしご来店されるのであれば、明日以降お越しくださいね。では失礼しま〜す。
固定電話を切る
和佳菜 荒らしだわ。
有希 荒らし?
和佳菜 確定です。
稀乃 ちょっと判断早いって。お客さんかもでしょ。
和佳菜 い〜や。私のリテラシーレーダーが、これはダメで〜すと言っています。
稀乃 なにそれ〜。信じられない〜。
和佳菜 あ、そうだ有希さん。搬入はもう終わって、奥で納棺師さんと準備だけして待ってるって言ってました。セレモニーさんが。
有希 あ、ほんと。ありがとう。
和佳菜 はい。
有希 や、そうそう。私もさ、相談したいなって思って。
和佳菜 え、はい。
有希 いやさ、来れないかもだって。
和佳菜 え?
有希 真希たち。
和佳菜 え、待って待って。いいんですかそれ。
有希 いや、ダメだね。
稀乃 え、真希さんと明義さん、どうしたの。なんかあった?
有希 いや〜、めっちゃ渋滞にハマってるっぽくて。
和佳菜 あー。
有希 ほら考えたらさ、この時期一番混むじゃん。ラッシュだよね。電話でさっき聞いたんだけど。
和佳菜 あーあー。
有希 だからさ、どうしようかなって。だってもういらっしゃってるんでしょ。セレモニーの人も納棺師さんも。
和佳菜 そうですよ〜。
有希 真希たちを本当のギリギリまで待てたらそれが一番いいんだけどね。
和佳菜 うーん。
有希 え、稀乃は、どう思う。
稀乃 え、でも、だとしたらとりあえず、早いかもだね。セレモニーさんに聞いた方が。始めるギリギリな時間と、遅れてもいいですか〜みたいな。
有希 そうね。一応、夕方前の火葬に間に合えばいいとは思うんだけど、和佳菜 そうですよね。じゃあちょっと、聞いてきますね。
有希 あ、ほんと。ありがとう〜。ごめんね。
和佳菜、奥へ退場
有希 ありがと〜。
有希 ナイスナイス和佳菜ちゃん。
稀乃 え、で結局さ、お母さんさ、どうするのよ。
有希 え、なに、どうするのって。
稀乃 いやだってさ、真希さんたちがガチで間に合わないってなったらさ、つまりだって二人でしょ。
有希 いやまぁ、そうだけどさ、でも、そうするしかないかな〜? 和佳菜ちゃんと二人で、
稀乃 うん。そうだよ、そうするしかないよ。
有希 え、でも、やっぱダメだよ。待ちたいな。できる限りみんなで見送りたい。
稀乃 うん。行けなくてごめんって。
有希 いや、そういう意味じゃないよ。おばあちゃんが寂しいかもなって。
稀乃 はやくみんなに会いたい。
有希 安全になったら帰っておいで。
稀乃 真希さんたちはさ、どこら辺いるの。
有希 あ、そうだ、さっき連絡するって来てたんだ。
稀乃 え、そうなの。じゃあ今聞いた方がいいんじゃないの。
有希 えだって教えてくれるでしょ。そう言ったんだから。
稀乃 でも早めにそっち知れたらセレモニーさんだって嬉しいでしょ。
有希 そうかな。ちょっとかけてみる?
稀乃 うん。それがいいと思うよ。聞きたい。スピーカーにして。
有希、スマホから電話をかける
真希 はい、もしもし。
有希 あ、真希? 有希です〜。
つづく。