親権制度・協議離婚について思うこと
近年、共同親権について耳にする機会が増えております。他国では~の論調だけを見ると、まるで悪しき単独親権制度を見直しましょうというムーブにも感じがちですが、果たして実際のところはどうなんでしょうか。私見とデータを交えて考えを書いていこうと思います。 (6000字あります。逃げ帰るなら今のうちです)
まず親権とは何ぞや
そもそも親権とは以下の権利義務のことを指します。
・一緒に住み養育し教育を受けさせる権利と義務
・住む場所を指定する権利
・子どもの監護や教育に必要な限り懲戒する権利
・子どもが働くことを許可する権利
・子ども名義の財産を管理したり、その他の法律行為を代理したり同意する権利
これが単独親権となると、親権を得られなかった側は主に
・一緒に住むことができない
・必要な教育やしつけをすることができない
・子どもの財産を管理できない
となります。
この時点であなたは単独親権のデメリットをどうお感じになりますか?
親権の単独取得自体には大きな問題は無いように感じませんか?
では、なぜ単独親権制度に問題があるとされているのでしょうか。
我が子に会えない
たまに耳にする離婚トラブル案件などでも「我が子に会いたいが会えない」を主訴とするケースが多いと感じます。実際にこれが単独親権制度のデメリットとしても注目されがちです。
しかし上記のように、単独親権制度そのものは我が子に会えないというデメリットをそもそも有していません。
ここが勘違いされがちなポイントのひとつで、子どもに会うことが出来るのは親権者の権利ではないということ。つまり、子どもの希望があるならば親権者でなくとも会うことは可能だということ。
逆に言うと仮に親権者であっても、子どもが拒否した場合など会うことが出来ないケースもあるということ。
つまり会える・会えないは単独であれ共同であれ、親権者が持つ権利ではなく子どもの持つ権利であるということ。
とはいえ親権者(養育者)から断られ会うことが出来ないケースも実際に多くあります。
男女別の離婚理由
令和元年度の司法統計によりますと、調停離婚における男女別の申立人の離婚事由は以下の様なランキングになっています。(複数回答形式)(その他・不詳は除く)
(参考:令和元年度 婚姻関係事件数《渉外》 申立ての動機別申立人別 全家庭裁判所)
女性(妻)側の離婚事由
1位 性格の不一致(42%) 2位 暴力をふるう(27%) 3位 生活費を渡さない(25%) 4位 精神的に虐待する(23%) 5位 異性関係(16%)
男性(夫)側の離婚事由
1位 性格の不一致(61%) 2位 精神的に虐待する(13%) 3位 異性関係(13%) 4位 暴力をふるう(12%) 5位 浪費する(11%)
こういった理由を持って離婚をしている以上、ある程度以上離婚後に「また会いたくない」「会わせたくない」と思うのは創造に難くありません。
会わせないというのは養育者側が「子供を会わせるメリット」より「デメリット」が多いと判断していることがベースになっていますが、こちらには養育者側の「元配偶者に会わせるかどうか判断するのは親権者側の権利」という誤解もあるように思います。
前述の通り、親に会うかどうかは子どもの持つ権利であるため、仮に養育費が未納であれ、子さえ望めば会うこと自体は可能となります。しかし以下の様な事象が心配なケースもありますので、全てにそれを当てはめるのは危険も伴います。
・子が十分に判断できる年齢・月齢ではない
・身体的・経済的DVを受けた相手に会いたくない・会わせたくない
・子どもに対し親権者の悪口や嘘を吹聴する可能性がある
・会わせると連れ去られる心配がある
当然、上記の心配事自体が虚偽の可能性も含みます。
面会交流を実施していない理由
2020年9月に参議院常任委員会調査室・特別調査室でまとめられたデータによりますと (参考:離婚後の共同親権について)
母子家庭の場合面会交流を行っている割合は29.8%で、
面会交流を実施していない最も大きな理由は
「相手が面会交流を求めてこない」13.5%
「子どもが会いたがらない」9.8%
「相手が養育費を支払わない」6.1%
父子家庭の面会交流を行っている割合は45.5%で
面会交流を実施していない最も大きな理由は
「子どもが会いたがらない」14.6%
「相手が面会交流を求めてこない」11.3%
「面会交流によって子どもが精神的又は身体的に不安定になる」8.6%
これによると相手が求めてこない場合と子どもが会いたがらない場合が母子家庭・父子家庭いずれの場合もケースとして多い、となっています。
ただし、あくまで養育者側へのアンケートでもありますので、親権を失った側へ回答を求めた場合は違った結果が出ることも予想されます。
しかしながら離婚後に面会が実施されていない多くの場合
「婚姻中の自らの行いによってそうなってしまった」もしくは「離婚後の行い(そもそも会いたがらない、養育費不払い等)によってそうなってしまった」というケースが多いのではないでしょうか。
そもそも「そんなこと何もしていない」ならば離婚まで至るケース自体がそうそう無い、とも言えるでしょう。
勿論、一切の責任無く子どもだけ連れ去られるようなケースも無いことはないと思いますが、全体に占める割合としてはそれなりに低くなっていると思われます。
