絵本に何を描くのか
ぼくの仕事は本当に多岐にわたる。広告のためのカットから、ポスタービジュアルイラスト。裁判所に出向いて新聞掲載の法廷画をえがくこともあれば、書籍の表紙から絵本まで、本当にいろいろだ。
ベースが仙台。
出版社や広告代理店がひしめく東京とは、しごとを受ける過程、勝手がちょっと違ってくる。
表現タッチを問わず、なんでも受けてこなさねば暮らしが成り立たないという、地方独特の隠れ流儀みたいなものがある。
そんな中で何十年イラストや絵を描いてきたわけだけど、実は東京に売り込みを重ねた時期もあった。リーマンショックのあたりだったとおもう。
ぼくのポートフォリオの主力は水彩イラストだ。だけど、他にもデジタルや線画的なものまでラインナップしていた。結果、よく言われた(言外に感じた)のは、「どれがあなたの絵?表現タッチを絞った方がいい」ということだ。
そうだよなあ、出版社や代理店ディレクターからしたら、使いにくいし、印象弱いんだろうなあ。
そんな営業の結果、きた仕事は数えるほどだった。そんな時期を経て、でも、変わらずのスタンスで仙台という地方で描き続けて十数年経った。ふりかえって今、はたしてどちらが正しかったんだろう?。果たして絞るべきだったのか?
表現タッチを絞らなかった自分が正しかったかどうかはいまだにわからない。だけど、確かに言えることは、決して奇をてらったわけではなく、オーダーにベストだと思える表現をとり続けたということだ。
結果、30年という歳月を自分の選んだ方法で綱渡りできた。おっと、過去形ではない。現在進行形だね。
今、手がけている仕事のジャンルの一つに絵本がある。
その絵本で繋がった児童文学作家くすのきしげのり先生が「絵本・応援プロジェクト YELL2021」を立ち上げた。立ち上げにあたって、ありがたいことにぼくがシンボルイラストを描かせて貰った。
そしてこの秋、東京調布の手紙社gallery soelでプロジェクト初の絵本イベントが開催された。
実は、ぼくが絵本の仕事を初めてしたのは50代になってから。絵本業界では超スロースターターだ。そんなぼくがくすのきしげのり先生と対談することになった。
話した内容は、いろいろだったけど、つまるところ「絵本の絵を描く時に何を考えているか?」に、終始したように思う。
「ぼくが考えていること」だって、正しいことなのかどうか、わからない。
でも、少なくとも話したことにウソは無い。描く時にきちんと考えることは、エンピツドローイングの微妙な強弱にさえ必ず出ると信じている。
いろんな仕事絵を描いてきた20代、30代、40代、そして50代前半があって、ようやくオリジナルの「考える」力をもらえたように思うのだ。
絵本という仕事に描き込めたのは、良くも悪くも恥ずかしくも、絞らずにやってきた経験がくれたものだ。
そんなことを思ったら、過ぎ去った年月と描いてきた仕事たちが、とても愛おしくなりました。
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