目が覚めてよかったね
今すぐ起き上がって10分で家を出たら間に合うのに。
ちょっと寝坊しただけで、学校に行けなかった。
小学生の頃から大嫌いだった学校。
もう自分の意思だけで休める年齢になってしまってから、随分と休んでしまっている。
言っていることに納得できなくて大嫌いな講師の授業。
今日こそはグループディスカッションだから出なくてはと思っていたのに。
もう私このままダメ人間になっていくのかな、本当にがんばれないのかな。
8歳の頃から親に言われ続けた、お前は人生の落伍者になるつもりかと。
本当にそうなってしまうのかもしれない。
唐突に不安になる。
いつだって完璧にハッピーな女の子でいなければと。
そう思うのに。
いつだって完璧にハッピーでなんていられない。
それでも、弱い私なんて周りに見せたくない。
いつだって飄々と笑って全て乗り越えられる自分でいたい。
いたいのにな。
昨日は学部生時代から4年もいたお店を唐突に辞めてしまった。
4年前からずっと、おれは○○ちゃんの父親みたいな存在なんだよねって笑っていたスタッフも、随分と呆気なくそれを受け入れたようだった。
最近はなにもかもが、唐突に全部嫌になってしまって。
なにもかもを辞めたくなってしまう。
なにもかも嫌で。
もう消えてなくなりたい、ここから居なくなってしまいたいと心に重く暗く渦巻いている。
鉛でできたまあるい重りが、心の奥底にあって。
私が歩を進める度に、ゴロンゴロンと転がり続ける。
転がる度に大きくなるそれは、嫌な臭気を発して。
体の内側から私を腐らせていく。
どうせもう2限も間に合わないから、このまま寝よう。
そう思って目を閉じて、体感数分後。
私はどこかよく分からない田園の広がる路面電車のホームで途方に暮れていた。
対面にいるもう一方の電車か、こちらか。
一体どちらに乗れば家に帰れるのか分からず、乗り換えアプリを起動するも電波の関係か繋がらず。
みるみるうちに辺りは暗くなって、たちまち対面にいる電車が行ってしまった。
走り去る電車の中から、新宿行き最終電車です〜という車掌さんの声が聞こえた。
そんなのどこにも書いていなかったのに、と。
軽く絶望を覚えながらぼんやりしていると、周りにいた大学生グループがドヤドヤと移動していくようだった。彼らも電車を逃したのだろう。
とにかく暗くて怖かったから、その子たちについてホームを出てしまった。
タクシー乗り場なんてない真っ暗な田園の中、私の背よりも高い稲穂がゆれていた。
この辺に誰か住んでたっけ、そう思いながら携帯を弄り回して。
1人に電話をかける。
出てくれるかな…暗闇で心細く待っていると、耳に飛び込んできたのはもしもし?という懐かしい声だった。
もう2年も3年も連絡をとっていないのに、ありがたいな。
声を出そうとした私の横を中学生、高校生?さっきの大学生グループよりも若いグループが走り抜ける。
いつの間にか高架下のガードレールのそばに私は立っていて、チカチカと眩しい蛍光灯がついた短いトンネルの中を中学生が走り抜けていく。
何かを叫んでいた。
どうやら有名人で、その顔は私もよく知っていた。
あ!YouTubeの子だ!
そのあとなぜか私は海洋生物の名を模した男の子と併走して走っていて。
私の携帯からはずっと友人の今どこにいるの?という声が聞こえていた。
目が覚めて、何やら鮮明に覚えているのがなおさらいやだった。
電車を逃すのも、どう考えてもタクシーで2万円以上かかりそうな場所にいたのも。
暗い場所に一人でいたのも。
ぜんぶいやなゆめ。
目が覚めてよかったね。