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大学の食堂に監禁された話

まえがき

突然ですが皆さんは学校の食堂に監禁されたことはありますか? 私はあります

読んで字の如くなのですが、私FullMoonは大学の食堂に監禁されたことがあります。ついこの間です。しかも真冬の夜に。
ギャグみたいな字面の割にはまあまあ壮絶な体験をしたので、今回はその時の話をしていこうかと思います。

話を簡潔にまとめると上記の通りです。監禁されていた時間はだいたい1時間くらいです。


①はじまり

筆者は大学3年生です。
進級が懸かっているレポートの提出が翌日に迫っていたので、この日は大学の図書館に5時間ほど籠って追い込みを掛けていました。課題は計画的にやりましょう。
ちなみにこの時は防災学に関するレポートを書いていました。

図書室が閉まるのは20時半。蛍の光と似たような雰囲気を持つBGMが流れる中閉館アナウンスが流れ、追い出されるように図書室を出ました。

暖房の効いていた場所から5時間ぶりに出ると外はすっかり冷え込んでいて、夜空の星の光がよく目に沁みました。
たぶんこの時の気温は3度もなかったんじゃないでしょうか。下手したら1度くらいかもしれない。
そして私は思いました。

寒い────

寒い。とにかく寒い。手と顎がガチガチに震えて言うことを聞かない。
温まりたい! 一刻も早く家に帰りたい! 思い浮かぶのは温かいおふとん。
しかし大学から家までは1時間半ほどかかります。

その時、私は救世主の存在を思い出しました。

食堂の自販機。

図書室から大学の正門側にちょっとだけ歩くと食堂のある棟があり、その食堂の入口に自販機があります。もう3年間も通っているので、ここで温かい飲み物が売っているということは知っていました。

正門に一番近い棟にも自販機はあるのでいつもはそこで買うのですが、この日は共テの前日だったのでその棟が午後から立ち入り禁止になっていました。翌日の試験会場になるからですね。

よって私はこの日、正門から遠い場所にある棟の自販機を使うことになりました。
正門に一番近い棟を仮にA棟、食堂のある棟をH棟と呼ぶことにしましょう。正門からの遠さが直感的によくわかるので……

H棟の食堂は地下1階にあり、外から階段で直接アクセスできるようになっています。つまり半地下構造というわけです。
私は早足で階段を降り、ガラス製の重い扉をこじ開けて食堂の入口までやってきました。
流石に食堂の内部の方はシャッターが閉められていましたが、入口の自販機は元気に動いていました。もはやその輝きが神々しい。

私は小銭をぶち込み、温かい飲み物を手に取り、味わいながら少しずつ飲みました。体が冷え切っている時に温かいものを飲むと胃の輪郭がはっきり分かりますね。
ちなみにその時に買ったのはクラフトボスのダブルカフェラテです。おいしいんですよこれが。

なんだかんだその空間に5分くらい滞在していたような気がします。
カフェラテを飲み終えて体がほっと温まったところで気力が湧き、家に帰ろうとした時でした。


②地獄開始

扉が開かない。
さっき自分の手で開けたはずの扉が全く動かない。
PUSHとPULLを間違えていないか確かめるも、そんなこともない。

風が強すぎるのか?

この扉は結構重いので、風が強いとなかなか開かないことがあります。でも自分がさっき外に出ていた時は全然そんな感じでもなかったような……
ここで最悪な結論が頭をよぎりました。

カフェラテ飲んでる間に施錠された?

そんなまさか。
食堂内部へのシャッターは閉まっているとはいえ、入口の明かりはまだついている。
全身の力で扉を開けようと試みました。

だめでした。

監禁された────

己の敗北を認めた瞬間でした。
……であれば、鍵を開けてもらうしか脱出方法はありません。
私が半地下空間に入ってからまだ5分。施錠されたのは本当についさっきのはず。警備員はまだ近くにいるはずだ!

「すみませ~ん」

扉を叩きながら警備員を呼んでみました。

「すみませ~ん!!!」

近所迷惑になると分かっていながらも、大きめの声を出しながら扉を強めに叩いてみました。
しかしこれを3分ほど繰り返しても人がやってくる気配はありませんでした。そんなことある?

これはまずいことになった。

この時点で20時45分頃。私は事の重大さを自覚し始めました。

いや、待てよ?

普通ならまだ7限の授業が行われている時間でした。
大学に電話を掛ければワンチャン出てくれるんじゃないか?
私はそう思い、一縷の望みを懸けて電話番号を打ち込みました。

対応時間外────

そりゃそうだ。
そもそも対応時間は平日の9時から17時まででした。
ここから、きっと生涯忘れないであろう長い長い夜が始まりました。


③届かぬ声

扉を叩いても大声を出しても人が来る気配が全くなかったので、ここまで来ると一周回って冷静になりました。非常時にパニックになるのが一番良くないということを私はよく知っています。

自分のDiscordサーバーに状況を書き込む図

「食堂監禁マン」こそが私です。恐怖が全くないと言えば100%嘘になりますが、この状況を若干面白く思っていたのでDiscordで実況することにしました。そうでもしないとやっていられない。

ここで私は一つの仮説に辿り着きました。
冒頭にも書いた通り、自分の大学のA棟(正門に一番近い棟)は翌日の共通テストの会場になるため午後から立ち入り禁止になっていました。

この大学の警備員がみんなしてA棟の警備に行ってしまったのではないか?