いずれにせよ、どちらの言い分が実際に真実を捉えているのか
それによって正義は真逆に存在することになりますので、
全てのケースにおいてその判定にはそれなりの時間・人員・予算が必要になるということになります。
また、人と人のことですので当然100対0はなかなかありません。
ここだという線引きも含めて、裁判所などの高等な判断はやはり必要と思われます。
協議離婚が無くなっていくことへの期待
現在、日本では協議離婚が認められている状況です。簡単に言うと離婚届を提出することで離婚が認められます。離婚事案のおよそ9割がこの協議離婚となっています。
これは世界的には珍しい立場で、海外では必ず裁判手続きをしなければ、法的な離婚成立を認めてくれない国の方が圧倒的に多いです。
協議離婚、そして調停(裁判)離婚にはそれぞれメリット・デメリットがあります。
協議離婚のメリット・デメリット
メリット
・柔軟な解決の可能性がある
・スピード解決の可能性
・負担が少ない
デメリット
・相手が応じないと合意できない
・冷静な話し合いが難しい
離婚には大変な苦労が伴います。その決断そのものにも、親兄弟親戚への説明、その後の生活の手配など、何から何まで目が回る状態です。出来るだけ早くその負担から逃れたいという意味で、そのスピードや金銭的負担の少なさは本当に大きなメリットです。
調停離婚の場合は、相手と直接顔を合わせる必要がなく柔軟な解決の可能性もあるものの、時間や金銭的負担、そして相手が応じないと合意できない点でデメリットも有しています。
裁判離婚の場合は、相手が応じなくても決着がつくという最大のメリットを有していますが、時間や金銭的負担はやはり大きく、その線引きの柔軟性はその他の二つに比べて劣っていると言えます。
協議離婚が楽でいいじゃない…が発端に
前述のように、離婚には双方に多大な負担が掛かります。なるべくスパッと次へ切り替えられたら、これ以上ありません。そう考えると最適解は協議離婚一択となるのですが、実際にこれがトラブルの原因にもなっています。
約束は反故される
例えば養育費の取り決め(参考:離婚後の共同親権について)は、母子家庭において取り決めをした割合自体が42.9%です。(父子家庭の場合20.8%)
この割合の低さの背景には「取り決めが出来る環境では無かった」「相手ともう関わりたくない」「最初から諦めている」「その後の話し合い程度で解決できると思っていた」などの理由があります。つまりある意味、安易に協議離婚の形を取ることが出来るからこそ、その後の養育費不払い等の問題に繋がりやすい状態になってしまっていると言えます。
ちなみに上記データ内にもありますが、離婚後に母子家庭のうち養育費を受け取っているのはわずか24.3%です。(父子家庭の場合は3.2%)
子どもの養育にかかる負担
養育費には算定表という指標があります。令和元年に更新され、その時にもあまりに安すぎる等の物議をかもしました。
(参考:養育費・婚姻費用算定表 令和元年版)
上記リンクへ飛んでいただけると分かると思うのですが、子どもの数やその年齢など様々なケースに応じて算定表が存在しています。
また、婚姻費用は法律上婚姻関係にある夫婦で分担する家族の生活費のことをいいます。 ざっくり言うと離婚成立までは家族の扶養義務がありますよ、ということです。そしてそれは別居中であっても変わりません。
安すぎる養育費
ここで子が2人(第1子及び第2子0~14歳)のケースで養育費を考えてみましょう。(参考:養育費・子2人表(第1子及び第2子0~14歳))
仮に父親が30代で年収が500万、妻は婚姻中に扶養内パートで年収100万、子2人とも妻が親権を取得したと仮定します。この場合の養育費は月額10万~12万です。
仮に妻側が仕事をそのまま継続した場合、一家3人で年収244万(約20万/月)の母子家庭が誕生します。婚姻中と比べると純粋に収入面で60%も減額することになります。
フルタイムで働けば収入面は上昇するでしょうが、子2人の年齢によっては実家などのサポートなしで働くのにも限界があるでしょう。
家賃・食費・保育料など教育費・被服及び履物・交通費・保険料・医療費・通信料・etc…子どもが小さいうちは費用より手間が、大きくなると手間より生育に必要な費用がより掛かるように変化する傾向があります。
ちなみに令和2年家計調査報告によると、二人以上の世帯での消費支出は平均で277,926円となります。(参考:令和2年家計調査報告(総務省))
一般的に、子育てにその労を割きキャリアの積立を後回しにせざるを得なかった女性が、時短かつ高収入を得るようなルートへ復帰するにはハードルが高いと言わざるを得ません。
そして、その原資のひとつである養育費を受け取れている世帯が、母子家庭全体の24.3%なのです。それすら受け取れていない世帯が75%を占めるというこの厳しい現実。
共同親権になったら
共同親権を主張するかたに多い論調が、不当な連れ去り防止、海外では~、そして養育費の支払い率も向上する、という類のお話。
いや、そんなこと無いですよ。共同親権下でも連れ去りは起こるし、養育費不払いも起きますよ。子どもに会いたいブルースウィルスが元嫁さんに「養育費すら期限内にまともに納めないくせに!」と嫌味を言われるシーンとか見たことありませんか?
