あぁ、カンチガイ【#わたしの本棚】
「なんかスゴイ本を持っているそうね」
職場の先輩に、そう声をかけられたのは、ずいぶん昔の話である。
当時、後輩にあたる女子に、
「なにか本、貸して下さーい」
とおねだりされた私は、ある本を渡していた。
後輩ちゃんは、これまであまり読書をしてこなかったとかで、
「読みやすい作品がいいですぅ~」
とリクエストしてきた。
そんな彼女に選んだのは、当時文庫になったばかりだった、恩田陸・著『夜のピクニック』。
主人公は女子高生の貴子。
彼女が通学する高校では、3年生になると"鍛練歩行祭"という80キロをひたすら歩き続けるという謎の校内行事がある。
歩くことを通して複雑な感情が交錯し、友情あり、謎解きあり、まさにアオハルってカンジで、とにかく最後まで読むとスッキリと爽やかな読後感を味わえる名著なのだ。
後輩ちゃんも気に入ってくれたらしく、「面白い本を借りましたぁ~」と周囲に言いふらしてくれたもよう。
嬉しくなった私は、先輩に向かって本のタイトルを口にしようとした。
彼女は周囲に人がいないことを確認してから、ちょっと声を潜めてささやいた。
「…『夜のテクニック』って、本なんでしょ?」
夜の?
テクニック?
なんじゃそりゃぁ!
どうやら聞き違えた誰かのせいで、タイトルが誤って広まったらしい。
一文字違いで大違いである。思わず腰が砕けた。
独身女ふたり、職場でそんな破廉恥(死語)な本を貸し借りしてると思われるとはっ。
ひどいっ、嫁入り前(死語)なのに~。
私はガックリと項垂れた。
とはいえ、おっちょこちょいな私には思い違いがたびたびある。
先日、noteに感想を投稿した、
柚木麻子・著『伊藤くんAtoE』もそのひとつ。
伊藤くんという顔だけがいいイタい男の周囲にいる、AからEまで5人の女性たちを描いた物語なのだが、私はずっと『伊藤くんAtoZ』だと思い込んでいたのだ。
伊藤くんと26人の女たち。
いくらなんでも多すぎだよ、伊藤くん。
叱ってやりたいと思っていたら、ただの私のカンチガイであった。
そうそう。他にもあった。
米澤穂信・著『折れた竜骨』。
中世ヨーロッパを舞台に、魔法と剣といったファンタジーの世界にミステリーを融合させた、これまた名作。
この作品を私は、『折れた背骨』だと思って読んでいた。
背骨、折れたら痛いだろうなー、
と、内心ずっと同情していたのだ。
でも読めども読めども、背骨が折れて、満身創痍になるはずのシーンはどこにも出てこない。
上下巻読んでラスト、ようやく竜の骨だったことを私は悟るのだった。
あぁ、恥ずかしい。
間違いだらけの私の脳内本棚。
もしかしたら他にも気がついてないだけで、カンチガイしたままのタイトルがあるのかも知れない。