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ファンタジーでもいいじゃない【#映画感想文】
翌日は休みだという晩、なんだか急に夜更かししたくなった。
いつもだったら、本を読む。
だけどその夜は、映画を見たくなった。
疲れた身体で、ぬくぬくの寝床にもぐり込む。
こんな日に、大好きなアクション映画なんて合わない。
なんかもっと、のんびりとした…。
ちょっと考えて、『かもめ食堂』を見ることにした。
ずいぶん前に、「面白いよ!」と勧められていたけれど、手をつけていなかった作品だ。
最近、飯島奈美さんの『ご飯の島の美味しい話』を読んだことが大きい。
飯島さんのその後の仕事人生に大きく影響を与えたという作品を見てみたくなった。
これまで見そこねていたのは、
北欧を舞台に、美味しいごはん
という、ていねいな暮らしを描いている雰囲気の映画に、私は馴染めないような、むず痒い作品のようにも思えたからだ。
だが、小林聡美、片桐はいり、もたいまさこ
このお3方が出演していて、面白くないはずがない。
わかっちゃいるのに、見られなかった作品だ。
白夜のあるフィンランドを舞台に進む物語。
静かで、淡々と、夜見るのにぴったりの作品だった。
さりげなくおしゃれなインテリアや食器、思わずお腹がすいてくる料理の数々。
劇中で、お客様が入店するキッカケとなる、熱々のシナモンロールの美味しそうだったこと!
(本に書いてあったけど、あのシナモンロールが、撮影当日にはじめて上手に作れただなんて)
異国の地で、けして若くはない日本の女たちが出会って、食堂を運営していく。
これはファンタジーだ、と思う。
特に、コロナ禍の今は海外に渡航するのは困難だ。
『日本人の女が、なんの縁もゆかりもない海外で突然商売するなんて、リアリティーがない』なんて感想も読んだ。
でも、ファンタジーだっていいじゃない。
髪の毛振り乱し、売上とか人間関係にギスギスした作品を見たいわけじゃないのだ。
はじめは遠巻きに見られて、「こども食堂」なんて揶揄されていた主人公サチエ(小林聡美)が、ミドリ(片桐はいり)と出会って、さらにマサコ(もたいまさこ)が登場して、伴走する仲間ができた。
3人が妙に馴れ馴れしい関係にならないのもいい。
お互い尊重しあっていて、大人だ、と思う。
背筋がしゃんとしたような、でもどこかふわふわとした、なんとも言えない女たちの生活を映画で楽しみながら、それを糧に生きていくのだ。
映画では、主人公サチエの心のうちは全然描いていない。
何を考えているのか、よくわからない。
「ガッチャマンの歌を完璧に覚えてる人に、悪い人はいませんからね。」
なんて、どこまで本気なんだろう。
劇的なことは何も起こらない。それがいい。
時折ふふっと笑えて、気持ちが軽くなる。
想像と違わない上品さ、でもあたたかいユーモアに包まれている。
なんて居心地のいい映画なんだろう。
お気に入りの毛布にくるまれている安心感。
「ずっと同じではいられないものですよね。人はみな変わっていくものですから。」
それでいて、生きていく上で大切な言葉を、そっと与えてくれる。
今出会うべき映画に会えたなという気がした。