A棟からH棟(閉じ込められている棟)までは徒歩2分くらいの距離があるため、どれだけ声を出しても人が来るはずがありません。
さらに運が悪いことに自分がいる場所は半地下空間のため、仮に人が近くにいたとしてもなかなか気付いてもらえないわけです。

結論:詰み

いくら状況が詰んでいるとはいえ、自分の存在を外に知らせないと助けてもらえません。諦めずに扉をドコドコドコドコ叩き、「すみませ~ん!!!!!」と声を出し続けました。
この際近所迷惑でも何でもいい。緊急事態なんだから。

そんなことをしているうちに、監禁されてから20分くらい経ちました。
人が来ない! マジで誰も来ない!
この頃になると扉を叩きすぎて両手が痛み出し、ずっと声を出していたせいか喉も枯れてきてしまったので、私は懐からあるものを取り出しました。

防災用ホイッスル。

※画像はイメージです

私は防災士なのでこいつを常備していました。防災士として所属している組織のロゴがガッツリ入っているため写真は載せられませんが、実物はミニ懐中電灯と方位磁針がセットになっています。

「災害時に閉じ込められたら笛で助けを呼ぶ」
「大声を出すと体力を消耗してしまう」

それはもはや常識として染み付いていました。
ではなぜ最初から笛を繰り出さなかったのか?

大袈裟かなと思ったので……

私はなりふり構わず笛を力いっぱい鳴らしました。
流石に誰か来るでしょう。

……

…………

………………

5分間笛を吹き続けました。
びっくりするくらい誰も来ない。


④極限

この時点で21時10分。監禁されてから30分くらい経っていました。
半地下空間に暖房は付いておらず、ガラス製の扉からキンキンに冷えた外気の温度がダイレクトに伝わってきます。普通に寒いです。
こんなことになるなら自販機なんか寄らずにまっすぐ駅に向かってまっすぐ帰ればよかった。後悔したところでもう遅かったんですけども。

この頃になると空腹と寒さと疲労感で、妙な考えばかり浮かぶようになりました。

今日はこのままここで夜を明かしてしまおう。
明日の朝受験生に発見されて共通テストの怪異になってしまおう。
暖房はないが自販機はある。
温かい飲み物を買えば凍え死ぬことはない。

そんなことを割と本気で考えていました。今思えば極限状態です。恐ろしいものですね。
30分間助けを呼び続けても全く誰も来ないので、私は脱出することを諦めかけていました。

DiscordとTwitterを反復横跳びして安心感を得ようとしたり、ガラス製の扉の反射を鏡代わりにしてサンバのリズムでパーパーティンコを繰り出したりと、私は完全に奇行に走っていました。前者はともかく後者は捕まる。

奇行をしているとふと我に返りました。
こんな夜に何をしているんだろうと。

急にすべてが虚しくなってきて、閉まったシャッターに向かって直立不動の姿勢を取りました。
シャッターのすぐ横には食堂のメニュー表があります。写真付きのやつです。
唐揚げ定食。トンカツ定食。生姜焼き定食。ラーメン。野菜炒め。
そんな感じの並びだったような気がします。
それを見ながら私は、家で食べるはずだった夕飯に思いを馳せました。

目を閉じると食卓の幻覚が見えました。
温かいものがテーブルいっぱいに並ぶ幻覚です。
しかし目を開けるとそこは半地下空間。
マッチ売りの少女の気持ちが分かったような気がしました。

気付くと足と手がすっかり冷え切ってしまい、震え始めていました。
温かい飲み物をもう1本買って耐えよう。
次はキャラメルラテにでもしよう。
そう思って自販機に小銭を入れようとすると、手が悴んでうまく動かず、10円玉を落としてしまいました。

拾い上げようとしたその時でした。

何かが聞こえました。

紛れもなく、人の足音。

これを逃したら本当にこの場所で1泊することになる!
私はその足音の主に気付いてもらうため、鼓膜が壊れるくらいに笛を力いっぱい鳴らしながら、扉を全力で叩き続けました。
どれくらい必死に叩いたかというとそれはもうガラテアの螺旋のラス殺し(※)くらいには。

Q. 何?

A. 

冗談はともかく本当にこれくらいの勢いで扉を叩き続けました。
すると誰かが階段の上からこちらをのぞき込んで降りてきてくれました。

待ちに待った警備員でした。

施錠されていた扉を開けてもらい、私はようやく半地下空間から脱出することができました。たまたま通りがかってくれた警備員さんには感謝しかありません。
時計を見ると21時半過ぎ。監禁されてから1時間経っていました。
このタイミングを逃したら本当に1泊することになっていたかもしれません。

私は助けてくれた警備員さんに何度もお礼を言って、大学の敷地を出て駅の方まで小走りで向かいました。
きっと生涯忘れないであろう、長い長い夜でした。


あとがき

私は間違いなく外から足音が聞こえたはずなんですが、よく考えたら聞こえるはずがないんですよ。
扉が厚い上に、自分がいた場所は半地下空間ですから。
何かしらの感覚が働いたのか、それとも極限状態の末に舞い降りた幻聴なのか、もはや知る術はありません。いずれにせよこのタイミングを逃していたら間違いなく危なかったでしょう。

今回は笛が救世主になったと思っています。
私は防災士なので、出先でそういう事態に巻き込まれた時のために常に防災用ホイッスルを持ち歩いていました。
大した値段じゃないのでこの記事を読んだ人は全員買ってください。お願いします。命を救われる日が来るかもしれません。

閉じ込められるという経験をしておくのは良い勉強になったと思いますが、もう二度とこんな目には遭いたくありません。
日没後の食堂には近付かないようにしようと思います。

長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
この記事が何かの役に立てたならそれ以上嬉しいことはありません。

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