そもそも親権の問題と子に会えない問題は別です。単独親権でも会えている人は会えているし、共同親権でも会えてない人は会えてません。
より、子どもたちのために
4500字を越えてやっと私の主張が飛び出すこのスロースターター振りですが、そもそも親権に関わらず、子の権利として養育費はきちんと支払われるべきであり、そして子の権利として会いたいなら会わせるべきなんです。(特別な配慮すべき事情は除く)
そしてそれを邪魔しているのは親権制度ではなく、協議離婚が認められているがために、その約束に一定以上の強制力すら持たないから反故にされるのです。
当然、協議離婚で上手く行っているケースだってありますよ。その場合は手続きは面倒だしお金もかかりそうだし、悪手でしかないと思います。
でも貧困片親世帯を安易に作り出してしまう現在の制度よりは、ずっとプラスが多いと考えています。つまり、今よりもっと、子どもの権利を守る方向にシフトしましょうよ、というお話です。
ただお金と時間が掛かる
仮に、共同親権導入に伴って協議離婚制度を廃止したとしましょう。するとひとつの離婚事案に対し、調停もしくは裁判がひとつ以上行われることになります。
どちらが主たる養育者となりえるか、単独親権と共同親権のどちらを選び得るか、適切な養育費はいくらか、面会交流はすべきか、またその頻度は、などの取り決めを家裁もしくは裁判所が担うことになります。当然ですがそこには相当数の人員も必要ですし、ある程度以上の判断をするためにも正確な状況を調査する部署も必要になってくるでしょう。
その時間・手間・費用を誰が担うのか、税金が充てられるとするならそれがいくらなのか、国際結婚のケースなども含め、適切な管理ができるのかなど、越えるべきハードルは果てしなく多く、高いです。
これらを何年で整備できるのかと考えると、少々気が遠くなる気がします。
日本にはマイナンバー制度がある
では出来ることは無いのか。そこで考えたのがマイナンバー制度を利用し、まずは正確に養育費を支払う方法です。
まず、婚姻届けの際にマイナンバー登録を義務化します。そして就労と納税もマイナンバーとの紐づけを行います。
離婚の際には収入(納税額)に応じた養育費・支払う期間を算定し、その金額を毎月、国が養育者へ振り込みます。支払う側は、毎月の給与からその費用+手数料(国が取得するマージン)が天引きされ、マイナンバー管理の為、引っ越しや転職をしても天引きは正確に継続されます。
当然、支払が不当と思われる場合は裁判所に訴えることも可能です。その場合の裁判相手は国になります。
転職や健康問題により減収があった場合も申告することで調整は可能ですが、その場合も設定当時の子どもの権利を鑑み、受け取る側の減額はしません。前述及び後述の国が取得するマージンと税金から補填します。
逆に増収があった場合には一定割合で国が手数料としてマージンを取得した上で、月の養育費も上方修正します。
いかがでしょう、総務省のかたがた。もしくは政権浮揚or首相の座を狙う大臣。
何しろ養育費が正確に支払われるだけです。救われる人こそ増えれど、不当に失う人はいません。そもそも子どもの未来のために、ちゃんと支払えよって話ですのでね。
お終いに
本当に長くなりました。ここまで読んだかたはよっぽど我慢強いかたかなと思うので尊敬しています。願わくばこの記事があなたの参考にならないことを祈っております。
長文・乱筆失礼いたしました。 読んでいただきありがとうございました。
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